第4話 ステラとエミリーと 1
最初は転校してきたあたしのこと、みんなちやほやしてくれた。
でもそれは一瞬だった-。
2年B組はとても個性豊かで、見た目も華やかな子たちが多いから。
黒髪が美しいアマンダ。優等生のジャスミン……ステラもかっこいいし……。
その中でも一際目につくのは-。
クリスティーナ……。
あたしだって結構かわいい方だと思うの。
髪の毛はくせっ毛だけど、それが逆に猫みたいで可愛いって。触ると落ち着くって言われるの。
今日もステラがすぐに私のところにやってきて、あたしの髪をくるくると自分の指に巻いている。
「どうしたの?」
「細くてしっとりしてて猫の毛そのものだ」
あたしはわざと頭をステラの肩にくっつけた。
「猫と私どっちが好き?」
「そんな、わがままな恋人みたいなこと言わないでくれよ」
性格も好奇心旺盛な猫みたいだねって言われる。確かにそうかもしれない。
あたしたちは教室の窓際まで歩いた。ステラが勢いよくカーテンを開ける。
「いい天気」
「眩しすぎるわ」
そう言って笑いながらあたしたちは見つめ合う。ステラが窓際の後ろを見ている。
「そういえば転校したあの子……元気かな?」
また思い出したの?早く忘れてほしい。
あたしはステラの腕にしがみついた。元気なんじゃない?と適当に言っておく。
「こうやってエミリーの髪を触っていると思い出しちゃうんだ、彼女のこと。彼女も三つ編みを解くとこんな感じだったな……」
「いつまでも触っていていいわよ。きっと思い出したら、彼女喜ぶわ」
窓側の一番後ろに座っていた三つ編みの女の子。体を壊してしまって、マグノリア学園から急に出て行ってしまった。
さよならも言わずに。
この学園にもたまに学期の途中なのに新しい生徒が来たり、出て行ったりしている。
あたしがよく知らないだけで、わりと出入りは多いのかも。
「もうすぐ1時間目だね」
そうステラが言ったと同時に授業を知らせる鐘が鳴った。
****
2時間目が終わって、あたしとステラが庭園に行こうとすると、クリスティーナが廊下をこちらに向かって歩いてきた。
「クリスティーナさん、どちらへ行くの?」
あたしはわざと丁寧な言葉使いで、だけどニヤニヤしながら聞く。
「うるさいな。担任からお呼びがかかったの」
またなにかやらかしたのかしら。
庭園に行くと、アマンダが夢の話しをしていた。ジャスミンがそれは王子様だって騒いだせいで、ステラが王子様のフリを始めた。
ここまではまあ、よかったんだけど……。
あれはなんなのよ……。
イライラしながらあたしは庭園を後にする。ステラがあたしの名前を呼んでいるけど、
もう知らない。顔も見れないわ。
なーによ!アマンダとワルツなんて踊っちゃって。拍手喝采なんて浴びて……満足?
くっだらないわ!
しかもあたしが質問したのに完全に無視。
ああ……もういや。なんで自分が怒ってるのかよくわかってる。
アマンダとステラのダンス。すごく似合っててかっこよかったんだもの。
本番は男子と踊れるけど、みんなあんなに上手く踊れないと思う。
ていうか、男子は大嫌いだから…‥本番だってステラと踊りたいのに……。
3時間目のアートレッスンの途中、担任の先生まで顔を出した。ちょっと過保護すぎやしない?
丁寧にゆっくり切りましょうね。怪我をしないようにって。小学生じゃないっつーの。
「エミリー……無視するなよ」
ステラが、作業しているあたしの横にやってきたけど思いっきり反対方向を向いてやった。そうしたらステラは急に吹き出した。
はっ?なんで笑うの?
「怒ってるエミリーも可愛いね」
「え?」
頬が熱っているのがわかる。
ステラは子供みたいに企んだ微笑みをした。
「ねえ、抜け出さない? 先生が隣のクラスに行ったらさ」
「…………いやよ。今、集中してるの……アマンダと行ったら? ダンスでも踊ってくればいいじゃない?」
フッとステラはまた笑って、前髪をかきあげた。その仕草にハッとして目が離せなくなる。
あー、いちいちかっこいいんだもん。
彼女はやれやれと肩をすくませる。
「妬いてるの?」
「はぁぁぁ? そんなわけないでしょ!」
全否定したけど、どう見たってあたしは妬いている。100、いや120%妬いている。
「エミリー、実は手を怪我しちゃったんだ」
ステラは右の人差し指をあたしの目の前に出した。うっすら血が出ている。
小学生がここにいたわ。
「嘘でしょ? ハサミで切るなんて……」
「違うよ。厚紙で切ったんだ。ピッてさ」
ステラはちょっと雑なところがあるからそういうことになるのよ。
「誰もいないね」
薄暗い医務室はアルコールの匂いがした。
「医務室の先生忙しいみたいだね。多分見回りだよ」
あたしはステラの名前を使用名簿に書いて、症状に切り傷と書く。
ページを戻ると、いろんな子の名前が書いてある。やっぱり腹痛が多いわ……。
「ねえ……包帯じゃ大げさだし、消毒してガーゼでいいの?」
「いや、もうなにもしなくて平気。押さえて止血してたら止まったよ」
はい? なにそれ?なんのために来たのよーと言うとステラはあたしをそっと抱きしめた。
「エミリーと2人きりになりたくて」
「なっ、なんでそんなこと言うのよ」
そうは言ったけど、あたしは嬉しくて思わず顔をステラの胸に埋めた。涙が出そうになる。ステラはあたしの髪の毛をまたくるくると触っている。それがとても気持ちいい。
「こっちの気も知らないで」
「だって……ずっとエミリーとばっかりいるわけにはいかないし、それに君だっていろんな女の子と仲良くしてるじゃないか」
それはそうだけど……。
でもダンスなんて休み時間に踊らないわ。
「エミリーだって、最近はクリスティーナと仲良しじゃないか」
私はステラからさっと離れた。
「クリスティーナは別にいいじゃない。みんながくっついてるし。ジャスミンとかアマンダも……そうだ……庭園であたしの話、無視したでしょ!頭にきたのよ。アマンダの話に夢中になって」
あたしは捲し立てた。
「ごめんごめん、あまり覚えてないけど。ちょっと夢の話に興味があって」
あまり覚えてないって……。
「ねえ、エミリー。あの、マリアンヌだっけ? 絵が上手い子……その後ろにいた三つ編みの彼女、名前なんだっけ?」
また彼女のこと?
「名前……もういいじゃない。私は彼女をほとんどら知らないし、もう忘れちゃったわ。それに次から次へと覚えることも多いし」
「確かに……」
だってあの子と入れ違いみたいにあたしはここに転校してきたのだから。
そうよ、あたしは一ヶ月しか一緒にいなかったもの。
「あぁ……午後の授業かったるいなぁ。あの先生だよ……嫌だなぁ。ずっとここにいようか?」
そう言ってステラは医務室のベッドに横たわってしまった。
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