第二章 -一難去って、また一難-

第七話 「多少の感覚が戻った休日、そして次の冒険へ」

ちゅんちゅん、と鳥が囀っている。これもまた、今までは感じ取ることのできなかった感覚だ。

初めてこの音で起きた時、今までよりも気持ちが良く起きれた。

耳元に目覚まし時計のスピーカーを近づけて大きな音で起きる…いや、それでも小さく聞こえたな…。

これは今までよりもとっても心が晴れる。音が戻ってよかった。と心の底から思っている。

気持ちのいい朝だ。昨日の私とは全然違う。私は一度、伸びをして日光を浴び、リビングへと向かう。

今日は日曜日。学校もなく平和な日。いじめられることもない、とても穏やかな陽気。陽の光も、温度もちょうどいい。散歩するなら、このような日がベストだ。

そうなればと思い、私は今までの旅を振り返りながら、海沿いを歩こうかなと思い、準備し始める。

「お母さん、ちょっと散歩に行ってくるね!」

「あら、いいわね!気をつけるんだよ!」

「うん!行ってきます!」

母はいつも快く送ってくれる。私はこの家庭に生まれてとっても幸せだ。


いざ外に出ると、今まで聞こえなかった鳥の音や車の音など、今まで補聴器なしだと全く聞こえなかったものが、今では聞こえるようになっている。

だけどまだまだ、感覚は完全に戻っていない。これからどんな冒険をするのか、私も今では楽しみになっている。

風も心地よく、体感温度もとてもちょうどいい。今まで重かった足も、今では軽くなったように感じるほど、ウキウキしている。

海までの道のりは、私の家から歩いて10分のところに浜がある。

そこはまるでオアシスのようになっており、釣り客はもちろん、海水浴、日向ぼっこ、散歩など、幅広い目的で来る。土日は散歩したり日向ぼっこしたりに来る人でいっぱいだ。

この日のために、私はお弁当を用意していた。

…でもコンビニで買ってきたものだけどね。うん。

実を言うと私は料理がとても苦手で、さらに散歩に行こうなんて、たった今思いついた考えだから、お昼ごはんもピクニックみたいにして食べようかなと思っていたところだった。

因みに、料理はどれくらい下手なのかというと、カレーが辛すぎるほど。

私の家庭ではルーからではなくスパイスから作るので、配分が苦手な私はこのように火を吹くほどの辛いカレーが出来上がってしまうのだ。

今でもたまにこのカレーを作るが、父と母は余裕で食べ尽くすのに、私は火を吹く。自分で作っておいて自分でそれを食べれないのは、私もどうかしてると思ってはいるが…。

「すぅぅぅ、はぁぁぁ…。」

「一応言っておく。市販カレーの辛口は余裕。」

心の中で話している内容が聴かれていると錯覚した私は咄嗟に言った。

今回買ったお弁当は「唐揚げカレー弁当」。その名の通り、カツカレーのカツが唐揚げになっただけな弁当だ。

私の好物の一つで、カレーのピリッとした辛さと唐揚げのジューシー感が絶妙に合わさって、目が飛び出るほど美味しい。

ほんの息抜きのためには、ちょうどいいご飯だった。


お昼ご飯も食べ終わったところで、引き続き散歩に出かけた。

今までに私はどんな冒険をしたのだろうと気になったりもした。

ちょうどいい気候だし、堤防の階段に座って日向ぼっこしながら思い出してみようかなと思う。

まず、いじめられ始めたあの時。音が聞こえないというデバフが引き起こしたのだ。なぜ人々はひとつ違うところがあるだけでこうやって責めるのかな、と思った時期もこの時期だ。

そして私は「記憶旅行メモリートラベル」の能力や、「第六感V・F・A」の能力に目覚める。そこから本格的に音を取り戻す記録がはじまる。

…でも待てよ?どうして私は記憶世界に入ることができるのか…?

————結局、何も思い出せなかった。

そしてそのあと、音を取り戻すために四歳の頃の記憶へダイブし、残酷な運命と、かすかな希望が見えてくる。ここさえ乗り越えれば、私はきっといじめられにくくなると思い、記憶世界と現世を往復してきた。そして昨日、私は『環境音』の感覚を復活させた。

最後に快感を味まい、という感じだろうか。

最初は「記憶旅行メモリートラベル」で音が戻るのか不安だったが、多少のリスクは伴うものの、希望が見当たり次第突っ込め、という感じでいけば、私も好きになれる。他のことも、全く同じことが言えるのかなと思う。

別にミスは恥ずかしがるようなことではないと思う。なぜなら、今後の成長につながるから。

…それから私は、とても長い距離を歩いた。

もうすぐ夕陽が沈みそうな時間帯まで、私は歩き続けたのだった。

そろそろ帰ろうと思い、堤防を降りて、自分の家へ帰ろうとした。

だけど私は「家まで40分歩かなければならない」ということに絶望した。

だけどなんとしてでも家に帰らなければ、親が心配してしまう。

生憎なことに、今回はスマホを家に忘れた。連絡手段もないのでひたすら歩くしかなかった。

だけど今日の私はツイていた。信号が私の通る時は必ず青の状態だったと言うことだった。


「ただいま〜!」

家の2階まで響くような声で言う。すると親が出てきて、

「遅かったじゃん!スマホももってかないで何してたの?。」

「お昼ご飯食べたり、日向ぼっこしたり、記憶を辿ったり!」

「ここから歩いて40分のとこまで歩いて行ったよ!」

「すっごいねぇさくちゃん。いい調子だ。」

「じゃあ、夕ご飯食べて寝ますか。」

帰ってくる頃には、できたてホックホクなディナーが勢揃い。

これを見るともう、私はすぐに食らいつき、食べ過ぎと思われるくらい大食いをする。

「私の胃袋ってどうなってるんだろう。」という疑問が浮かんだが…。

…ほぼ関係ない。


さて、と今日はそろそろ寝ようとしますか。と親に伝える。

「おっけ〜!おやすみ〜さくちゃん〜!」

…やっぱ最高。

限界オタクっぽくなってるけど許してね。うん。

そして私は布団に身を包み、すぐに熟睡してしまう。

さて、明日からまた学校だし、記憶を取り戻す旅も始まる。

今週も頑張ろう、私。

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