初仕事

夜、俺はベットに寝そべり自分の携帯と向かい合っていた。

なぜこんなことをしているのかというと、今日の放課後に小川こがわ先輩に「依頼のことは後で私から君に連絡しよう」と言われたからである。

「あとでっていつのことだよ」

まさか、また長いこと待たされるんじゃないだろうな。

まあ、あの人は本郷ほんごうとは違うし大丈夫だろう…

……

本当に大丈夫だろうか?あの人も結構抜けているところがありそうだからな。

そんな心配をしていると目の前の携帯が鳴る。

「お!きた」

俺はすばやく携帯を取ると画面を確認する。

やはり、予想どおり小川先輩だ。

どうやら少し電話できないかというお誘いらしい。とりえあず「大丈夫です」と送っておこう。

すると数秒後にまた携帯が鳴り響く。今度はメールじゃなく電話だ。

「はい」

「やあ後輩。突然の電話ですまないね」

「いえ、特に問題ありません」

「君にとっては生徒支援の仕事は初めてだろうから。メールより電話のほうがやりやすいと思ってね」

たしかにメールより電話のほうが疑問を感じたときに聞きやすいしな。

「助かります」

「それじゃあ、生徒支援の依頼について話そうか」

「はい!」

「君も今日聞いていたととおり、生徒会に来ている依頼は二件。どちらも人間関係についての依頼だ」

「人間関係…」

「そうだ、なんだか自信なさげだな」

「他人の人間関係に首を突っ込むのがちょっと…」

「気持ちはわからないでもないけど、依頼が来た以上仕方がない」

「そうですね。続けてください」

「ああ、まず一つ目の依頼だが、ある二人の仲を取り持ってくれという依頼だ」

「仲を取り持つですか?」

「ああ、依頼人はサッカー部のマネージャーである有本ありもとまな。内容の詳細は今からメッセージで送ろう」

「助かります」

電話で言われてもさすがに覚えきれないしな。

しかし、生徒支援の仕事内容を聞いていた時からこんな気がしていたが…

やはり依頼内容は人間関係のことだったか。

正直、気乗りしない。小川先輩も言っていたが依頼が来た以上しかたがない。

仕方がないんだが…

どうにもこればっかりはな…

今までの経験上、他人の人間関係に首を突っ込んでいいことなんて一つもないからな。

「メッセージはみたか?」

「あ、すいませんすこし考え事をしていました」

「いろいろあって頭を悩ませたくなる気持ちもわからないでもないが今は仕事に集中してくれ」

「すいません…」

そうだよな、小川先輩も俺を生徒会に入れるために協力してくれているんだもんな。

俺が集中しないでどうする。

俺は二回ほど頬を叩き、気合を入れなおす。

「では依頼内容を見させてもらいます」

「ああ」

そう一言いい。俺は小川先輩から送られてきたメッセージを見る。

「これは…」

小川先輩から送られてきた依頼内容は一言で言うと、

「かなりむずかしそうですね…」

「ああ、正直な」

小川先輩から送られてきた依頼内容はキャプテンと元キャプテンの仲を取り持ってくれという内容だった。

「キャプテンはわかるんですが元キャプテンってどういうことですか?」

まあ聞かなくてもだいたいわかる。

元が付くっていうことは…

「キャプテンを辞めさせられたということだろうな」

「一体なんで…」

「詳細は書かれていないようだな」

「そうですね」

書かれていたのは依頼人の名前と仲良くさせてくれということ、そしてキャプテンと元キャプテンの名前だけだった。

「なんだか、依頼にしてはどうにも雑さが目立ちますね」

「この依頼の手紙は誰に見られるかわからない、もしかしたら不仲の理由は内密でなければならないような内容なのかもな」

「ていうことは後日このマネージャーに直接聞くのが一番ですね」

「ああ、だが生徒会が突然サッカー部のマネージャーを呼び出したなんてばれたら不審がられる。そのため接触には十分気を付けないといけない」

「そうですね…」

内密でないといけないような不仲の理由。

めんどうな気配がするな。

まあ、なんどもいうけど依頼が来た以上仕方がないんだが…

「じゃあ次の依頼の話をしよう」

次の依頼…

正直に言ってこっちの方が面倒そうなんだよなー

「依頼人は椎名美代しいなみよ依頼内容は不仲になってしまった友達。宮崎みやざきゆかと松本まつもとあかりの仲直り」

「そうですね。ただ理由がちょっと…」

不仲になってしまった友達同士の仲直り…

ここまでならまあいい。問題は不仲になってしまった理由の方だ。

ことは二週間前、松本あかりがバスケ部の先輩である。森下ゆうやに告白され付き合うこととなった。まあここまでならどこにでもある普通のことだ。しかし、不仲になってしまった原因はここからだった。実はこの森下ゆうやという男は女癖が悪くいと噂になったことのある人間だった。そのことを知った宮崎ゆかは松本あかりを守るために別れるよう言った。しかし、松本あかりはそのことを信じられず、喧嘩に

「森下ゆうや……聞いたことがないですね。小川先輩はどうですか?」

「私もないな。ていうかこの森下ゆうやって奴は私の学年じゃないぞ」

「それはほんとうですか?」

「ああ、聞いたことがないからな」

「いや…」

それは小川先輩が他人に興味ないだけなのでは?と言いたいところだがまあいい。

「まずは森下ゆうやについて調べる必要性がありますね」

「そうだね。よくわかっているじゃないか」

「まあ、森下ゆうやのことを知らないと先に進めないですからね」

もし、森下ゆうやを調べて女癖が悪いといううわさが嘘ならこの依頼は宮崎ゆかの説得だけで片が付く。問題は森下ゆうやが噂通りの人間だった場合の方だ。

「わかっていると思うがこの依頼は一個目の依頼よりもデリケートだ。慎重に動かないといけないよ」

「はい…」

一個目の依頼である。キャプテンと元キャプテンとの仲直り。

二個目の依頼である。宮崎ゆかと松本あかりの仲直り。

この二つの依頼を解決し、生徒会メンバーになるための足掛かりにする。

やれるやれないじゃなくやらなければならないこと…

「続きはまた後日、学校で直接話し合おう」

「はい」

そう小川先輩に言われ通話を切る。

そうして静かになった部屋で一人俺は考える。

これからのことを…











そして翌日、俺は小川先輩に呼ばれ、放課後の空き教室に顔を出していた。

「やあ。後輩」

「こんにちは。小川先輩」

そんな軽い挨拶をすませ、俺たちは空き教室に置かれた椅子に腰かける。

「昨日話した通り、君を呼び出したのは依頼について話し合うためだ。まあ、話し合うと言ってもすこし方針を固めたらすぐにうごくから」

「わかりました。ですが一ついいですか?」

「なんだい?」

「いえ、動くということは依頼人に会いに行くということですよね?それなのに放課後ってすこし遅くないですか?一つ目の依頼人は部活動で残っているかもしれないけど二つ目の依頼人はもう帰っているかも…」

「その辺は抜かりないよ。二つ目の依頼人である椎名美代は吹奏楽部でいまも練習中だ。松本あかりや宮崎ゆかも吹奏楽部に所属しているし、森下ゆうやも体育館で練習中だから」

「なるほどそうでしたか」

昨日の電話では依頼人が吹奏楽部とは言ってなかったし、今日学校で調べてくれたということだろうか。

なんだか申し訳ないな。

もともとはこの仕事は俺一人が解決しなければいけないことだったのに。

「じゃあ、今後の動きについて話していくぞ?」

「はい。わかりました」

「まず一つ目の依頼だが、君はどう動くべきだと思うかね?」

「どう動くべきですか?」

「ああ」

「それはやっぱり依頼人であるサッカー部のマネージャーに話を聞きに行くことじゃないでしょうか」

「うん。それはそうだね。しかし、それよりがあるよ」

「すべきこと?」

なんだろう。俺が言ったことより先にすることなんて他にはないだろう。

「キャプテンや元キャプテンの話を聞くとかじゃないですよね?」

「ああ。それはマネージャーの話をきいたにすべきことだ」

「んー」

まったくわからん。

てか答えを知っているなら教えてくれてもいいのに…

「あ、先に言っておくとこれは君に対して意地悪しているとかそんなことじゃないよ。これから先、君にはいくつもの試練が待っている。その試練のなかには自分一人で解決しなければいけないようなもの出てくると思う。そんな時にちゃんと解決できるようにこんなことをしている」

たしかに。

いつだって先輩や本郷に頼れるわけじゃない。

いつかかならず自分の力で解決しなければいけない事態に直面する。

その時のために……

くそ。なんだか

「どうした後輩?そんなしかめっ面をして」

「あ、いえ別に…」

「はあ、まさか降参かい?」

「はいすいません。いくら考えてもマネージャーに話を聞くことより先にすることなんて思いつかないです」

「しかたないな~。今日だけだぞ」

そう言った小川先輩はにやりと笑った。

なんだかうれしそうだ。

たぶんいつも身長で下に見られてたぶん先輩づらできてうれしいんだろうな。

しかたない。

ここは乗ってやろう。

わからないのも事実だしね。

「さすが先輩なんておやさしいお方!俺小川先輩に一生ついていきます!」

「その胡散臭いセリフを今すぐやめろ」

「あ、はい」

しまったやりすぎた!

「はあー。じゃあ答えを教えるぞ」

「はい、先輩」

「答えは、依頼人の調査だよ」

「依頼人の調査…それはこの有本まなさんを調べるということですか?」

「今回の依頼ではそうなるね」

「どうしてそんなことを?」

「簡単なことだよ。依頼人が嘘をついていないか。なにか裏に意図はないか。それを調べてからでなかければ彼女を信頼できないからだ」

「嘘って…生徒会に依頼を出してまでそんなハイリスクなことしますかね?」

「するだろう。そのリスクに見合った何かがあれば」

んー

するかなー

「正直、嘘をついてだましたりすることに利点があるとは思えないんですが…」

生徒会に嘘をついてだましたとして、なにか変わる者なのか?

ただの嫌がらせにしかならないだろう。

「君はまだ生徒会のことをわかってないみたいだね」

そういうと先輩はため息をついた。

「じゃあ、嘘をついてだましてなにを得れるんですか?」

「生徒会が依頼をこなせなかったという結果が得られる」

「は?」

なにをいっているんだこの子は

「その結果にどんな効果があるんですか?」

「十分な効果だろう。生徒会を貶める材料としては」

「貶める…」

「もっと正確に言えば生徒会長である本郷を貶める材料と言ったほうが正しいな」

「いったい誰がそんなことを…」

「誰って?そんなものたくさんいるよ。生徒会長の座を狙っている奴。生徒会長に恨みを持っている奴。ほかにもいろんなやつがあいつを貶めたいと思っているよ」

「ま、待ってください。でもおかしくないですか?別に本郷がミスをおかしたわけじゃない。それなら本郷を貶める材料としては弱いんじゃ…」

「別に弱くはないだろう?会社と一緒さ、部下が大きなミスをした場合、結局責任を取るのはその部下ではなく社長だろ?」

まあそうだけど…

「なっとくいかないって顔してるな」

「ええ。まあすこし…」

「仕方ない、上に立つということはそういうものだ」

俺は今まで生きてきた中で人の上に立つということをしたことがない。

それでも、その上に立つ者の責任ってやつをすこしだけわかったような気がする。

「依頼人を調査することの重要性がわかったかね?」

「はい!」

「お、いい返事じゃないか」

そういって小川先輩はクスリと笑った。

「じゃあ、さっそく向かおうか」

「サッカー部にですよね」

「いや、三年の教室」

「え?」

意味が分からん。

「いや、サッカー部じゃないんですか?」

「依頼人を調べるのに馬鹿正直にサッカー部に向かってどうするんだ。どう考えても生徒会の人間がうろちょろしてたらあやしいだろ」

「たしかに」

「君はあれだね。本当に本郷から推薦をもらったのかね?」

うわー、なんもいえねーー

俺は疑うような目線を送ってくる小川先輩と一緒に三年の教室へとむかった。

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俺とあいつは絶対に合わない! ソーマ @souma117

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