ここから
「あなたを生徒会に推薦します」
「はぁ~」
とんでもないことになってしまった。
あの後、生徒会に入るための協力を約束させられ、「本格的に動くのは明日からになるから今日は帰っていいわ」とありがたいお言葉をいただき、現在帰路についている。
「しかし…」
俺が生徒会にか。
正直、こんなことになるとは予想外だったな。
たまたま拾ったかなり痛い日記の持ち主が本郷あかりで、そしてその流れで生徒会にまで推薦されるとは。
だが、ほんとうに俺が生徒会に入ることはできるのか。
本郷はかなり自信満々で言っていたが、実際厳しい状況だと思う。
俺が少しでも勉強や運動ができる生徒であればもうすこし状況は良かったんだが…
「定期テストの学内順位も下から数えたほうが早いからな」
それに俺は特に目立つ生徒ってわけでもないしな………
……
…
なんだが本格的に無理な気がしてきた。
そんな絶望的な状況にため息をついていると。
ふとあの言葉を思い出した。
「私を誰だと思っているのよ」
「私は本郷あかりよ。できないことなんてなにもないわ」
まったく。
くそ生意気だけど、なんだが勇気が湧いてくる。
「さて。俺も頑張りますか」
別に生徒会に入ること事態は嫌じゃない。
生徒会に入れば就職や進学が有利になるしな。
そういえば本郷は生徒会長のまま卒業した場合の特権を何に使うんだろうな。
まあいいか。俺には関係ない。
そんなことを考えていると背中を突然押された。
「お兄ちゃん!おかえり!」
「突然押すなよ。びっくりしたじゃないか」
だれかと思ったら俺の妹だった。
「今日はずいぶんと遅いんだね。また雑用?」
「いや。今日は別の用事。そっちこそ今帰りか?」
「うん」
「最近はいつも帰りが遅いのか?」
「うん。ちょっとね」
「へぇー」
どうやら妹も最近は忙しいみたいだな。
翌日の朝。
俺が一人で学校へ向かっていると一人の生徒が声をかけてきた。
「やあ、生意気な後輩じゃないか」
「えっと」
「ん?もう私のことを忘れたのか?」
「いえ。そういうわけじゃないです。ただ、まさか
身長が小さく髪をサイドでまとめた女の子。生徒会の会計、
この人とは日記を返したときに少し話した程度だったからまさか登校中に話しかけられるとは予想外だ。
「私だって知っている顔を見たら話しかけぐらいする。特に君は覚えやすいしな」
「えっと。まだ怒ってます?」
「もう怒ってないよ。さすがにそこまで引きずることじゃない」
たしかに怒ってはいないようだな。
もし、生徒会に俺が入ることになったらこの人とも一緒に仕事をすることになるからな。さすがに気まずくなったままだと居心地が悪い。
そういえば、本郷の日記を渡したのはこの人だったよな…
「小川先輩。そういえばまだお礼を言ってませんでしたね。手帳を届けてくださりありがとうございます」
「ああ。気にするなそれぐらいのことなんでもない」
うん。そんなに悪い人じゃないのかもな。
ていうか、初対面の印象が悪いのは俺のほうだしな。ここは汚名返上といこうじゃないか。
「なんだか嬉しいですね。小川先輩のような偉大な生徒に朝から話しかけてもらえるとは。俺はなんて幸運なんだ」
「その露骨に媚びを売るような発言をやめろ」
しまった。わかりやすすぎたか!
しかし。どうにも小川先輩の態度からしてただ顔見知りがいたから話しかけたってわけじゃなさそうだな。
さて、どうしたものか。
そう俺が考えていると。こちらを観察するように見ていた小川先輩の視線に気づく。
「えっと。なんでしょうか」
「いや。なんでも」
この反応。もしかして
「もしかして。生徒会長から何か聞いてます?」
そう聞くと小川先輩はすこしため息をついてジトっとした目で言った。
「ああ、ある程度のことは聞いているよ」
ある程度。
「ちなみにどんなことを聞いたんですか?」
「君を生徒会に推薦したこと。だが平凡な成績の君を生徒会に入れることは難しいこと。それぐらいだな」
「なるほど」
やはり顔見知りがいたから声をかけたわけじゃないみたいだな。
そして今の話を聞いて俺に話しかけてきた意味なんとなく分かった。
だって今の話には肝心な部分が抜けている。いや抜けているというよりあえて抜いている。だってその部分は俺と本郷あかり以外知られるわけにはいかないからな。
「じゃあ。俺に話しかけたのは」
「そうさ、君がどんな人間か確かめるためにだよ。なぜ君が本郷に推薦されたのか、その理由を」
「やっぱりそうでしたか」
「私自身、君のことは調べてみたんだかな。成績平凡。運動神経もいいわけじゃないしなにより君はこれまで目立たない生徒だった。そんな君のどこに本郷が推薦する理由があったのか。それを知りたくてね」
うーん。
いやー、実は本郷の痛い日記を見たことが本人にばれてしまって、そのあと、本郷に睡眠薬入りの紅茶を飲まされて、意識喪失。気が付くと本郷に脅しのネタを握られ、しかも監視のために生徒会に入れって言われたんですよ。
まあ。こんなこと言えないわな。
さてどうするか。そう頭を悩ませていると学校の方から予鈴の音が聞こえてくる。
「まずい!立ち話し過ぎた!」
「はやく、学校に向かいましょう!」
その言葉に小川先輩はうなずくととんでもないスピードで学校に走っていった。
「いや、速すぎ…」
あんな小さいのにそんなスピードが出るのはおかしいだろ。
いかん。俺も急がねば。
次に小川先輩に同じ質問をされた時にはちゃんと答えられるようにしないとな。
ぎりぎり本玲までに間に合った俺は、自分の席に座り先生の登場を待っていた。
「おはようー!」
「「おはようございます」」
「うんうん。みんな元気があって大変よろしい!」
なんだか上機嫌だな。
そう思っていたらクラスの生徒である山田が
「先生なんだか上機嫌ですね」
「そうなの!みんなにはまだ言えないんだけどすごいことがあってー!」
「へえー」
なんだ一瞬こっちを見たような。
「まだ確定してないから言えないけどみんなもびっくりすると思うよ!」
そんな意味ありげなことを言われて、クラスメイトの何人かは「先生教えてよー!」
と言っていたが、本当になんなんだろな。
そんなこんなでホームルームが終わると先生は俺に向かってこう言った。
「安藤くん。ちょっといい?」
「はい」
俺は先生に連れだされ、廊下の端へと移動する。
「えっと。それで何の用です?」
そう尋ねると先生はニヤニヤとこちらを見ていた。
本当になんなんだ?
「いやー。あの
「本当になんです?さっきから」
「聞いたわよー。まさかあの本郷さんから推薦されちゃうなんて!」
「な、なんで推薦のことを知っているんですか?」
同じ生徒会のメンバーである小川先輩ならわかるがなぜ担任教師がである神薙先生が知っているんだ。
推薦書を教師陣に出すのは、俺が生徒会としてふさわしいと認められるだけの実績を上げた後だと言っていたはずだが。
「なんでって、そりゃあ本郷さんが言っていたからよ?」
「言っていたですか。具体的にどんなことを?」
「えっと、たしか話があるって言われて…「先生が受け持っているクラスの生徒である安藤くんをこのたび生徒会に推薦しようと思っています。なにかありましたらどうぞお力を貸していただけませんでしょうか」たしか、こんなことを言っていたような気がする」
「なるほど」
「ほんとすごいわね!生徒会に推薦だなんて!」
「先生が言った通りまだ確定してないですけどね」
「たしかにそうだけど大丈夫よ!良太はがんばればできる子だもん!」
だもん!って言われてもな…
まあいいか。
それより本郷の奴いろいろ裏で動いているみたいだな。
今日の放課後、生徒会にでも寄って方針を聞いとかないとな。
そして放課後。
俺は授業が終わったあとそのまま生徒会へと足を運んでいた。
「今日もほかの生徒会メンバーはいないんだな」
「ええ。ほかのメンバーには休みを取らせているわ」
「メンバーがいなくて仕事に支障はないのか?」
「あなたに心配されなくても大丈夫よ。まだ5月の半ば、仕事がそれほどあるわけじゃないのよ」
「なるほどな」
いやいや。こんな雑談をするために生徒会に来たわけじゃない。
俺は本郷あかりに聞きたいことがあってきたんだ。
「それで?私になんのようかしら?」
「なんのようかしらじゃないんだよ。昨日生徒会メンバーになるために実績を立てようと決めただけで結局今後の方針を聞いてないんだが?」
「そうだったわね。盲点だったわ」
こいつ大丈夫かよ。
「今後の方針の前に一つ、気になることを聞いていいかしら?」
「なんだよ?」
「あなたたしか妹がいたわよね。なにか変わったところとかなかった?」
「変わったところ?」
「ええ」
変わったところねー。
最近とかだと帰りが遅いとかかな?しかし妹もつい最近入学したところだし友達と遅くまで学校で話をしていてもおかしくはないよな。
「特になかったかな。ていうかなんでそんなこと聞くんだよ」
「いえ、なにもないならいいのよ。気にしないで」
一体何なんだよ。
「それじゃあ、今後の方針について話しましょうか」
やっと本題だな。
「まず。今の現状から話していきましょうか」
「ああ」
「今のあなたは生徒会に入れるだけの成績や運動能力。その他すべてが足りていない」
「すごくひどいこと言ってないか?」
「事実なんだから仕方がないでしょ」
事実でもオブラートに包めよ!
なんていえないよなー。これに関しては俺が悪いし。
「そんななんにも足りていないあなたが生徒会になるためには教師陣を黙らせるだけの実績を積むしかない。ここまではわかっているわよね?」
「ああ。もちろん」
「だけどいきなり教師陣を黙らせる確かな実績を積めといっても無理でしょ?」
「たしかに」
まず確かな実績というところが漠然としすぎている。教師陣を黙らせられる実績とはどんな実績か、それをどう得るのか、このへんがあやふやで見えてこない。
それをいきなり実績を積めなんて言われても不可能だろう。
「それにあなたは致命的に目立たない。これが一番の難問よ」
「まあそうだよな」
目立たないということは普通ならそこまで問題じゃない。
芸人やアイドル、その他目立たないといけない職業はたくさんあるが、普通の人間は目立つ人より目立たない人のほうがトラブルが少なくて済む。
生徒会の中でも名前をあまり知られていない生徒は存在するしな。
だけど、俺の場合は話が別だ。
目立たない。これほど致命的なことはない。
なぜなら
「俺がどんなにがんばって実績を上げても目立たないなら意味がない」
「そうよ。正確には意味がないわけじゃないけど」
そうだな、意味がないわけじゃない。
俺が一人で実績を上げた場合のみな。
わかりやすく言うなら、たとえば学校で火事が起きたとする、消防車の到着まで俺が消火活動をしてみんなを助けました。こんな話があったとして事件のあと注目されるのはどこだろう。
たぶんほとんどの人は火事の原因、または一人消火活動していた俺のことに注目するだろう。
これなら俺の実績としてみんなの記憶に残るだろう。しかし、消火活動していたのがほかにもいたら?そこに目立つ生徒がいたら?だれも俺が消火活動していたなんて記憶しなくなる。
もしこれが本郷ならどうだろう。たとえ消火活動をしていた生徒が一人じゃなくてもみんなの記憶に本郷が一生懸命消火活動していたということが残る。
そしてそれは実績になる。
これが知名度の差だ。
「知名度がないとよほどインパクトが強いことじゃないとみんなの記憶に残りづらい。そして記憶されていないことは実績と言えない」
「そういうことよ」
「あ、じゃあ昨日神薙先生に推薦のことを話していたのは」
「ええ。彼女にはあなたを目立たせる役目をになってもらうわ」
神薙先生は一応常識ある大人だ。まだ確定していない情報をみんなのまえで言うようなことはしない。しかしそれと同時に身内である俺のことを自慢したいという子供みたいな感情も持ち合わせている。
その二つの理性と感情が葛藤し、今朝のような発言をしてしまう。
そしてそれは自分の受け持つクラスだけじゃなく教師陣または他クラスにも今朝のようなことを言っているのだろう。
そしてその発言を聞いた他クラスの子たちはいやでも俺のクラスに注目する。それが本郷の狙い。
だが、ひとつ腑に落ちない点がある。
「本郷が俺のことを推薦すると広めてはダメなのか?」
わざわざ神薙先生を使ってこんな遠回りしなくても本郷が俺のことを推薦しますと公言するだけで一発で注目の的だ。
「それはダメ。そもそもあなたが推薦されたこと事態ばれるわけにはいかないわ」
「ん?なんでだ?」
「ダメなところはいろいろあるけど一番は印象が悪くなるからよ」
「印象が悪くなる?どういうことだ?」
そう聞くと本郷は大きなため息をついた。
「自分を客観的に見てみなさい。成績平凡。運動も人並み。そして人付き合いもにがて」
勝手に苦手にするなよ。俺にまるで友達がいないみたいじゃないか。
「そんな人がいきなり生徒会に推薦されました。しかも生徒会長直々に。このことについてみんなが何も思わないと本気で思っているの?」
なるほどな。たしかにそうだなあきらか生徒会に向いていない奴が生徒会に推薦されましたなんてみんな納得いかないよな。あいつがなれるなら自分もなれる。なんで俺より成績が低い奴なんかが。もしかして生徒会長は弱みを握られているんじゃ。
こんな風にみんなが思うのは確かだろうな。
「印象が悪いか…」
そうつぶやくと本郷はやっと気づいたかというあきれた顔をした。
「まってくれじゃあ神薙先生と小川先輩はどうなんだよ!」
「あの二人は大丈夫よ。神薙先生は思わせぶりなことは言うけど推薦のことは絶対に言わないわ。そして小川先輩も口は堅い方よ。それに審査を乗り越えるためには二人の協力は必須よ」
まあ本郷が言うならそうなんだろうな。
「ん?小川先輩の協力も必要なのか?」
「ええ、あの人は優秀よ。小川先輩の協力を得るのと得ないとでは成功率が大きく変わるわ」
へえー。あの本郷がそこまで。相当優秀なんだろうな。
「だけど、あの人は協力してくれるのか?俺がなぜ本郷に推薦されたか怪しんでいたし…」
「その点については大丈夫よ。私から頼んでおくから」
「今回はかなりの難題だ。たとえ本郷の頼みでも受けてくれるのか?」
「大丈夫よ。彼女は私に借りがあるから」
まあそこまで本郷が言うなら大丈夫なんだろうけど。小川先輩、どんな借りがあるんだろうな。
「さてじゃあ。今後について話していきましょか」
やっと本題だな。
「今後についてだけどまずあなたの知名度を上げましょう」
「知名度を上げる?」
「ええ。もちろん推薦のことを伏せたままでね」
「それはわかっているがどうするんだ?」
本郷は簡単に知名度を上げようと言っているがことはそう単純じゃないだろう。
なんせ俺の場合、悪目立ちではいけない。みんなに好感を持ってもらわねば困る。
じゃなきゃ実績を得ることができなくなる。
「知名度を上げる方法として、あなたには生徒会の仕事をしてもらうわ」
「生徒会の仕事?」
「ええ。正確には生徒会の仕事の一部。生徒支援を」
「生徒支援?なんだそれ?」
「生徒支援とは、学校生活の中でのトラブルや生徒の悩みを解決する生徒会の仕事よ」
なるほど。お悩み相談みたいなものか。
しかし、
「そんなことをしても対して効果はないんじゃないか?」
「効果がないことはないわ。相談者の悩みを解決できれば間違いなくその人の中にはあなたが残るもの」
「だからって知名度を上げるためにはあまりにも効果が薄い」
「まずは地盤を固めるのよ。いきなり知名度を上げようとしてもかならず失敗する。だから一人一人集めていくのよ」
「なにを?」
「あなたに好感を持つ生徒をよ。そして…」
「そして?」
「7月にある体育祭であなたには教師陣を黙らせるだけの実績を立ててもらう」
「はあ?体育祭?」
「ええ」
一瞬、俺は本郷のいうことが理解できなかった。
体育祭で実績を立てる?そんなことが可能なのか?
まずなんの実績を立てるつもりなんだ?
俺は理解できない本郷の言葉にあたまがごちゃごちゃになる。
「まあ今はそのことは気にしないでいいわ」
「一番気になるところなんだが?」
「今はそんなことより生徒支援のことだけ考えてなさい」
まったくこの女は。
作戦を共有しようという心はないのかよ。
そんなことを考えていると本郷の腕時計が鳴り響く。
「あら。もうこんな時間ね」
その言葉に俺も携帯の時刻を見てみるともうすでに18時を回っていた。
「さすがに長話をし過ぎたようね。今日のところはもういいわ」
「もういいわ。じゃないんだよ今後おれはどう動けばいいんだよ」
「そうね」
そう言いうと本郷はこちらに携帯を見せてきた。
その動作が昨日俺を脅したときと一緒だったためすこしぎょっとしたがそこに書かれていいたのはQRコードだった。
「これ私の連絡先。あなたへの指示は追って連絡するわ」
「ああ」
まさか本郷から連絡先をもらうとは。
別に嬉しくなんてないんだからね。勘違いしないでよね。
まあしっかりと登録するんだが。
よしとりあえず今日のところは解散だな。
「じゃあまたな」
「ええまた明日」
俺はそう本郷にいい。生徒会室から退室した。
学校の廊下で俺は今日のことを考えていた。
知名度のこと。生徒支援のこと。そして体育祭のこと。
なんだか情報が多すぎて頭が痛くなるが、これだけはわかる。
「すっごくめんどうなことに巻き込まれたな…」
やっぱり生徒会になんてなろうとしなければよかった。
脅されている以上それは無理なんだがどうしてもそう思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます