第11話 奥野視点 

累君が出ていった後の教室は騒然としていました。


「だ、大丈夫だった?」

「有馬さん、酷いよね。何も根拠がないのに奥野さんを犯人に決めつけてさ」


私の周りには心配してくれる友達が集まってくれていた。

心配してくれる事は嬉しいのですが、それよりも私には少しだけ杞憂があった。


「奥野さんの彼氏くん…ちょっとカッコよかったよね?」

「うん、うん。でも、なんで有馬さんを追いかけて行ったんだろう」

「そう言えば、松本君って有馬さんの幼馴染なんだって」


累君の好感度が上がっているのは嬉しいのですが、少し嫌な気持ちにもなります。

別にこれは嫉妬ではない…はずです。私はそんな感情を持つような人間ではないのですから。


やがて、慌てた様子で先生が教室に入ってきた。私は先生に近づき、悲しそうな顔をして言う。


「な、何の騒ぎですか!?」

「先生…有馬さんがいじめられているんです」

「あ、有馬さんが?」


先生が信じられないような顔で教室を見る。すると、一番に目がいくのは有馬さんの机に飾られた花でしょう。


「酷い…」

「はい、教室に入ったら有馬さんの机に花が飾られていました。まるで、死者へ贈る献花のようです。これは、いじめです。生徒会として、私はとても悲しいのです」


これでも私は学校内で優秀な生徒として通っています。累君からすれば、そんな訳無いと思われるかもしれませんね。

先生は生徒たちを一見してから、私に聞いてくる。


「有馬さんは、どこに行ったですのか?」

「教室を出ていかれました。とても悲しそうな顔をして、そっちに…」


有馬さんが向かった方向とは逆を指さす。先生は指を向けた方向に顔を向ける。


「わ、わかりました。森下先生、朝のホームルームは任せますね。私は有馬さんを探しに行きます」

「わかりました」


先生は階段を下りて、有馬さんを探しに行きました。

ガヤガヤと朝学活は落ち着きがありませんでした。生徒の皆さんからすれば、こういった事は珍しいのかもしれません。

先生が注意をしても騒ぎは一時的に収まるだけで、彼らの会話には、有馬さんについての話ばかりでした。朝学活はいつもよりも早く終わる。先生は授業の準備をするように言いながら下りていった。


今頃、職員は大騒ぎになっているはずです。有馬さんは、刺々しい言葉を使いますが、それでも成績優秀である生徒です。そんな生徒がいじめられているとなれば、学校側も問題を無視するわけにはいかないでしょう。


席を立って、私は後ろの席にいる平河さんに声をかける。


「少し、お話をよろしいでしょうか?」

「奥野さんが私に何のよう?」


平河さんは私の顔を見て面倒くさそうな顔をした。肘をついて、携帯を弄りながら私にそう聞き返してきた。


「いえ、少しだけ言いたいことがありまして」

「いいけど。いじめのことで私を疑ってるなら意味ないよ?だって私じゃないから」

「いえ、今回のいじめの話とは関係ありません」


私は笑顔でそういうと平河さんは、不思議そうな顔をしていました。

なるべく周りの生徒に聞こえるように私は声量を上げる。


「平河さんのお父様、会社を経営されているらしいですね」

「…パパがどうしたんだよ」

「少しだけ驚いたんです。お父様の力を使って、有馬さんのことを脅し続けているなんて相当酷い事をなさるんですね」

「な、なんでそれを…あいつ!」


平河さんは急いで教室を出て、電話を片手にトイレへと向かう。

あぁ、駄目ですよ。そんな反応をしたら、本当だとバレちゃいますよ?嘘を付く時はもっと自然につかないと。

トイレに向かうと平河さんは、誰かと電話しているみたいでした。まぁ、電話の相手は誰なのか予想できますが…様子を見ましょうか。


「パパ、お願いがあるんだけどさ。…え、なんで怒ってるの?私のせいで契約が無くなった?そ、そんなの子供の私に言われても知らない!パパが悪いんでしょ?!」


電話を切ったのか携帯を下に投げつける。


「ムカつく、あいつ…他にチクったら絶対に許さねぇ」


物凄く焦っているようで、爪を噛みながら平河さんはそう言っていた。

私はひょこっと顔を出すと目が合う。平河さんは、苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。


「んだよ」

「いえ、少しだけ言い忘れていました。貴方が過去にいじめていた小林さん、山本くん、寺田さん、などの複数の方から証拠を提出してもらったんです」

「は?そんこと…あり得るはず。だって、メッセージは全部消させた…」


そう言ってから平河さんは自分の口を手で抑える。私が前に出ると、平河さんは後ろに下がる。


「メッセージ上でのやり取りの写真、手紙などの証拠など…彼女たちは怯えながら私に協力してくれました。凄いですよね?全員がスクリーンショットを保存していましたよ?今頃は、学校の職員室で話題になっているはずですよ?…ついでに平河さんのお父さんが経営されている会社などにもメールを送りました」

「え、ちょっと待ってよ。何その冗談、マジで笑えないんだけど。ねぇ!?」


携帯を持ちながら、私の肩に手を乗っけてきた。

それを振り払うと平河さんは、床に力なく座り込み、項垂れる。


「そっちが悪いんですよ?まさか、子供に対して権力で脅しをかけるなんて、本当にあり得ません」

「奥野…テメェ、汚えぞ!お前も家庭をグチャグチャにしてやるよ!」


平河さんは私に強い恨みを込めた目を向ける。そんな目で私が怖気づくと思っているんでしょうか?本当につまらないです。権力での脅しなんて本当にくだらない。


「惨めですね。そんな事ができるものならやってみればいいのでは?」

「言ったな?後悔させてやるからな」


平河さんは、誰かに携帯で連絡する。今度は誰に連絡するのでしょうか?


「もしもし?あー私なんだけどさ、うん久しぶり~。それでさ、依頼したいんだけど…え?あぁ、奥野って奴なんだけど。…ん?名前?…游華って名前だけど」


私の名前を出した途端に彼女の顔が強張る。どうやら、話し合いが上手いっていないようですね。


「はぁ!?できない!?ふざっけんなよ?!」


怒った平河さんはまた、携帯を切ってしまいました。私を見る目は、先程の恨むような目ではなく、恐れを抱いているような目でした。


「意味わかんない…あんた、何なんだよ。私があんたに何したんだよ!」

「私にも我慢できること、そうじゃないことがあります」

「有馬の事がそんなに大切なのかよ!?」

「いいえ、正直に言えば有馬さんはどうでもいいんです」

「じゃあなんで邪魔すんだよ!」


私は有馬さんを可哀想だと思います。ですが、特に助けたいという思いはありません。そんな事に時間を使うのであれば、私は累君と話したいです。


「累君が仲直りしたいと言ったんです。あんな寂しそうな顔をするなんて…可愛いと思いませんか?もう反則です」

「はぁ?」

「それで、私はちょっとだけ張り切っちゃいました」


私はあの時に見た累君の顔を思い出す。人に興味を持とうとしない累君が、あんな顔をするなんて思いませんでした。これは、有馬さんへの面白いものを見せてくれたちょっとしたお礼です。


「そんな下らないことで、ここまでするのかよ」

「…くだらない。そうですね、河合さんにとってはそうかもしれません。でも、貴方のくだらないいじめは、私のくだらない考えで終わるんです。お互いに意味が無くていいではありませんか?」

「何を言って」


私は平河さんの顔を覗き込む。


「今の怯えている表情、とても可愛いですね?」

「ひっ…」

「あなたは、少しだけ運が悪かったんです。さようなら、平河さん」


怯える彼女を置いて、廊下を進み屋上へ進む。私の頭からはもう彼女の存在はいなくなっていた。


「有馬さんで…先ずは一人目ですね」

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