第六話 めがね
「今日は少し遅めのお目覚めですか?桙風さん」
俺が、眠い脳を起こして目を開けると、知らない眼鏡をかけた女の子がいた。
しかし、声はいつもの声のなので、この女の子は夜見月だろう。
前髪を後ろにかけて、本を読んでいる。おそらく小説。
「今日は眼鏡をかけているんだな」
眼鏡をはずしたら美少女になる!!という風潮があるが、夜見月の場合はどっちでも容姿はいいので関係ない。
「はい。いつもはコンタクトなんですけど、桙風さんが心配で早く来ちゃって。それより、風邪は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。多分。」
昨日は夜見月が母を連れて来るというイレギュラーがあり、薄くなっていたが俺は風邪気味である。
昔から、俺は感情が体調に出やすい体質なのですぐに風邪になってしまう。
だが、それを母さんに言うタイミングなんてないので、こうやって心配してもらえるのは普通にありがたいし、少しほんわかする。
多分、と付けたのは保険だ。
「そうですか。私が昨日ママを連れてきてしまって、もっと悪化してしまったらどうしようかと......。でも、よかったです!!」
読んでいた小説を閉じて、ニコニコした笑顔でそう言ってくれる。
心配した結果、こんなにも早く来てくれたのだろう。
いつもの生活習慣によって起きるのが十時が早い方、十二時が普通くらいなので、今もそれくらいだろう。
「それに、もう包帯も取れてきて、元気みたいですね」
「あぁ、左足は骨折しているみたいだが、それ以外はもう万全だな。お前のおかげだな~。」
「......」
夜見月は俺の言葉を聞くな否や、顔をうずめて黙り込む。
昨日のお父さんの話題を出した時もそうだったが、何か責任を感じてしまっているときはこういう風になる癖があるのだろうか。
「えっと、その.....。桙風さんの自殺を止めたとき、近くに男の人がいっぱいいて持ち上げてもらえたのですが。左足は、私が、支えようとして.....。」
看護師も確かに「左足がかすれて」と言っていた。
俺の頭や胴体は大事なのでいろんな男の人が集まって支えてくれたが、左足は夜見月が担当していて、重さに耐えきれなく、かすれてしまったというだろう。
「いや、お前がいたから俺が助かったんだろ。それを俺が求めてなかったとしても、それは揺るがないと俺は思うがな」
「いや、えぇ?そ、えぇ?」
自分が悪いのは明らかなのに、励まされて戸惑っている、という反応だろうと俺は推測する。
確かに俺は勇気を振り絞って、宙へ一歩を踏み出した。
でも、夜見月がいたから助かった。というのはただの事実でどれだけ落ち込もうとも、わらない。
「で、でも!!私じゃなくて、もっとしっかりした男の人だったなら、桙風さん
は怪我なんてせずに、病院のお金とかも.....」
「そうだったとして、退院して母さんのところに戻っても、俺は幸せじゃない」
もし、この病院に通うことがなかったら、そのまま母さんのところに戻って、虐げられ何のためにかもわからずに働くだけだ。
「生きろ」だの、「これから先いいことある」など、インターネット上にあふれている。
今、辛いから死ぬんだ。未来のことなんて興味ないんだ。
未来が幸せだったとして、それが確実なものだと知ったとして、今が報われるのか?今が幸せになるのか?
俺が大きくなって、成人して、美少女と結婚して、たくさんの子供に囲まれて、最後には愛する人たちに囲まれて死ぬ。そんな最高な未来が来ると、自殺をする前に知らされたとしても俺は自殺をやめないと思う。
「そうですか......。そうですね......!!すいません。体調の悪い方にこんな話。えへへ、そっか......私が、いたから」
「あんまり調子にのるなよ」
えへへ、と顔を少し朱色に染めるやわらかい布団のような夜見月の顔に、俺の言葉を野球ボールのように投げつける。
「何でですか!!今いい雰囲気になりそうでしたのに」
「知らん」
夜見月は「もう...」と声を漏らして眼鏡をカチャっと鳴らした。
★ ★ ★
昨日は予定があり、投稿ができませんでした....
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます