data№3 Where am I ? 命の危機 薄れる意識

沢山の人間が忙しそうに大小様々なモニターを眺めたり、タブレットよりも薄い、空中に浮かんでいる幕を操作している。

「司令!強大なエネルギー波をキャッチ!」

「場所は!」

「現在戦闘が行われているN-7地区中央より東の丘上空」

「くっ、新しい敵の攻撃か。今すぐ現場に急行出来る者は」

「今出撃中の全戦闘部隊会敵中!」

(つまりあれは全て陽動か。やられたな…)

「あ、なら俺行きますよ」

司令と呼ばれた女性の近くに立っていた若い男が手を挙げる。

「何を言っている!貴様には他に仕事が…」

「さっさと確認して帰ってきますから。大丈夫ですよ。ではそういう事なので、行ってきまーす」

「あ、コラ待てっ!……ちっ、行ってしまった。

しょうがない、他の隊員にはこう伝えろ。時雨しぐれ副司令が向かったとな」



一瞬後ろに引っ張られるようなぐわんとした感覚があった後地に足が着いた気がした。怖々と目を開くと、目の前には今まで見た事のない景色が広がっていた。

どこを見渡しても、木、木、草むら、岩、木、ばかり。明らかに自宅では無かった。

「此処は…どこ…」

取り敢えず人がいないか探してみる。


「アンタ、人間に会いたい?」

後ろから急に声をかけられた。見ると白いワンピースの少女がさっきまで誰も居なかったはずの岩の上に立っている。

「あ~良かったあ。やっと人に会えた。君は誰?そして急で悪いんだけどここがどこか教えてくれないか?」

「人に名乗らせるより先ず自分が名乗ったら」

「ああ、…そうだね。僕は時尾 翔ときお しょう。高2だ」

「じゃあ、アタシね。私の名前は…やっぱ秘密♡」

…なんなんだ、この子は。

「でも、場所についての質問は答えてあげてもいいわ。此処はN-7地区よ」

Nー7地区?聞いた事がない。もしやさっきので日本じゃないとこに来たのでは?それとも…

「ま、まさか、最近話題の異世界転生ってやつ!?」

「んな訳無いでしょ」

即座に否定されてしまった。異世界転生だったら魔法も使えて楽しそうだと思ったのに。でも異世界転生てわけじゃないならなんなんだろ。

「ねえ、君もっと詳しく教えてくれない?Nー7地区って言われてもどこの国かわからないし…」

「もっと詳しく知りたいならこの丘降りて西に向かうといいわ」

と言って西を指さす。その方向を見ると草原と森が広がっており、遠くには煙が立ち昇っていた。

「ねえ、君は…」

振り返ると居たはずの少女は消えていた。

……もしかしてお化け!?怖くなって急いで丘を降りた。


「はあっ、はあっ、まだかよ…」

さっきどうにか丘を降り、言われた通り西の方へ歩いていた。自分より背が高い草をかき分けて進む。人がしばらく立ち入っていないのか道がない。太陽の位置とでこっちで合っていると信じ、とにかく進む。結構疲労が溜まってきているが足を止めることは出来なかった。何故か。それは見ず知らずの土地に放り出された故のわからないという恐怖と人間に会えるのかという不安。そして一番の原動力となっているのは知り合いに1人でも会いたいという孤独だった。


「か、川だ!」

暫く進んでいると草が開け川が見えた。正直、猛烈に喉が渇いていた為水を飲もうと駆け寄る。

顔を水面に近づけたところで止める。

「この水、まさか死んでる水じゃないよな…」

心配になり匂いを嗅ぐ。

「匂いは大丈夫…かな。味は…」

少し掬って飲む。

「こっちも平気だ。そもそもこの川ちゃんと流れてるし透明だし、まあいけるっしょ」

今度いつ水にありつけるかわからないのでめいいっぱい、思う存分に飲む。

「ふぅーっ」

一息つく。さて、ひとまず状況を整理するか。

「えーと、軽くまとめると…


その1 朝起きて部屋を出たら、暗い空間にいた。その後落ちた感覚がして気づいたらこの世界にいた。

その2 着地したのは丘の上で少女が居た。

その3 その子曰く、此処は地球でNー7地区と呼ばれる場所。


……うーん、これだけじゃよくわかんないな。

でも言えるとしたら此処は僕が住んでたところじゃないこと、…だけだな。でもあの女の子が正しければこれは異世界転生では無いし。ワンチャンこれタイムトラベルかもしれないぞ。あーあの子に年号聞いときゃ良かったな」

今更になって後悔する。

整理も出来、喉も満たされたので再び草むらに戻る。

その時だった。

向かっている西の方からいつか見た自衛隊の戦闘機の様な轟音が聞こえてきた。咄嗟に身を草むらに埋める。息すら止めて静かにしていると音がうずまっている上空を通過した。もう行ったかと空を見る。…変な形をした雲しか見当たらない。良かった、どうやら行ってしまったようだ。

「怖いな」

一言だけ呟きさっきよりも急いで西に向かう。丘の方から煙が見えた距離的に多分もうすぐだろう。



「もうすぐだ!」

聞こえてくる音からそう判断する。因みに聞こえてくる音とは工事現場のようなだの、という音や金属同士がぶつかる音、人の叫んでいる声などだ。煙も上がっていたし工事をしているのだろう。

草を掻き分けて…、掻き分けて…、目の前が眩しくなる。

「ひらけた!」

やっと誰かに会えると思うと期待に胸が膨らむ。

……しかし眼下に広がっていたのはおおよそ工事現場などいう生易しい景色ではなかった。

「うそ、なに…これ…」


ーーそれは一面灰色の戦場だった。

武器と武器がぶつかり合い火花が散る。

武器によって体を抉られたのか耳を覆いたくなるような悲鳴がこだまする。

その正体を知りたくない液体が大地に染み込みつつあった。

正に地獄がそこにあった。


戦争を見たことが無い生粋の現代日本人である翔には刺激が強過ぎてしまった。

「あ…あ、ああっ…」

言葉も上手く発せないまま、腰が抜けたのか滑稽な動作で後退り、木の後ろに身を隠す。

(…な、なんなんだ。人が、人を殺して…)

『ドドドドド』と心臓が爆発するのではないかと考える程鼓動を速く刻む。苦しい。

今見た現実が信じられない。まさか夢でも見たんじゃあるまいかと木の後ろからそっともう一度確認する。

変わらない現実じごくがそこにあった。しかし、もう一回見て気付いたことがある。

「なんだアレ、ヒモが出てる…」

一方の人間からヒモが出ていた。否、紐では無い。切れた先からバチバチッと火花が出ていた。

「……人間からコード!? そんな訳…。もしかして人間じゃなくてロボット!?」

(つまり、人と人が争っているのではなく人とロボットが戦争をしているってこと!? )

SFでしか有り得ないと思っていたその光景が目を釘付けにする。

もっと見たいと思い、木の影から更に顔を覗かせる。

…ふと、誰かに見られているような気配がしたがすぐに消えたので気にせず見入る。


しかしこの時、誰かに見られた気配がしたと言ったが戦場にいたロボット一体が翔に気づき暗殺に向かっていた。

勿論そんな事翔は知らない……。


「危ないっ!」

後ろからこう声が聞こえた。完全に集中していたが焦った声に一気に感覚が戻る。声の主を探そうと後ろに振り返る。

ーしかし見えたのは刃物の切っ先だった。

「え…?」

死が迫る中様々な事を考える。

『母さん、父さん、死んでごめん』『宿題やったっけ?』『ゆうじには謝っておきたかったな』『恋人が欲しい』『将来とかどうしよう』

『…死にたくないなあ…』

他にも多々思いが駆け巡る。

最後に自分が斬られるのを見たくない、意識を手放したいと願うと本当に意識が薄くなってきた。


最期、離れゆく意識の中でロボットが傾くのと、

誰かが駆け寄って来るのを見たーーー。


ーーーあとは記憶が無いーーー

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