14.竜の情報
「……竜じゃと?」
港湾都市で出会ったヴァリア騎士団の団長──アーサーの言葉を聞いたバハムートは、オウム返しのように言葉を返した。
その声色にはどこか自信が無く、震えているようで……それをジークもそれとなく感じていたのだった。
「えぇ。なんでも……古い詩などで語られる“ドラゴン”の姿に酷似しているそうです」
「……」
ドラゴン少女は……押し黙る。人食い竜が出たという報せ。そして、わざわざ騎士団長がこんな場所まで出向いているという現実。
その二つを照らし合わせると……“人食いドラゴン”は人間に危害を加える存在である……ということをうかがえる。
バハムートの心境としては、複雑そのものだった。ようやく同胞に出会える──そんな希望を見せられた矢先に、それが“魔物”のような存在である、というのだから。
「……で、それを俺達に話しても良いのか?」
そんな重苦しい空気を……ジークの言葉が破る。
「聞かれたから答えただけですよ、僕は。隠す意味も無いでしょう? あなた方が……あの竜と関わりがあるわけではないでしょうしね」
確かに──一見風変わりな二人組とはいえ──ただの冒険者と少女が竜に関わりがあるとは到底考えられない……と。
突如……“ゴーン”と重く響く鐘の音が港湾都市リーベに鳴り渡った。
「おや……もうこんな時間ですか。では僕は、これで」
そう言って……アーサーはその場を離れていく。相も変わらず、その様相はこんな場所に似つかわしくないほど高貴なもので……それこそ盗賊にでも襲われて身ぐるみを剥がされそうなほど。
けれども、そこは騎士団長。実力があるので問題ないのだろう。
「……勝手に来て勝手に去って行く……か」
「……」
そんな騎士団長の後ろ姿を見るジークと……俯くバハムート。いつものようにハキハキとした元気はなく、どこか落ち込んでいる様子だ。
そんな少女を見かねたからか……冒険者はある提案を持ちかけた。
「……探してみるか?」
「……どこにじゃ」
顔を伏せたまま口を開く少女。ジークは、そんな姿を見て続ける。周囲の冒険者達のうるさい声を気にせずに。
「……依頼だ。……あるかもしれないだろ? ……“人食い竜”に関するもんがさ」
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「はい、ございますよ」
冒険者と少女が拍子抜けするような声で……ギルドの受付はそう言った。そのまま、カウンターの下をごそごそと探り……二人へ一枚の紙を手渡す。
「……内容は……」
ジークは目をこらしながら“依頼書”に書かれた内容を読んでいく。どうやら──内容は“薬草”の調達らしい。
というのも、人食い竜が出現した近隣の村からの依頼で、けが人に備える為に薬を蓄えることとなり、急遽探し求めているのだとか。
ただ……“薬草”をある程度見分ける必要があり、戦闘の依頼がメインのこのギルドでは、担うことのできる人物が今まで居なかったのだろう。
「それでは、依頼の内容を登録しますね」
「あぁ、頼む」
ジークは受付へ“ヴァリアのギルド”所属であること、そしてその他諸々の必要な事項を伝えた。
そしてすぐに──冒険者へ依頼書が手渡される。
「行くぞ」
「……分かった」
直接人食い竜の討伐へ向かえる依頼は無い……というより、既に“高額な報酬金”目当てに依頼は枯れていた。
だが、“竜”が出現した近隣の村であるならば……ドラゴン少女の求める情報も入手できるだろう。
ギルドの受付嬢に見送られながら、ジークはそんなことを考えていた。
・
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──時間は少し進み、平原を歩くジーク達。リーベを後にした彼らは、依頼書に書かれていた村へと向かっていた。
その名前は……通称“古代村”。ドラゴニア開祖から存在している村と噂されるほどで、愛称として“古代村”と呼ばれている。
今回の人食い竜も、最初に発見したのはこの古代村の住民で、だからこそ、ジークが受けたような“襲われた”際の準備もしているのだろう……と。
「……」
相も変わらず口数が減少しているバハムート。草原を揺らす風は、優しいようでどこか肌寒い。
「……おい」
「なんじゃ」
前を向いたまま言葉を返す少女。ジークは頭を掻いて続ける。
「……お前、古代村について知ってることは?」
「そりゃまた、唐突じゃのう」
「……いいだろ、別に」
空元気も元気のうち……という訳では無いが、少女は一瞬だけいつもの調子に戻る。彼らの視界に、未だ村の姿は映っていない。
リーベの周囲に広がる草原を歩きながら、ドラゴン少女は語りはじめた。
「妾も詳しくは覚えて居らぬ。じゃが……ひとつだけ確かなことがある」
「……それは?」
「忘れた。あいにくじゃがの。くく」
……ジークは確信した。落ち込みながらもこんなやり取りができる時点で……目の前に居る存在は確かに“フォル村で出会った少女”なのだろうと。
冒険者をからかうことがトリガーとなったのかは定かでは無いが……バハムートも少しずつ調子を取り戻していく……と。
そんな良い感じの雰囲気になったのも束の間、少女が急に走り出し、道端にある小さな高台へと登った。
そしてそのまま……“ある場所”を指差す。
「──ほれ、ジーク、あれが古代村じゃ」
少女の指の先には……確かに村がある。フォル村とは異なる……どこか懐かしい雰囲気。自然に囲まれた、いわゆる“原風景”的な光景が広がっている。
そしてその近くには……地面が抉れた痕。
「確かに……人食い竜が近くを通ったみたいだな」
「……それを確かめに来たのであろう? 妾たちは」
そのまま高台からジャンプした少女は──地面に着地してすぐに走り出した。まるで元気有り余る子供のように。
ジークは、いつもと違い、それを咎めるわけでも無く……肩を落としてただ竜の背中を居っていく。それはきっと──少女の口が……久々に笑ったからだろう。
二人の足取りは──古代村へと行く。人食い竜の謎を、解き明かすために。
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