data№6 夏終い 謎の少女、再び 尋問!?
数日すると精神も安定し、疑問が浮かぶ程色々と考えることが出来るようになった。
そこでさらなる知識を求め、翔は(許可が降りたら)精力的に図書館に通いつめる日々を送っていた。……勿論、監視付きでだが。
以下、新たにわかった重要事項である。
・世界はひとつの国として存在するようになり、旧世界で一国だったものが国別で地域分けされてエリア+数字で呼ばれている。(例外としてアメリカやオーストラリア等の大きい国は旧世界では一つの国だったがいくつかに分けられている)
・今、日本の領土全てはエリア462と呼ばれている。
・戦争は世界同時多発的に仕掛けられた事。
・上記の為、敵基地が各エリアに建設されてしまい、それぞれが他エリアと連携しながら敵と戦っている。
・そして敵の大本部があるのが新宿を中心とした、ここ、東京。
・現在地、関東第一防衛都市以外にも敵の侵攻を止めるため、東京を囲うようにして他の防衛都市が存在する。
・最近、関東第三防衛都市の八王子地区が陥落した事。
(うわあ、最前線に来ちゃったんだな……)
と資料を読み、翔は思った。
ここは危ないのでは、逃げた方がいいのでは、とも考えたが当たり前に外の方が危ないし、第一、ここを出たらどこに行くというのだ。
という訳で今日も今日とて図書館に滞在している。
ーーーーーーーーーー
「すみません、エリアスさん。科学の技術本みたいなそうゆう本見れますか」
翔はエリアスに尋ねた。
「少々お待ちください」
と答えるとエリアスは本棚に消えた。
ちなみにリシアは外せない仕事だとか何とかで今日は不在である。
「……うーん。この本だったらギリギリセーフでしょう」
周りの監視員も確認しOKサインを出す。
「どうぞ。ショウ」
エリアスは
『なぜ? どうして? 皆の疑問に答えちゃう!』
というポップな題名の本を持ってきた。
「すみません。ありがとうございます」
慣れた手つきで本を起動し、翔は関連しそうなページを必死で探す。
(あった!)
ページを捲る手が止まった。そこに書かれていたものはーーー。
『
そう、これがこの世界の情報を知ると同時に翔が知りたかった事。
元の時代に帰還できるかどうかということだ。
どんな結果が待っているのかと、震える手付きで次を捲る。
『残念ながら今のところ、
「うえっ!?」
驚いて思わず声が出てしまった。エリアスが何事かと視線を向ける。翔はすみません、なんでもないんですと愛想笑いをして本に視線を戻した。
『しかし未来に行く技術なら実は実験されているがまだまだ人が操るには安全では無い』
(嘘だろ……僕が帰りたいのは過去なのに)
そのあと、タイムスリップ関連の記事を探したが、どれもこれも未来に関するものだった。
(マジか……。でももしかしたらって場合もあるかもしれないし、絶対帰ってやる。……みんなに暫く会えないのは辛いけど一人暮らしを始めたと思えば……)
あくまでも翔は前向きだった。
そうしなければ怖くて精神を保つ自信がなかった。
「そろそろ外に出ましょうか」
声をかけられて翔は立ち上がる。
本を元に戻し、エリアスに近づく。
そのままワープで帰るかと思いきや、なんと、図書館の外に出たではないか。
……実は図書館周辺ならば街を出歩いても良い事になり、ここ数日はこうして外を出歩いている次第であった。一重に大人しくしていた翔の努力の賜物である。
が、代わりに翔の手首には何があっても現在位置を特定出来るGPS機能付きのバンドがはめられた。
「今日もあっつ〜」
白と植物の緑色に囲まれた近未来的な街並みを歩きながら翔は呟く。
「ですね。8月も終わりに近づいていますがまだまだ暑さは続くみたいですよ」
ギラギラと容赦なく照らす日光を手で遮りつつエリアスが答えた。
(やっぱり未来では地球温暖化、進んでるのかな)
「汗が止まりません。どこかで涼みたいですね。
……どうです、ショウ、氷菓を食べるというのは。代金は私がお支払いしますので」
「え!? いいんですか? マジで食べたいです! もう暑くて死にそうで……」
「ええ。では行きましょうか。確かこの近くに美味しいアイスクリーム屋があったはずです。……皆さんもどうですか? 今日は皆さんの分奢りますよ」
エリアスが後ろの監視員達に声を掛ける。
遠慮したのか要るとは言わなかったが監視員達の雰囲気がにわかに明るくなる。
「返事を聞くまでもなさそうですね。案内します。付いてきてください」
アイスクリーム屋に着いた一行は店先に設置されている木陰のベンチに陣取っていた。
「ショウは何味食べます?」
「ソーダ味でお願いします」
「わかりました。待ってて下さい」
「はい、どうぞ」
と手渡されたのは爽やかなスカイブルー色のアイスであった。
「ありがとうございます! いただきまーす」
シャリッ。一口齧る。
「……!」
食べた瞬間シュワシュワっと炭酸のような食感と共にソーダとおそらくレモンの様な味が口いっぱいに広がる。甘いが、後に残らず、すぐに引いてしまう。
目の前に空と入道雲が見えた気がした。
「あっ」
猛暑でアイスが溶けて、翔のズボンに垂れてしまった。
「やば、こぼしちゃった……」
「私達、食べ終わったので捨ててきますけどゆっくり食べてて良いですからね」
「はい」
(汚れ、なかなか落ちないな……)
エリアス達が一瞬、ほんの一瞬目を翔から離した時だった。
『お掃除します』
「へ?」
『お掃除します。お掃除します。お掃除します!』
「うわぁぁあ!」
棒を持った変なロボットが襲ってきた。
反射的に翔は逃げる。
「あっ、ショウ、待ちなさい!」
そんな声も届かず翔は走った。
直線的な建物が並ぶ左右対称の大通りを走り、幾度か曲がる。
『お掃除します!』
まだ追いかけてくる。
今度は冷たく、狭い路地に入る。
空中スケボーに乗ってる子供を避けて、荷物を運んでいたロボットをハードルの要領で飛び越える。道を路地風のように駆け抜ける。流石陸上部である。
「……はぁっ、はぁっ。巻けた……か」
息を整える。声はまだ聞こえない。
「はぁ。走りすぎて変なところ、来ちゃったな……」
今翔がいる所、それは大きなゴミ山であった。
捨てられているものは全てこの未来では見た事のないもの、というより一昔前の代物のようだった。長い年月置かれていたのか苔むし、赤茶に錆びていた。地面が窪んでいるので水たまりが出来ていた。翔は少し興味を持ち奥に進む。すると車等の残骸に混じって見覚えのある物があった。
「電車だ」
翔がいた時代に使われていた電車と似ている古いボロボロの電車があった。この世界では見ることは無いと思っていた自分の時代の物に郷愁が湧く。
その時、
『お掃除します。お掃除します。お掃除します』
(うわっ! あいつまだ追いかけてきてたんだ。何処か隠れる場所……)
目の前の電車が見えた。
『お掃除します。お掃除します』
ロボットは辺りに翔が居ないか探し回っていた。
何かを感じたのか例の電車の前で立ち止まる。
じーっと車体を見つめ、壊れた窓から覗き込んだ。車内を見渡す。
ーー中には割れ窓からの斜陽とそれにきらめく埃。苔の生えた湿った座席と破れたつり革しかない。
……何も無い。
そうロボットは判断したのか電車から離れ、何処かへ行ってしまった。
(もう行ったか……?)
ロボットが覗き込んでいた側の座席の下から翔が這い出してきた。
「ふう、危なかった……」
「ねー。でも躱せたじゃないの」
「えっ」
後ろから突然声をかけられた。
「やっほー。久しぶり」
見るとあの白いワンピースの少女が佇んでいた。
「あ、君! いつの間に……。てか君のせいで大変な目にあって、死にそうになったんだけど。死んだらどうしてくれんだ!」
「あら、そう? アンタは絶対死なないし、今生きてるんだからアタシはオールオッケーだと思うけどね」
「オッケーじゃないよ! 君の言う通りにしたら殺されそうになって、それからも色々と大変で……。もうほんとに」
「まあまあまあ、落ち着いて。確かに命の危険には晒しちゃったけどその代わりいちばん強い王子様に守ってもらえるようにしたんだから、感謝してよ」
「誰が感謝なんてするもんか。大体、君が……」
「あー、あー、聞こえなーい。それより迎えが来たんじゃない?」
おーい、と遠くから微かにエリアスの声が聞こえる。
「え、ほんとだ。あーやっば。エリアスさんに迷惑かけちゃったな。どう謝ろう。…………そういえば君、なんで……」
振り返ったがあの時と同じように少女は消えていた。
呆然と突っ立っているとエリアスが走ってきた。
「……ショウって意外と速い。……じゃなくて。困りますよ! 急に走り出して。最近外を歩けるようになったからって貴方は警戒対象なんですよ! 調子に乗らないでいただきたい」
当たり前だが怒られ、説教の度に電車の窓が震える。
「ごめんなさいっ! ……変なロボットに襲われて思わず逃げちゃって……。あの、迷惑かけて本当にすみません!」
頭を下げる。
「はあー。……ショウは少し常識が欠落しているんでしたね。あれは通称『掃除ロボット』。街中で汚れている物や人を見つけると自動で綺麗にしてくれる機械です。人を襲うようなことはしませんし、『お掃除します』と聞こえませんでしたか?」
「………………」
(びっくりして気づかなかった……)
「まあ、確かに急に来られたら驚くのも当たり前か……。いいですか、ショウ。今回は見逃してあげますけど、ゆめゆめ自分がどんな立場にいるのか忘れないで下さい」
「……はい」
「もしかしたらその場で処分も有り得るんですからね」
火照った身体が一気に冷えた。翔は改めて気をつけようと心に刻む。
「さ、帰りますよ」
幾らか空気が和らいだエリアスに促されて連れてゆかれる。
あの電車がガラクタの山に消えていった。
ーーーーーー
「……
音もなく、陽炎と呼ばれた人物が闇から現れる。
「……は。その事について……」
陽炎は司令に耳打ちする。
何を聞かされたのか、司令が目を見開いた。
そして直ちに指示を下した。
ーーーーーー
翔は暇を持て余し、小説を書くことに決め、構想を練っていたところだった。
突然、
「お前が……
と頭上から唐突に声をかけられた。
びっくりして顔を上げると黒いスーツに身を包んだ男性が見下ろしていた。他にも何人か後ろに控えている。
(え、誰、この人達。てかいつ入ってきた? 扉の開く音も足音もしなかったけど)
「は、はい。そうですけど、何か?」
「……そうか。では時尾 翔、貴様を尋問の為、
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