data№1 救出 喧嘩 ハジマリ 前編
家までのラストスパート。この坂を上り切れば
少しづつ坂の上が見えてくると少し先に人が何人かいるのが見えてきた。誰かを囲んでいるようだ。誰を囲んでいるのだろう? と気になりよく目を凝らしてみると……、
「ゆうじ!?」
囲まれていたのはなんとゆうじだった。なんとなく嫌な予感がした翔は脚の回転率を上げる。近くなるそのしゅうだんとの距離と彼らから翔の方へ吹く強い熱風によって会話がどんどんはっきりと聞こえてくる。
「ーー君さぁそこの豪邸の家の子でしょ。お家から出てくるの僕たち見ちゃったんだよねえ。んで、早速で悪いんだけどさ~俺ら高校生じゃん? だから遊ぶのにお金足りなくて……」
「何がお前早速だよ? 長いっつーの。とゆうことで俺らお前の有り金全部欲しいの。結構持ってるでしょ」
「……ないです……」
「何言ってんの?」
「ないわけねえだろ。金持ちなんだから。ほらジャンプしろジャンプ」
「うえーい!とーべ!とーべ!とーべ!」
ザ・ヤンキーという雰囲気のガラの悪そうな学生たちが下品な態度で輪の中心の子を囃し立てていた。まさに恐喝。
「まさかカツアゲ!?」
聞こえてきた会話からそう判断し、翔は仰天する。そんなもの人がいるであろう住宅地でやるものではないし、それに、白昼堂々真昼間から。馬鹿ではなかろうか。
(……心配するのはそこじゃなかった)
このままだとゆうじの身が危ない。
「今助けに行くからな」
正義を紛らせいざ行かん、ゆうじの元へ。
「え、なんで無視すんの?オレら悲しいんだけど」
「ねえこいつ中学のくせにこの前出たばっかの《gPhone18》持ってる~いいな~」
……はぁ。ったくうるさいなあ。
低脳はこれだから困るんだ。すぐに人を家や見た目、地位なんかで判別する。見せかけで中身はなぁんにもないかもしれないのに。まあ全くハズレって訳ではないんだよね。実際僕は他の人より沢山お小遣い貰ってるし。
で~も、今月は全部研究費に費やしたから本当にお金ないんだよね。さっきからそう言ってるのになんで話が通じないのかな。
……人間じゃないからか! きっと!
「しっかし、こいつ色白くて目デカくてまつ毛長くてちっちぇし、そこら辺の女より可愛くね?」
話の流れが良くない方に変わった。
「確かにー。声高いし喘ぎ声どんな感じなんだろ」
「ちょwww、何言ってんだよ。お前らホモじゃねえじゃん」
「そうだけどさ、気持ちいって言うじゃん?ホモセ。気になんね?」
「女よりも?」
「らしい」
ヤバい。話がおかしな方向に進んでいる。
「ねえボク、だったらさお金もってないんなら、躰で払うってのはどうよ」
いやらしい、汚い手が僕のほっぺたに寄る。
触るな! 下民が! と近づいてきた手を反射的に叩き落とす。
「痛っ!こいつ叩きやがって!? くそっ、もう我慢ならねえこっちこい!」
「い、嫌っ!」
嫌だ、怖いっ。誰か……助けて。……翔ちゃん!
無理やり腕を捕まれ、連れて行かれそうになった時後ろから別の人影が現れた。
僕の心は喜びでいっぱいになった。
出来るだけ声を低くして背後から声をかける。
「お前ら、僕の友達に何してんの」
不良たちが一斉に睨みをきかせ振り返る。
が、怯む。
なぜなら凄い形相で睨む背の高い男が見下ろしていたからだ。
しかしすぐに威勢を取り戻し、
「お前何様? なんの用」
と言う。
「別に、ただの一般人だけど友達がお前らにカツアゲされてたからその動画撮ったのを教えに来ただけだけど」
とスマホの画面を見せる。しっかり記録された一部始終を見て不良たちはたじろぐ。もう一押し。
「でさ俺の親、警察なんだよね。早くどっかに行かないとこれ親に送るから」
「……おい、早く行こうぜ」
最後に脅すと不良達は逃げていった。
因みに翔の父親が警察署に勤めていることは間違いではない。追い払えたことに安堵していると胸にゆうじが飛び込んできた。
「うえーん、翔ちゃーん、怖かったよう」
「おっと……、遅くなっちゃってごめん」
「ううん。いいの。絶対来てくれるって信じてたから」
そしてゆうじは小さく呟いた。
「……やっぱり僕を助けてくれるのは翔だけ……」
「ん? なんか言った?」
「ぜんぜーんっ!」
「あ、そう? でも助かってよかった〜」
翔はゆうじを安心させるように怖かったねーと頭をぽふぽふ撫でる。
「……あれっ、てかなんでゆうじ外いんの」
「だってえ翔ちゃん帰ってくるの遅いから迷ったり、変なのに絡まれたりしてるかもって心配になっちゃったの」
「帰り道でなんか迷わないよー。てか実際絡まれたのはゆうじでしょ」
「そうなんだよぉ。あ、ねえ、聞いてよあいつら僕のこと
「ふふっ。はいはい、ゆうじは十分かっこいいよ。頑張ってる頑張ってる」
「むぅ~、翔ちゃんまで」
「ゴメンゴメン」
冗談を言い合って2人で歩き出した。
「てゆーか、この前の全国大会凄かったね!」
「またその話? まあいいけど」
「だって見てたけど本当に風みたいだったんだって。あっという間にゴールしちゃってさ。そして一位でしょ。わぁ、やっぱり有象無象の低脳と凡夫と違って僕の親友はもう本当にすごい!」
偶にゆうじは人を見下した発言をする。
(また注意しなくちゃ)
と翔は思った。
「ありがと。あとゆうじさ……」
「スカウトいっぱいだろうに僕と同じ大学来てくれるなんて、僕マジで嬉しい!」
(あっ、しまった。志望校を変えたことが言いづらくなっちゃった。まあ後でタイミングはあるだろ)
「あ~、そ、そうだ。ちょうど家着いたし、荷物置いてくるわ。ちょっと待ってて」
「んー」
ゆうじの返事を背に、家に入り適当に靴を脱いでバタバタと階段を駆け上がる。荷物をベッドに放り投げまた階段を下り、リビングで韓流ドラマを視聴中の母に、
「ただいま。あとゆうじの家行ってくる」
と告げ、今度は母の『いってらっしゃい』を後ろに玄関を出た。
「ごめん、おまたせ」
「いーよ」
そしてお隣のゆうじの家へ入った。
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