真夏の氷像
そうか今年は夏が来ないんだって誰かが悲しいことを言うの。変わらずやって来ていたものが空白になる恐ろしさがひたひたと這い寄って来る。理が崩れるはずがないわ。自分に何度もそう言い聞かせるのだけれど、言葉を重ねるほどに現実味が増していって、心を穿って空洞を作る。ソーダ水で満たした空洞に氷を放り込むのだけれど、氷はどんどん水面を覆い、泡の出口を閉ざしてしまった。流氷が氷山に。カランと音を立てることもなくなって、氷で閉ざされて、泡のような雪が降る。放り出したくなるくらい冷えてしまった。夏は来ないのか。
今に始まったことかしら。夏は年々滞在期間を減らしていって、やって来ても曇った表情で空を見ていた。隣に座って見上げた入道雲。麦茶の味を忘れてしまった。便りは白く煙る雨に流れた。少しずつ、少しずつ、夏の背中を忘れていく。
消えていくものを引き留めることはできないの。大人みたいな事を言ってしまった。だって私、凍りついてしまったのだから。
氷の中に夏を閉じ込めて机に飾ろう。もしも氷が溶ける日が来たら、夏はそこにいる。
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