第四話 期待していたのか
「強いストレスによる風邪のような症状だと、お医者様から聞きました」
俺は昔からストレスをためやすい性質のようで、このようなことは幼いころによくあった。
「あの......本当にすいませんでした。何をしてしまったのかもわからなくて......本当に申し訳ありません」
夜見月は近くの椅子に当たり前のように座っており、医者から俺の様態を聞いてきてくれたようだ。
両手は拘束されていないが、今は動きたくもない。のどのあたりに強い痛みがあり、つばを飲み込むと強い痛みが走る。
薬はもう飲んだが、俺にとってはそれで収まらないのが普通だ。
夜見月は俺の母さんの事情なんてほとんど知らないのだから、何をしたのかわからないのは当たり前だ。
夜見月は顔を暗くして、言葉の最後は消えてしまいそうな声になりながら謝った。
「いや、こちらこそすまん。いや、すいません」
俺は久しぶりに謝った。というかなんで謝ったかもわからなかった。
おそらく本能的に悪いことをしたと思って条件反射で謝ったのだろう。
何が悪いのだろうか。女の子を泣かせたことか?それとも人に対して「消えろ」と軽々しく言ったからだろうか。
それとも何をしてしまったのかわからないことだろうか。
「えっと、本当に余計なお世話なことはわかっています。ですが、先ほどの会話を聞いて、昨日母と仲直りをして喜んでいる自分に腹が立ってきました。」
「だから頼ってくれって?」
「はい」
夜見月は即答した後、机の上にある一万円札が気になったようで、そちらに目をとめている。
「その一万円札は、母さんが置いていた金だ。これでこれから何とかしろって」
俺は寝ころんだまま拘束されていない左手を伸ばしてつかむ。
手を動かすと少し痛むし、包帯をしているのでつかみにくい。
「お前を頼ったところで、どうせ将来は闇だらけだ」
「......」
夜見月は何も言わなかった。かわいそうだとでも思っているのだろうか。それとも、哀れだと俺のことをけなすのか。
「お医者様はあなたが助かったのは奇跡的で、本当にけがも最小限で済んだといっておられました。おそらく後一週間もすれば退院の可能性もあると、」
早くね?とも思ったが、それに納得できるほど案外体の痛みは少ない。
退院が早いとなれば、病院に匿ってもらえる時間も少ないということだし、入院費用を請求される時間ももうそこまで来ているということになる。
一万円で何とかできるような手当じゃないし、仮にどうにかなったとしてもこれから生きる余裕なんてない。
あれ?なんで俺将来のこと考えているんだ?自殺するんじゃないのか?こいつのことなんか無視して俺はこんな世界から逃げ出すんじゃなかったのか?
死ぬのが、怖いのか?
じゃあなんで自殺なんてしたんだ。現実がいやだったから?母さんに子供じゃないと言われたから?自分が嫌いになったから?
俺が
俺が自殺をしたとしてもこいつなら助けてくれて、生かしてくれると期待したからか?
それを俺は否定して、自分は死にたいと訴え続けているということなのか?
「もしよければですが......」
夜見月はいたって真面目な表情で俺の両目をしっかりと見る。
そして恥ずかしそうに、でも少し微笑みかけて言った。
「私の家に来ますか?」
「夜見月がいいなら」
俺はためらいながらもそう答えた。
★ ★ ★
短くなってしまったので、これと同じ文字量のものを明日二つ出すと思います。
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