ふたたび生徒会
最近になって思うことがある。
普通の時間って大事だなと。
なにも変わったことがない単なるいつもの日常。
しかし。結局そのいつもが俺たちにとっては大事でかけがえのないものなんだと。
だってそうだろ。いつものように起きて、いつものようにご飯を食べる。
あたりまえになりすぎてみんな忘れしまうが。
こんなに幸せなことはないじゃないか。
だから俺も今はこの幸せをかみしめていよう。
「お兄ちゃん!早く起きないと遅刻だよ」
「はい」
俺の幸せは終わった。
仕方ない、起きるか。
昨日俺は悩みの種であった
難問を解決した俺はそのことを妹に自慢しまくって、優雅な気持ちで眠りについた。
もちろん日記の内容については言っていない。
さすがに妹とはいえあの日記の内容を言うのは抵抗があった。
じゃあどんな風に言ったかって?
それはまあ。
「それにしてもすごいよねお兄ちゃん。生徒会長の弱みになりそうな書類を秘密裏に回収し、生徒会長のピンチを救ったなんて」
まあこんな風に話しました。
「あのお兄ちゃんがそんなすごいことをするなんて今でも信じられないよ!」
「あのは余計だろ」
そういうと
なんだか心が痛むな。
まあでも嘘は言ってない。
はず。
「それより早く学校に行かないとな」
俺がそういうと妹は慌てたように準備を始めた。
俺の通う学校、
特に俺なんかは平凡で目立たない。
だからこそ今日はおかしい。
俺が教室に入った途端。
周りの空気が静まり返った。
普段はこんなことにはならないのに。
すこし変わった空気に戸惑っていると近くにいたクラスメイトの
「あのー。
「ああ。森沢さんえっとこれは」
森沢さんは俺の返答に対して言葉で返さず俺の机を指さした。
俺は恐る恐る自分の席に近づく。
そこにあったのは一枚の紙だった。
丁寧に風で飛ばないように端に五百円玉がおかれている。
だが、紙が机に置かれているだけでこんな空気にはならない。
問題は書かれている内容のほうだ。
今日の放課後、生徒会室に来てください。
紙には短くそう書かれていた。
「これは…」
これは一体どういうことだ。
いや、なんとなくわかっている。
これはたぶん日記の件だよな。
くそ。嫌な予感しかしない。
俺が頭を悩ませていると予鈴の音が聞こえてくる。
「みんなおはよう!」
俺だけはその手紙から目が離せないでいた。
そして放課後。
結局俺は今日一日授業に集中することができなかった。
それもこれもこの手紙のせいだ。
まさか落とし物を届けただけで呼び出しまでされるとは。
「このままいかずに帰ったらやばいよな…」
普通の生徒からの呼び出しならまだしも、この手紙の主はあの生徒会長の本郷あかりだ。このまま行かずに帰ろうものなら後にどんな制裁があるかわからない。
俺は重い腰を上げて生徒会へと向かった。
それにしても俺の気にしすぎだろうか。
生徒会がある旧校舎はいつもより静かなものだった。
本来、旧校舎は生徒会だけが使っているわけではなく、数々の文系の部活の部室になっている。
だから放課後のこの時間はもうすこし騒がしい。
「なんか気味が悪いな」
まるでいまからラスボスと戦うみたいじゃないか。
まあ、ある意味ラスボスみたいなもんだが。
俺は生徒会室の前にたどり着くと覚悟を決めて扉をノックした。
そうすると中から短く「どうぞ」という声が聞こえた。
「失礼します」
俺は扉を開け、そして目を見開いた。
そこに立つ少女。それがあまりにも美しかったからだ。
「来てもらって申し訳ないわね。さあそこに座って」
その声に我に返り、彼女の前の席に腰掛ける。
「えっと。それでどういった用件で」
俺は恐る恐るそう尋ねると彼女は男なら誰でも惚れてしまうような美しい笑顔をこちらにむけてきた。
「そうね。だけど話をする前に紅茶を入れるわね」
「あ。はい」
なんだ。なんなんだ。
超怖い。
さっきからなんでこんな笑顔なんだよ……
……
…
もしかして、俺にお礼をするために呼んだのか…
ありえるな。
そう思えばなんで俺は怖い想像ばかりしていたんだ。
そうだよ。彼女はお礼をしたくて俺を呼んだに違いない。
だって俺がやったことは悪いことじゃない。
ただ日記を届けただけだしな。
うん。大丈夫だ。
「どうしたの?」
「いえ。何も」
「そう。はいこれ紅茶よ。冷めないうちに飲んで」
「はい。いただきます」
なんだか心配して損したな。
俺はそんなことを考えながら紅茶を一口飲む。
「それであなたを呼び出したことなんだけど」
さあて。なんて言おうかな。
ここはかっこよく。
(お礼は不要です。ただ当たり前のことをしただけですので)
おし。こうしよう。
「あなた。この手帳の中身をみたわよね」
俺はいきなり首を絞められるような感覚を覚えた。
「えっと。すいません持ち主を探すために少しだけ」
「いえ、大丈夫よ」
その言葉にすこし安堵した瞬間だった。
「やっぱりあなたをただで返すわけにはいかないわ」
「え」
俺の視界がいきなりぐらついた。
やばい。くそ!
この紅茶の中になにか………
……
…
「おきなさい。安藤くん」
そんな声が聞こえて目が覚める。
ゆっくりと上半身をおこすとそこには本郷あかりが立っていた。
「えっと・・・」
なんで俺は寝ているんだ。
たしか、今日の朝に放課後、生徒会に来るようにと手紙をもらって、そして放課後にここに来てから…
やばい記憶が抜けている。
まだ寝ぼけているのかな。
「おはよう安藤くん」
「えっと、おはようございます」
「ええ、調子はどう?」
「調子ですか?」
「ええそうよ。少ない量とはいえ薬を飲んだんだもの」
「薬?」
そうだ!俺はこの女がいれた紅茶を飲んだら急に眠気に襲われて。
「どういうつもりですか。薬を盛るなんて!」
「そんなに声を荒げないで、耳がおかしくなるじゃない」
この女。
さすがに薬を盛られて我慢できるほど大人じゃないぞ。
「このことは教師に報告させていただきますよ」
「別にいいわよ。けど証拠はあるのかしら」
「証拠…」
しまった。すでに証拠は消されて後か。
「なぜ、このようなことを」
「そんなの決まってるわ。あなたが私の秘密を知ってしまったからよ」
「秘密?」
「そう私の秘密を」
秘密。あの日記のことか。
「だからって薬を盛る必要があったのかよ」
そういうと彼女は満面の笑みでこちらに携帯の画面を見せてきた。
そこに写っていたのは。
俺が彼女に覆いかぶさる姿だった。
「えっとこれはなんでしょうか」
しまった!おもわず敬語に。
「これはあなたが寝ているすきに撮ったものよ」
まさか。
「それを撮るために…」
「ええそうよ。秘密は何が何でも守り抜く。私の尊厳のために」
じゃああんなこと書くなよ!ってツッコんでやりたい!
「襲われたと言ってこれを見せれば教師はどんな反応をするのかしら」
彼女は満面の笑みでそういう。
なんて性格の悪い女なんだ。
「秘密を言わないように脅すってか」
「そうよ。あなたが秘密を言えばこの写真をばら撒く」
「そんなこと言っているけど、俺がこの場で絶対に言わないと誓ってそれを信じられるのか?」
「たしかに、この場で誓われても信じられないわ」
「なら…」
「だからあなたを身近で監視させてもらうわ」
「身近でって…」
「そう身近で」
「どういうことだ?」
それに監視って。
「あなたを」
「あなたを?」
「あなたを生徒会に推薦します」
え?いまなんて
「生徒会?」
「そうよ。正確には生徒会の雑務に推薦します」
生徒会。
身近でっていうのはそういうことか。
しかし。
「それは無理だろ。いくら生徒会長の推薦でも成績平凡の俺が生徒会に入れるわけない」
しつこいようだが生徒会は優秀な人材がなるものだ。
俺のような成績、運動ともに平凡な俺が慣れるような組織じゃない。
「確かに。あなたは生徒会に入るための審査に引っ掛かってしまうものね」
審査。
学校の教育方針によって生徒会には高い権力が与えられている。
そのため、生徒会に入る者には学内の教師たちによる審査がある。
「だろ。成績平凡で確かな実績がない俺は教師たちの審査に落ちてしまう」
「そうね。だけど手はある」
「手はあるって、いまから成績を上げるとかか?」
「もしあなたが一年生ならそれでもよかったけど、二年生であるあなたはその方法は使えない」
「じゃあなんだよ。ほかに手なんかあるか?」
「あるわ。成績が平凡でも。運動ができなくても。教師を黙らせる方法が」
「なんだよそれ」
「あなたもさっき言っていたじゃない。確かな実績がないって」
「おいおいまさか」
「そのまさかよ。確かな実績。それを作りましょう」
「無茶だろ。たしかに実績があれば成績関係なしに審査に通ることはある。だけど相当高い実績が必要だ。そんなもの…」
「できるわ」
「だが…」
「私を誰だと思っているのよ」
「え」
「私は本郷あかりよ。できないことなんてなにもないわ」
凄い自信だな。
ていうか。
ここまで話してなんだがなんで俺生徒会に入る前提で話が進んでいるんだ。
まあいい。どうせできっこないだろう。
「あなたも協力してもらうわよ。安藤くん」
本郷は携帯を見せながらそう言ってくる。
「やっぱそうなるよな」
「ええ。これからよろしくね」
笑顔でそういう彼女をかわいいと思ってしまう俺は本当にチョロい男なんだろうな。
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