第五話 お母さん


 医者に聞いたら案の定退院までちょうど一週間だった。

 昨日、夜見月は俺と約束をした後すぐに帰った。どうやら話したい人がいるらしい。おそらく母親か、いないと言っていた気がするが、彼氏だろう。


「もう包帯は取っても大丈夫ですが、左足の包帯はまだ外してはいけませんよ。骨折しているので」


 俺のベットまで来た看護師がそう話してくれる。

 奇跡的に助かった俺だが、左足だけ地面にかすってしまい骨折してしまったらしい。そこだけ固く包帯が巻かれており、他の部分はひらひらと緩くいつでも包帯を取ることができた。


「俺がそんなことを聞くとでも?」

「そうですね~。夜見月さんが怒りますよ?」

「知りません」


 看護師が含み笑いでそういうので、なんとなく腹が立ちつつも、俺は行き場をなくしたように目をそらす。

 看護師は俺が目を反らしたことに可愛いなあ、とでも言いたげだったが、それについては言及せずにどこかへ行った。


 外は久しぶりの快晴。最近春の訪れを感じるが、まだまだ寒い日が続く季節なので快晴の日の温かさはとても心地いい。

 春と言えば、高校だろう。

 俺は高校に行けないが夜見月はどうだろうな。以前模試では結構いい結果が取れていると言っていたので名門校とやらに行くのだろうか。俺には夢のまた夢だ。



「あら、こんなとこまで連れてきて、もしかして彼氏のご紹介?」

「違うから!!私好きな人とかないし!」

「じゃあ、大好きな人は?」

「いない!!」


 なんとなーく聞き覚えのある声と、なんとなーく聞き覚えのない声が一緒に聞こえて来る。あいつ声でかい。




「えっと、この人が私の母の夜見月由梨です。」

「もう、いつもどうりって言っていいのに。強がっちゃって~」

「お母さん!!」(怒)

「はいはい。私が夜見月虹薔の母、由梨です。娘と仲良くしてくれてありがとね~。付き合い始めたら虹薔の体は好きにしてもらっ―――「ママ!!」


 そっと俺のところまで来たと思ったら、そう仲がいいのか悪いのかわからない会話をしてくる。

 会話の内容的にこの人が夜見月の母だろう。パッと見たら五十代にも見えるし、三十代にも見える。おっとりしたような優しい表情で、と言うのが一番しっくりくるだろう。


 で、視線をそ~っと横にずらすと、夜見月の母さんらしき人の肩をゆらゆら揺らしている顔を顔をほんわか朱色に染めた夜見月がいる。

 まぁ、顔が赤いことを指摘したらもう一度、両手拘束の刑に処されるので黙っておこう。


「ど、どうも......。夜見月、この人は?」

「知りません。不審者か何かじゃないですか?」


 間違いなく不審者ではない。

 俺は少しだけ驚きながらというのは建前で、少し引きながら由梨と名乗った人に会釈をしておく。


「それは冗談ですが、昨日、桙風さんが家に来るということを母に話したら、会わせてくれと。急にこんな人を会わせてしまい、すいませんでした」

「ちょっと?こんな人って何よ」

「いやいや。俺が頼んでいる立場だからそれはいいんだけど......」


 当たり前だが、自分の娘が家に男を連れて来る、しかも定住させるとなれば会うのは当然だし、俺も会いたいと思っていた。

 夜見月の方から連れてきてくれたのは本当にありがたい限りである。


「夜見月、お前の父さんにもあいさつしたいのだが......」

「......」


 俺が聞くと、顔をうずめて黙り込むので、何か悪いことをしてしまったのかと少したじろむ。


「あなた、お名前は?」

「え?えっと。桙風希扶史ですけど......」


 夜見月のお母さん。まぁ、この人も夜見月なんで由梨さんと言うことにしよう。

 由梨さんが重くなった空気を切り開くように俺の名前を聞いてくる。

 俺は小学生のころ、名前が珍しく少しいじられていた経験があったので、俺は俺の名前があまり好きではない。

 ただ、苗字の「桙風」はかっこいいとよくほめられていたが。


 俺が名前を言うと、由梨さんは何かを思い出したいのか、顎に手を置いて考える。


「きふし......。お花の名前ね。」

「あ、家の庭にあるやつ?」


 そういえば、由梨さんからなんとなくいい匂いがすると思ったらお花の匂いだったのか。いや、そんなことないか。


「花言葉は確か......出会い?だったかしら?いい名前ね」


 ニコッと優しく微笑む由梨さんは、花をめでるように視線を俺と合わせる。

 一秒間も経っていないが、その眼を見ているとなんだか落ち着いて、気持ちよくなってくる。

 その後「出会い......」と声を漏らしたあと、夜見月の方を見る。


「ママ。なんでこっち見るの?」

「え~?別に~?」


 にやにやしながら、夜見月の頭をさわさわなでる由梨さん。それ、やめてー!と手をどけようとする夜見月。何ともほほえましく仲の良い風景だ。


「ふふ、希扶史くんに会ってよかったわ。あんまり気にしないでね?私、お金の面は余裕あるし、大丈夫だから」


 これはおそらく俺が夜見月家に住みに行かせてもらうことについて言っているのだろう。

 話したい人がいる、という夜見月が言った言葉の正体はやはり由梨さんことお母さんだったようだ。


「じゃあ、これからも虹薔をよろしく!虹薔、私と違って顔いいから」

「はい。夜見月、顔いいですもんね」

「さっきから二人ともって強調しないでもらえませんか?」


 俺も由梨さんと同じように合わせて強調すると、案の定ばれたようで、由梨さんと一緒にクスクス笑っておく。


「あ、そうそう」


 クスクス笑っていた由梨さんは、また、何かを思い出したかのように声を上げた後、俺の耳に口を近づけてそっと教えてくれる。


「......なんとなく状況はわかってるから、安心して?」



「さて!!お邪魔したら悪いし、私は帰るわね!!」


 体を百八十度回転して、病室の扉へ向かっていく。


「よし!!じゃあ、希扶史くん!!虹薔を頼みます!!」

「はい。頼まれましたので頑張ります」


 手を敬礼の形にして俺に頼んでくる。とりあえず、他の患者さんからの視線が痛いのでやめてほしいが、俺も言葉を返しておく。



「あと、虹薔は毎日病院行ってもらうからね」

「ま、まぁ。もとからそのつもりだけど......」


 二人ともが俺にはぎりぎり聞こえないくらいの声量でそういった。



 ★ ★ ★


頑張りたかったけど、二つは無理でした申し訳ありませんm(_ _)m

毎日投稿しんどいけど、小説書くの楽しいので頑張ります!!


PV300ありがとうございます!!ほとんど初投稿シリーズみたいなものなので最高にモチベーションが上がっております。

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