data№4 目覚め pretend 貴方は…
見たことの無い天井だ。
それによって此処は自分の部屋ではないと理解する。全身に感覚がある事を確認する。目を瞬かせる。
「…死んでない」
ちゃんと声も出る。
「僕、生きてる」
あの状況からどう助かったかはわからないが、今自分は呼吸をしている。生きている、その事実に翔は安堵した。暫くぼーっと放心していたが、自分の周りの状況を確認するため首を横に向けて左右を見渡す。
右には、ピッ、ピッと規則的に音が鳴るタブレットみたいな物体が浮いている。
左には誰かが生けてくれたのだろう可愛らしい花があった。
起き上がって部屋全体を見たいと思い、体を起こす。
「…!?」
知らない人間が足元で寝ている。体つきからして男性だ。
「だ、誰?」
その人の耳がピクりと動く。起こしてしまったようだ。
男がゆっくりと顔を上げる。
翔は息を呑む。
ーーー何故ならその人の顔がとても美しかったからだ。輪郭は美しい彫刻のよう、顔のパーツは黄金比に近く、薄くて上品な唇。何より目が夏空を映したように透き通っていた。
「やあ、やっと目覚めたんだ。おはよう」
「お、おはようございます…」
「うん。受け答えできるるね。意識障害はないと……」
何やら1人で確認を始めてしまった。質問できなくなる前にしなければ。
「あっ、あのっ!」
「ん? なんだい?」
「此処は、どこですか…?」
翔はずっと聞きたかったことを口にする。
「勿論、教えるよ。でもどうやら君のお腹の方が先みたいだ」
「え?」
その時、翔の腹がなった。
思わず赤面する翔。そんな翔を見てその人はくすりと笑い、
「ちょっと待ってて。今食べ物持ってくるから」
と言って病室を出ていった。
「……ハァーッ」
誰もいなくなった病室で翔はバタンとベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。
(助かった。少なくともここは戦場では無さそうだし、優しい人も居た。……安心していいんだ)
そう思うとぐうっ〜とまたお腹がなってしった。
翔は窓もなく、真っ白で無機質な部屋の中、食べ物の到着を待った。
「ごめん! お待たせ〜」
元気な声にうつらうつらしていた翔は急いで起きる。
「あ、寝てた?」
「いえ、大丈夫です」
「ほんと〜? はいこれ、ご飯」
「ありが…え?」
そう言われて差し出されたものはどう見てもご飯のようには見えなかった。それは少量のゼリーのようで無色透明だった。なんの冗談なのか。これがご飯?こんな量で足りるのか、男の方を見やる。が、ニコニコと笑って早く翔が食べるのを待っている。
その笑顔に気圧され、
何とかなれ! と言わんばかりに一気にゼリーもどきを流し込む。
食感は殆どない。ゼリーのように冷たくのどごしちゅるんと喉を通っていくのが感じられる。無味無臭で最後飲み終わった時少しザラザラした。気持ち悪い。しかし他人が見ている手前吐き出す訳にはいかない。気合いで嚥下した。
(うえっ、不味い。…あれ?)
しかしすぐに南国のフルーツを食べた時のような爽やかな風味が鼻を抜ける。更にはこの量でお腹いっぱいになるかと思っていたが1食分食べた時と同じくらいに腹が満たされた気がする。
「良い食べっぷりだったよ。元気いっぱいで何より何より」
「ありがとう、ございます?」
褒められたのかわからないが一応お礼をした。
「さて、腹も満たされたことだし君の質問に答えたいと思う。…その前に君って言うのも失礼だし名前、教えてくれないか」
「は、はい。僕は
「じゃあ、翔くん。さっき聞いてきた質問だけどここは『エリア462関東第一防衛都市』、『関東第一防衛軍本軍基地』にある軍病院の入院病棟だよ」
やっと知りたい情報が得れた。ひとまず場所がわかり安心する。…エリア462というさらに訳の分からない名前が出てきたが。
「他にはある? 質問」
「あ! 今って西暦何年ですか!」
「え? そんな事…。今は
翔は脳天をかち割られたような衝撃に見舞われる。やはり自分は異世界に迷い込んだのではなく未来へタイムスリップしていた。
「大丈夫?なんか顔色悪くなってない?」
静かに首を横に振る。
「じゃあ、翔くんの質問に答えたからこっちからも質問するね」
首を縦に振る。
「最初の質問…。何故君はあの場所に居た」
顔を息がかかりそうな程ぐっと近づけられる。
目が怖い。嘘をついてもわかると言わんばかりだ。
「ひ、人に行けって言われました」
「ふうん。その人の特徴は」
「白いワンピースを着た女の子でした」
「そっか。じゃあその前の事は覚えてる?」
「……」
(その前の事って…。過去から来たなんて言っても信じて貰えないだろうし、頭おかしいヤツだと思われて警戒されるに決まってる。ここは…)
「覚えて、ないです…」
記憶喪失のふりをする。
実際間違ってはいない。転移前後の記憶は曖昧だし、なんでこの世界に飛ばされたのかわからないので嘘はついてない。
「本当に?」
目の奥まで覗き込まれそうなほど、見つめられる。翔の背中に冷や汗が流れる。バレたのか…?
暫く見つめられてやっと顔を離された。
「どうやら、嘘はついていないようだね」
(はあ。バレたと思って怖かった…)
「次の質問だけど、家族、覚えてる?」
「覚えてないです」
「住んでいた場所は?」
「いえ、よくわからないです」
するとその人は目を見開き、耳に手を当てた。
誰かに連絡をとっているようだ。
「あのっ…」
「動かないで。すぐに来るから」
そう言って1分も経たないうちに部屋の扉が開き、医師らしき人と看護師らしき人が2人入ってくる。
男の人が医師と二言、三言話して、医師らしき人が看護師に頷く。
「はい、じゃあ、動かないでください」
と言って天使の輪っかみたいな物を頭に乗せる。
「これから動き出しますが、声を出さないようにお願いします」
作動ボタンを押したようで輪っかが翔の頭より大きく広がり頭の上に浮かぶ。そのまま垂直に首まで降りてゆっくり頭の真ん中まで上がる。それから左右に回ったあとぷかぷか浮いて看護師の所まで自動で戻った。
「どうですか…」
「うーん、異常は見当たりませんが…」
「しかし彼には記憶が無く、嘘もついてはいないです」
「では心の問題でしょうな」
「…1度戻って他の確認をする準備をしてくれませんか」
何か相談していたが翔の存在を無視し扉から出ていってしまった。
次に入ってきた時にはバーコードを読み取るアレみたいな物を携えてきた。
看護師がまた声をかける。
「それでは翔さん、手首をこちらに」
そして手首にスキャナーを当てた。
……何も起きない。
大人たちを見ると皆固まっていた。
「生体情報が、読み取れない…」
誰かが呟いた。
お兄さんが聞いた。
「君は、未登録児なのか…?」
(未登録児ってなんだろう。なんかやってないとダメなのかな)
わからなくて首を傾げる。
「…記憶喪失で未登録児って…」
「今日はもう引き上げた方がよろしいかと」
お兄さんが跪いて目を合わせる。
「ごめん、翔くん。悪いけど君の事は警戒対象にさせてもらうよ。これから病室の移動があるけど大丈夫だからね」
「はい…」
返事をするとお兄さんは次に医師に言う。
「俺は1回本部に戻ります。どうかよろしくお願いします」
「はい。わかりました。お疲れ様です」
そしてすぐに出ていこうとしたので翔は最後に聞きたかったことを聞こうと離れる背中に話しかけた。
「あのっ! お兄さんの名前はなんてなんですか?」
お兄さんが振り返る。
「俺は、リシア。
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