data№5 願望は空の上 贈り物 図書館と史実

「リシアさん、僕、図書館に行きたいです!」


翔はバイクに乗っているリシアに言った。


「図書館? 何でまたそんな所に」

「僕、この世界のこと全然覚えていなくて、ここで生きていくにはわかっておいた方が良い常識とかあるんじゃないかなって思って。それで行きたいなって」


(帰り方も知らないから、当分はこの世界で生きなきゃいけないし、ワンチャン図書館で過去に戻る方法が見つかるかも)


と思っているのは伏せておいた。


「なるほどー。理由は理解出来たけど、行って何調べるの? 一般常識ならエリアス君に教えてもらえば良くない?」


当然の疑問だった。

しかしもしかしたら図書館ついでにこの街を見れるかもと期待してテンション爆上がりの翔はそこまで考えることを忘れていた。


「えーっと……」

「図書館でしか調べられないものじゃないとおいそれと許可出せないって言うか、司令に話せないんだよね。それに一応翔くん警戒対象だし。俺そんなに甘くないよ」


その時、翔に閃光走る。


「あっ、ほら何年何月何日に何があったのか、みたいに詳しい歴史を含めて知りたいなあって。それに……」

「それに?」

「ご飯が不味いので料理本を確認したいなと」

「………」

「……リシアさん?」


(やっぱりこの言い訳じゃマズイか……失敗しちゃったな)


「ふっ」

「?」

「あはははは! 食べ物が不味いからって、だからって今どき料理するためにって! 翔くんって面白い!」

「えっ、えっ」

「よーし。気に入った。確かに料理の作り方知ってる人は居ないもんね。俺、1回司令に言ってみる」


(……なんだかよくわからないけど話はして貰えるみたい)


「ホントですか! ありがとうございます!」

「いいよ、いいよ。じゃ、そろそろ病院に戻ろうか」

「はいっ!」


そうして青空を後ろに、2人は本部へ帰還した。


ーーーーーーーーーー


「それでは今回の幹部会議を始めたいと思います。進行は私、ニコが務めさせていただきます。それでは第一の議題ですが……」

「そんなもの駄目に決まっているわぁ」


言い終わらないうちに誰かが反対する。


「だってその男の子、警戒対象でしょお。この前の外出はリシアちゃんが付いてて上空から街を見せるだけだったから良かったけど、直接外は危ないわよお。そうよねぇ、司令ちゃん」


と上座に座っている女性を向く。


「……確かに……敵だった場合……これは、外に出る罠……かもしれない……」

「それに本なんて誰かに借りさせれば良くない?」


皆口々に反対する。それにリシアが言い返す。


「そうなんだけどさ、翔くん可哀想だよ。何も無い部屋に警戒対象だからってずっと閉じ込めておいたら精神おかしくなるよ。せめて図書館の中だけでもいいから見せてあげたい。子供ってなんでも抑圧されると後々怖いよ」


そしてひと呼吸おいて言う。


「……それに、絶対敵じゃないよ、彼は」

「は、何言ってんの。 警戒心ってモン、欠けてんじゃないの?」


豊満な体つきをした女性が直ぐにリシアに噛み付いた。しかしさらになにか言おうとするその女性を司令が制した為、終ぞその先を言うことはなかった。

司令は静かに問う。


「リシア、根拠は」

「勘です」


真剣な目つきで答える。


「勘……か。…………わかった。確かに外に出たい欲求が爆発して勝手に動かれるよりは監視付きで少しずつ発散させる方がマシだ」

「ええぇ、リシアの勘を信じるんですか!? てゆーかネットでいいじゃないですか」

「勘に関してはなのだから納得しろ。ネットはいくら規制してもその他の情報が入ってくるから却下だ」

「えぇ〜、信じらんないです」


リシアに噛み付いていた女性はなおも食い下がる。が、


「……それじゃあ話の流れ的にOKって事で、良い感じです?」

「許可しよう。みなは?」

「司令ちゃんが言うならいいわよ」

「同意します」

「……ちっ。賛成します……」

「皆、青少年の健全な精神育成の為にありがとう!」


とリシア。


「おい、浮かれるな。監視にはお前とエリアスとそれから幾人かつける。見れる本も検閲し、必要以上情報を与えるな。それと図書館には直接移動ワープしろ」

「はっ」


いつになく真面目に返事をしたリシアから本気度が伺える。


「……では1つ目の問題がまとまりましたので次の議題にいきたいと存じます。先日侵略された……」



ーーーーーーーーーー



「ショウ、図書館に行けるといいですね」

「そうですね。でも皆さんには迷惑は掛けたくないので、行ければいいなあ位です。多分流石に今回は無理だと思いますけど」

「いや、案外わからないものですよ。あと人間、他人に迷惑かけてなんぼです」

「そう……ですかね」

「そうですよ。では、そんなショウに1つ素敵な贈り物です」


と、穏やかに微笑みながらエリアスがポケットから小さな箱を取り出す。


「開けてみてください」


翔はゆっくりと箱の蓋を外す。

「わぁ! ……何これ?」


中には白い色で直方体のルービックキューブもどきがこぢんまりと入っていた。


「これは万能グラスです。モードによって眼鏡になったり、虫眼鏡や双眼鏡、望遠鏡に変身する優れものなのです」

「な、こんな高そうなもの頂けませんよ! 僕何もエリアスさんにお返し出来ません。お返しします!」

「ああいえ、どうか貰ってください。さっきも言いましたがこれは贈り物、プレゼントです。私が勝手にあげたいと思い、差し上げたに過ぎません。だからお返しも何も要らないのですよ」

「……でも」

「遠慮を美徳とするこのエリアの人らしいですね。もしかしたら図書館に行くショウに使って欲しかったんです。……それとも必要ないでしょうか?」


エリアスが少し悲しそうに尋ねる。


「いえ、 必要無くないです! 欲しいです!

じゃ、お言葉に甘えて、頂きます。エリアスさん、ありがとうございます!」

「いえいえ。……やはり子供は喜ぶ顔が1番素敵ですね……どんな時でも」


翔はそっとグラスを箱に戻し、病室の引き出しに大事そうにしまった。




「準備、出来ましたか?」


エリアスが翔に尋ねた。


「はい!」


翔は出かける準備をしていた。

何故か。それは流石に今回は無理だと思っていた図書館行きが奇跡的に許可されたからだ。


(エリアスさんが言ってたけど、リシアさん頑張ってくれたらしいな。お礼言っとこ)


「皆、準備できたね」


今日はリシアもいる。

また、リシアの後ろには屈強な人達が控えている。

きっと護衛と監視の人だろう。今日は図書館しか行かないと言っても外に出るため、警戒するのは当たり前だ。


「じゃあ皆俺の周りに集まって」


リシアを中心にひとかたまりになる。


瞬間移動ワープ装置、起動!」



ーーーーーーーーーー



「……っと。到着」


あっという間に図書館に着いた。

皆、着いて歩き出す中、翔は安定した視界に未来の図書館を捉えていた。

とにかく明るい。棚のようなものに掌サイズのカードが収まっている。本が見当たらないのであれらが未来では本なのだろう。

その本の海の中を機械が移動していた。


「翔くーん、こっちこっち」


呼ばれたのですぐに行く。

椅子に座ると、いつの間にかエリアスがカードを持ってきていて翔が席に着くと同時にボタンを押した。

カードが光り、文章が出てくる。


「ここをタップすると検索出来るから、知りたい事調べな」


隣に座ったリシアが言う。


「はい。ありがとうございます」


(先ずはここが僕の世界の未来か調べよう)


検索から年表に飛ぶ。

結果から言うと翔が知っている歴史と同じ道を辿っていた。


(教科書に載っていた歴史と同じってことはここは僕の世界の未来なんだな)


しかし翔が転移した後、初めて知る歴史があった。


翔が転移して約50年後、一人の科学者によって機械工学に大きな革命が起こり、今のロボットの基礎が出来る。

その後更に発展し、福祉系や教育系で活用されるようになる。と同時に仕事を取られる等社会問題も発生する。

転移後80年経って初めて人を用いないロボット同士で戦わせる戦争により、戦争のあり方が変わり、技術も飛躍的に向上する。

ロボット規制法などによって、暫くは表面上平和になったが翔が未来に飛んで約120年後、中東辺りで新たな戦争が勃発し、世界を巻き込んで第三次世界大戦と呼ばれるようになる戦争が起こる。

このままでは世界が滅びると危惧した当時の旧アメリカ合衆国大統領が

『国が分かれているから戦争が起きる』

を提案。

長年の戦争で疲弊していた国々は1部の国と地域を除き、合意。現在の1国家、エリア制となる。


……ここまでで翔が未来にタイムスリップしてから150年経過している。

そして、世界一丸となって復興に取り組んでいこうという混乱時に乗じて1人の科学者が人類の根絶を宣言。

全世界に戦争を仕掛けた。

その戦いは今でも続き、現在に至る。



「…………」


あまりの情報量と凄さに言葉が出ない。息が詰まる。年表を見ただけでこの内容。


(読んだのに、わからない。理解が追いつかない……)


脳が処理出来ていないのだ。顔から血の気が失せる。


「……リシア様、具合が悪そうです」

「ん、今日はもう帰ろう。料理の本はまた今度にしようか」


リシアが周りの者に目配せする。

魂が抜けたような状態の翔を無理やり立たせて再び病院に転移する。


「翔くん、今日はもう寝るんだよ。おやすみ」


翔をベッドに寝かせ、リシア達が病室から出てゆく。

1人残された翔は思った。


(こんなの寝れるわけないよ……)


膨大な量の情報は翔の頭をいつまでもいつまでも掻き回していた……。

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