第八話 「音の迷宮と音声の謎」

「…ますか…」

どこからか声が聞こえる…。まだ寝始めたばかりだけど…。

「聞こえますか?」

その声で、私はすぐに起きる。

するとそこは、今までに見たこともない、水だけの空間が広がっていた。

水の中にいるせいで、視界がぼやける。だが、声の感覚はないはずなのにはっきりと声が聞こえる。

「ここは、どこ?」

と訊くと、

「私は水の精霊。七神の1人です。」

と帰ってきた。

…待て、七神?水の精霊??それにこの異空間は水だけ???

何が何だかわからないよ!!!

「どうやら、何が何だかわからなくなっているようですね。大丈夫です、時間は気にすることはありません。まだあなたが寝始めた時間ですから。」

いやそこじゃないねん、と言いかけたが、流石に神様に対してだと失礼すぎるから引っ込ませた。

「あなたは、これから未来を変えることができるようになるでしょう。あなたの『未来予知』の能力は、すでに未来を変えれるほどの力になっているはずです。」

は??と思った。『記憶旅行メモリートラベル』と『本音読取シンクトーク』しか使ったことないし、実際『未来予知』なんて、一回しか使ったことない。

どうなんだろうか、本当に使えるのだろうか。

「あ、ありがとうございます…、ちょっと試してみます。」

…とは言ったものの、どうやって帰るんだ?

「よろしい、そのままゆっくり目を瞑るのです。」

言われるがままに、目をゆっくり、ゆっくりと瞑った。


そして、深い眠りの世界へ、いざなわれた。


そして、いつの間に時は流れ、小鳥の囀りが聞こえる。

その音で目は覚め、起きるとそこは普通に、私の家だった。

戻ってきたと思い、息をつくと、下から足音が聞こえてくる。

母親だ。この柔らかい足音。

ワクワクしながらドアが開くのを待つ。

そして、かちゃっとドアが開き、

「あら?さくちゃん、起きた?」

と言いながら入ってきた。

「うん、おはよう!」

「おはよう。小鳥ちゃんの音で起きたのかな?」

「うん!環境音って、小鳥ちゃんとかの動物の鳴き声も入るのかなぁ?」

「そうかもね。」

…でもそうすると、何か引っ掛かることがある。

なんで小鳥ちゃんたちの声はしっかりと聞こえるのに、人の音声は、まだはっきりと聞こえないままなのか。

聞いてみたかったが、一つ変な予感がした。

…そう、『未来予知』の反応だった。

そしてその全貌が、目の前に泡として現れた。

「あら?この泡は一体?」

「お母さん、これ、私の『未来予知』という能力が生み出した泡なの。」

「へぇ、さくちゃんすごいね!それって私もこの泡でならみられるってこと?」

「どうかな?私しかみられないかもよ?」

「じゃあ試してみてよ。何か変わるかもよ!」

そう言われ、泡を触って起動する。

そこに見えたのは、と書いてあり、謎の空間が映し出されていた。

「これが、さくちゃんの次の舞台?」

「そう…みたい。今までよりも何か危なさそうな雰囲気。」

というのも、この空間は一応“住宅街“であるのだが、とても迷路のようで入り組んでいる。一歩間違えたら二度と帰って来れなさそう。

だけど、ここが舞台になるってことだから、私の幼少期のなのだろう。

「懐かしいわねぇ、ここってさくちゃんが二歳頃の時にきたことがある場所だわぁ。

確かあの時は従姉妹の家に向かってたよね。お父さんもここは迷うよって言いつつ自分が迷ってたところがとても面白かったね!」

「…へぇ、そんなことがあったんだ…。もう私はあの時に記憶をロストしてから全く思い出せないや。

俗にいう、フラグ回収ってやつ?」

「そうそうそれそれ!」

「なるほどね。ありがと、思い出させてくれて。」

「いいのよぉ!さあ、朝ごはん食べて学校に行くわよ!」

コクっと頷き、朝ごはんを食べに行く。なんだか今日はとっても暖かい空気が流れ、春がきたというメッセージを受け取れるような、そんな風が流れる。


朝ごはんを食べ終わり、準備を済ませ、学校へ向かう。

すると、どこからともなくあの声が。

『避けて、また奴よ。』

奴…?とりあえず、さっとその場を避けると、前のようにバイクが猛スピードで突っ込んできた。

そこに見えたのは、あの時のバイク暴走のクソ野郎だった。

やはりその顔はとても険しく怖いもので。また涙が出かけた。そして案の定舌打ちをして去っていった。

その場を逃げるようにして私は学校に着いた。ひとまず安全地帯について、一息つけた。

そしてこの前と今回のバイク野郎のことを報告した。すると今日は親が迎えにきてくれることになった。

もう安心、と思っていた矢先、また困難が待ち受ける。

そう、いじめっ子の存在だった。そいつは私を見かけると一直線で向かってきた。

そして、鳩尾に会心の一発を叩き込まれ麻痺スタンし、耳を一発叩かれ、そのまま横に倒れてしまった。

その時、私はあいつが「雑魚が、学校くんな」と言っているのが聞こえた。

私は目の前がうるうるし始めた。せっかく音の感覚が戻ってきたというのに、こんな風に貶され、朝やこの前の下校中にこんな危険な目にあう。

「…こんな生活、もうやだよ…。」

そんな言葉が漏れた。

そして教師たちが駆けつけてくる足音が振動と音で伝わってくる。安心し切った私は、そのまま意識を失った。


目覚めると、私はまた病院にいた。そばには教師と両親が見守っていた。

「…ん…?ここは…また病院…?」

「気がついたのね。あの子なら生徒指導でこっぴどく叱っておいたし、病院代も払わせるつもりだから大丈夫よ。」

「…そう、だったんだ…、ありがとう先生。」

結局今日も、まともに授業を受けることができなかった。

そのことを考えてると、「あの子なんて、消えて仕舞えばいいのに。」なんて思う時も出てきたが、逆にそんなことになったら私にも被害が及ぶ。

それだけは絶対に、何があったとしても考えないようにしようと、心に留めた。


結局今日は帰れそうになく、そのまま病院で一日入院することにした…。


そして、夜になり、病院食を食べ、歯を磨き、『記憶旅行メモリートラベル』の準備をした。

いつもと違う寝床で、落ち着かない空間で、『記憶旅行メモリートラベル』…、私に、こんな変わった条件でもだいぶする能力はあるのかなと思ったが、

…私にはある、と信じ、世界へとダイブする。


今日はベットの上で目覚めた。そして音の感覚を取り戻す旅へと出る。

だけど、どの音を取り戻したらいいのか。

「環境音」はクリア、残るは「機械音」、「摩擦、打撃音」、「音声」だ。

「ねえサーバー、この三つの音のうち次はどの感覚を戻せばいいのかな?」

と訊いてみる。しばらくすると返信が返ってきた。

『次に感覚を取り戻すなら、「音声」がおすすめです。会話が多めな記憶を引っ張り出しました。ぜひご検討ください。』

そのメモリーというのは、あの入り組んでる迷宮のような世界だった。

「OK、そこに行くね。」

『分かりました、いってらっしゃいませ。』

そう言うと、サーバーの人工知能はスリープモードになった。

「…よし、行くか。」

心の中でしか聞こえないような声量で決意を固め、世界へダイブする。


しばらくすると、世界が見えてきた。

「もうすぐ従姉妹の家ですよ〜!」

「さくちゃん起きて〜!」

その声で目が覚めると、私は車の中でゴロンと寝そべっていた。

…そっか、思い出した。

この日、私は従姉妹に会えることを楽しみにしていたせいで、なかなか寝付けずに眠い状態が続いていたんだっけ。

車が揺れて寝やすいから乗ってすぐに寝ちゃったんだよね。


そして従姉妹の家へ着くと、従姉妹が出てきて、

「おー!ヨシヨシ!」と言いながら頭をわしゃわしゃ撫で回す。

優しい手の温もりと感覚で、またうとうとし始めてきた。

すると、未来が見えてきた。

内容は…

「道に迷いすぎて帰り道が分からず、何者かに殺されかける」

…!?

おかしい、私の記憶にはそんなことは書いてなかった…。

奇跡を起こしたのか、私の記憶データの破損なのか…。

そして、私は無事に返ってきて、人間の音声の感覚を取り戻せるのだろうか…。


続く…。

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