第二話 傲慢束縛女


「ああ!!もうまたあなたは何をしているんですか」


 俺は近くの壁に頭をバンバンぶつけていたので、音が聞こえたのか夜見月が駆けつけて来る。

 両手が固定されている状態で自分を痛めつける方法はこれ以外になかった。


「何って、頭ぶつけてるだけだが。もしかしてお前頭弱い?」

「頭弱いのはあなたでしょうが!!」


 時間的には六時くらいだろう。太陽の光がオレンジ色に輝き、夕方が来たことをを俺たちに知らせる。ここの病院に来てから結構立つが、いまだ両手は拘束中だ。

  夜見月はご飯の乗ったおぼんを近くの机に置いて、俺の頭を押さえてくる。


「ほら、ごはん持ってきたので食べますよ」


 俺の頭叩きが落ち着いたのを見ると夜見月がはぁ、と安堵したようなため息をついて、近くの椅子に座りなおす。

 夜見月がベットの横のボタンを押すと、ウィーンと機会音を立てて、ベットが動き俺の上半身が起こされる。ナニコレ、スゴ。


 上半身が起きると病院の部屋がよく見えるので、見渡す。

 すると、周りにはお年寄りの人が多かった。もう夕方なので寝ている人もいれば、まだまだ元気そうにお見舞いに来た人と話している人もいた。

 俺が頭をぶつけていたのを気にかけている人はいなく、なんとなく居心地の悪さを感じた。

 カチャと食器と食器が当たる音が聞こえたので夜見月の方を見てみると、夜見月は茶碗とスプーンを持って、俺の口まで移動させようとしてくる。


「あ~んです」

「は?俺にあ~んされろと?」

「はい。両手塞がってたら食べれないですよね?」


 何言ってんだこいつ、とでも言いたげに夜見月は俺を見つめるが、こっちが何言ってんだこいつ、状態なのだ。

 おそらく近くの年齢の男女が公共の場でそんなことでもしてみれば、周りから生ぬるい目で見られ、既成事実を作られるに違いない。


 そもそも、普通の人からしたらこいつは命の恩人だが、俺からしたら命の恩人に見せかけたただの余計なお世話人間なのでこんなこともしたくない。


「他にも方法あるだろ」

「あ~んされるの嫌ですか?」


 嫌かと聞かれたらすごく嫌だ。嫌か良いかで言われたらすごく嫌だ。

 俺的には拘束を解くという考えが真っ先に出てきて欲しかったものだ。

 確かに第三者から見たら美少女にあ~んをされるというラブコメ定番のシチュエーションだが、正直何も感じない。逆に感じる主人公たちの方がおかしい。あいつらコミュ力高すぎだろ。


「俺は別に何も感じないが、お前は何も感じないのか?」

「といいますと?」


 首を少し斜めにかしげて聞いてくるが、あ~んの意味をこいつは知らないのか。


「年の近い男女があ~んしてるなんて周りの人からはなんと思われるだろうな」

「はぁ~!!!」


 俺がからかうように話せば、だんだんと顔が真っ赤になっていくグラデーションが分かりやすく表れている。

 夜見月が急に周りをきょろきょろオドオドしだすので「ふんっ」とふざけて勝ち誇ったような笑みを浮かべると。

 

「何女の子にあ~んさせてるんですか!!」

 と理不尽に怒鳴りつけて来る。

「お前がさせてるんだろ」


 事実、勝手にお盆の料理を持ってきたと思ったら勝手にあ~んして勝手に自爆して怒ってるただの変人なのでやめてほしいのだが。こちらまで恥ずかしくなる。


「ああもう自分で食べてください!!」

「いや、両手拘束されてんだって。束縛傲慢女」

「束縛したのは私じゃないです!!」


 そうだった。束縛したのは看護師だったっけか?まぁ、傲慢という部分は否定していなかったので次からはこいつの事は傲慢と呼ぶことにしよう。


 そんな冗談(半分)は置いておいて、最終的には議論の上、俺が目をつぶって食べることになった。

 俺的には普通に拘束を放してほしいのだが、若干手がビリビリしてしびれてきたし。


「じゃあ、目つぶっててくださいね」

「はいよ」


 口を開けたままにしていると、おそらく魚系のおかずが口の中に放り込まれる。


「あ、普通にうまいな。俺的には質素な味がするもんだと」


 勝手なイメージの話だが、病院のご飯は健康を一番に考えていて味には考慮されていないという考えだった。

 実際にはそんなことはなく、健康的な優しい風味は残しつつ味付けと肉から染み出るうまみがじわっと咥内に広がりとてもおいしかった。


 ■ ■ ■


 お盆の上のご飯を一通り食べ終わると、あ~んで食べていたからか結構時間がかかり、外はもう赤色から紺色に移り変わっていた。

 一応、俺がスプーンの端を口の上の方に強く押し付けたりしてみたが思ったより痛みはなかったし、普通に夜見月から怒られた。


「んぅ......」


 いろんなことがあって疲れたのか夜見月は眠そうに頭をゆらゆらさせている。さすがにこいつが帰るときには拘束は解かれるだろうし、看護師も医者も帰ると思うので好きに行動できるだろう。

 まだまだ時間的には早いが、病院の中は寂しく静かだった。


 プルルルルル、プルルルルル。

 そんなことを考えていれば小さな机の上に置かれていたスマホが静けさを破るように鳴る。俺はスマホを持ったまま自殺していないので確定で夜見月のものだろう。


「おい、夜見月、出なくていいのか?お母さんって書いてるぞ」

「お、おかあ、さん」


 俺の声でしっかりと意識を取り戻したのか、目がパチッと大きくなる。

 先ほどまでの元気がなくなっている。それは睡魔からもあるだろうが、なんとなく電話に出るのをためらっているようにも見えた。

 その抵抗は恐怖というよりも、申し訳なさなどの悲しさの類のようだ。


 プルルルルル、プルルルルル。

 夜見月が着信許可のボタンを押すか押さないかで迷っている時もコールは続いていく。


 ツー。

 夜見月はためらいを押し切って、ボタンを押した。



★ ★ ★


少しでも気に入ってくれたらうれしいです!!

昨日中に出したかったけどギリギリ出せなかった......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る