奇跡の生還
とりあえず意識も戻って間もない、という事で、王女殿下に無理はさせないためにすぐさま退出した。
さて、まずは専門家の意見を聞きたい。
というわけで担当医師に話を伺う事にしよう。
―・―・―・―・―・―・―
「まあ、端的にいうなら、いわゆる記憶障害ですね。今回は外傷性のものだと思います」
いちおうトップシークレット事項なので、他に誰もいない個室で密談。王女の状態を説明してくれるのは、王宮医も務めるトーマス・ブレニム医師だ。エデンブルグ王国一とも言われる名医である。
「記憶障害……が起きるくらい、強く頭を打った、ということですね」
「ええ。ですがそのくらいで済んで僥倖だったと思われます。運が悪ければ即、命を失っておりましたので」
「ですが、そういえば……予断を許さぬ状況、とお伺いしておりましたが……」
「いまの殿下は、脈も自発呼吸も安定しておりますので、容態に関してはもう心配はいりません。まあ……なぜ、あんなに急激に回復されたのか、という疑問はあるにせよ」
「……え?」
「正直に申しますと、王女殿下が
いやいやいやその記憶の改ざんっぷりが大問題なんだってば。
正直、わからないんだよ。ミュリエル王女が助かって良かったのか、悪かったのか。このまま愛するジェベルと一緒にあの世へランデブーした方が幸せだったんじゃないのか、とか。
もしかすると、これ以上生きるのを辛くしないために、神が記憶を操作したんじゃないのか、とか。
くだらないことたくさん考えちゃうよね、サレ側としては。
…………
まあ、今そんなことを考えても仕方ない。話を聞く限りでは、頭部強打して脳挫傷を起こしたが奇跡的に回復した、みたいな認識でいいだろう。
あとは、回復したら。
日常生活が送れるくらいの記憶が残っているのか、それともほかにも忘れた記憶があるのか。
確かめてみなければならない。
「……ところで」
「はい」
「ジェベル……ゲイロード侯爵子息の容態はどうなんでしょう」
ついでに間男の動向も把握しておこう。
そこて、ブレニム医師はちょっと眉間にシワを寄せ、ため息交じりにこう言った。
「まあ、もう侯爵令息の毒牙にかかる犠牲者が出ないと思えば、これはこれでいいのかもしれません」
「接合や、欠損の回復はできないのですか?」
「欠損の回復は……幻の万能薬があれば可能かもしれませんが、現実的ではありません。接合は……たしかに、私ならばできなくもないとは思うのですが……気が進みませんね」
あっ。
察した。たぶんこの人もジェベルに恋人を寝取られてるか、それに近い目に遭ってるわ、これ。
三代先まで呪ってやるみたいな意思が瞳の奥から見えたもの。
「ま、まあ、接合しようとして万が一うまくいかなかったら、侯爵家からお叱りを受けるかもしれませんので、いくらブレニム医師といえど無理はなさらないほうがいいですね、は、はは……」
慌てて取り繕った俺の言葉に、ブレニム医師はただ無言で頷くだけだった。
……もし俺がちょん切られちゃったときは命をかけてでも救ってもらえるように、ブレニム医師とは仲良くしといたほうがいいかもしれん。
いやもちろん、ちょん切られるようなことをするつもりはないけどな!
保険は大事だよ。
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