バスケの一面

伽噺家A

一話(完結)


 黒のユニフォームに身を包む彼は、教室で見せる顔とはかけ離れた顔だった。

 コンマ1秒の気も許されない、実戦の中で戦う者の顔だった。

 5月某日。バスケ部の試合を応援しに来ていた。第3クオーター。ルールはほとんどわからないが、ひっくり返すには難しいであろう点差がついていた。しかし、胸についた南高校の誇りと、実力の証である背番号に恥じぬよう、必死に走り、ボールに触る姿がそこにあった。

 ボールを持った彼にマークがつく。

 呼吸を整えるように2回ボールをつき、乾いたスキール音が観客席に届いたときには目の前の相手を置き去りにしていた。

 振り返ったと同時に伸ばされた相手の手が、ボールに届くことはなかった。

 わき上がる観客席。

 彼が放ったボールはリングに吸い込まれた。


 数十分後、無情にも彼らの敗北を決定する試合終了のブザーが鳴り響いた。

 次は勝ってほしい。どうしても。

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