HAPPY BIRTHDAY
尾八原ジュージ
HAPPY BIRTHDAY
「今日は予定があるから」と定時退社し、ケーキ屋で予約しておいたバースデーケーキを受け取って、足取りも軽く特急列車に飛び込んだ男がいた。ケーキのプレートには「ハッピーバースデー みほちゃん」と書かれていたが、そのことは男を除けばケーキ屋の店員とパティシエしか知らず、一方彼らはケーキを受け取った男が死んだことを知らない。ただ店員は「私と同じ名前と誕生日のお子さんがいるのかな」と思った。
夜、仕事を終えた店員は、停車したままの電車を横目に見ながら徒歩で帰宅する。一人で暮らすアパートの一室、習慣に従って「ただいま」と言いながらドアを開けると、沈黙だけが返ってくるはずの暗い室内から「おかえり」とひしゃげたような男の声が聞こえた。
HAPPY BIRTHDAY 尾八原ジュージ @zi-yon
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