第1章 第6話 高威力魔法への興味

「B級の層の敵もあらかたやれるようになったんじゃないかしら?もっと深くのA級の層に行ってみたいわね」

 

 アーデルフィアは上機嫌であったが、A級が出る深さに行くと苔むした甲羅の大亀と再会しそうである。他の敵はあそこまで硬い訳ではないだろうが、アレと同程度の難易度と言われると二の足を踏む思いである。


「あの大亀以外のA級の敵がどんな物かによる気がします。あの大亀でさえ手詰まりでしたからね」


 ユイエとしては、他のA級で出現する魔物を調べて、倒せそうだと判断できたらで良いのではと考える。


「確かにアレは魔法士に倒してもらった方が良いと思うくらいに硬かったですね。魔法士科の訓練、期待してますよ」

 メイヴィルに言われて思わず苦笑いで返すしかなかった。


 魔法士科の魔法関連の授業と自分達の魔法の使い方の理論が違う気がして、いまいち気が乗らないのが原因である。


「魔法士科の上級生とか皇国騎士団の魔法士兵科の方の強い魔法を見せて貰いたいですね。強い魔法のイメージが確立すれば、何とかなりそうな気がします」


「今度皇国騎士団の魔法兵科の訓練の見学でもさせてもらえないかしら?進路について考えてるとか言っておけば見学くらいさせてもらえそうな気がしない?」


「そうですね。総合火力演習みたいな、高威力の魔法をドカンとやる訓練だけでも良いので見てみたいですね」


 苔むした甲羅の大亀へのリベンジを前提に、もう少し自分達の魔法の火力を上げるために努力しようと強く意識した。



 森の入り口側に設営したベースキャンプに合流し、食事と睡眠をとって初日を終えた。


 翌日、今度は森の西側へ行き、大狼ハイ・ウルフよりも大きく、毛並みが黒い狼型の魔物と戦った。影魔法と思われる身体拘束や陰から生えてくる槍のような物に驚いたものの、1頭だけだったので4人で囲めば無理なく倒せた。これが多数出てくると拘束と刺突の連携を受けるだけで危機に陥りそうだと感じた。討伐証明部位は尻尾だった。毛皮を剥いで魔石と共に持ち帰る事にする。


 その他は前回きた時と同じ種類の魔物だけで、特に新しい魔物との遭遇はなかった。2日目の狩りを終えて夕方に森の入口側のベースキャンプに戻ると食事と睡眠を取り、翌朝には皇都への帰路についた。


 探索者シーカーズギルドで討伐報告と換金を済ませるとウェッジウルヴズ家の屋敷へと帰って行った。


◆◆◆◆


 翌日、学園の冬学期が再開した。


 最初の魔法士学科の実技授業の終わり際、講師を捕まえて相談してみた。


「高威力魔法の実演をみたいのです。皇国騎士団の魔法士兵科の火力演習とか、有名な魔法士の探索者シーカーとか、どなたかお知り合いにいらっしゃいませんか?紹介を受けたいのですが」


「高威力、ね。それなら3学年の魔法士科の実技を担当しているレミュー・サイフォン講師なんか良いんじゃないかな?高威力魔法なら宮廷魔法士団並の実力があるから参考になると思うよ?」


 意外と近くに参考になる人物がいるらしい事がわかった。


「レミュー・サイフォン講師ですか。講師の控室に行けば会えますかね?」

「ん~、彼女の場合は講師の控室より研究室に籠ってる方が多いと思うよ」

「そうですか、研究室の場所を教えてください」


 研究室の場所を教えて貰うと、授業のない空きの1コマの時間を使って研究室を訪問してみる。研究室の表札を確かめて間違っていない事を確認すると、扉をノックする。


「はぁ~い、開いてるよ、どうぞ~」


 中から返事が返って来たため、扉を開けて入室してみる。


「失礼します。はじめまして。1学年の魔法士科、ユイエ・アズライールとアーデルフィア・ウェッジウルヴズです」


 入室するとひとまず立礼をしつつ挨拶をする。

 すると執務デスクに座っていた女性が顔を上げ、ユイエとアーデルフィアの顔を確認して笑顔になった。


「あぁ、1年で飛び切り優秀と噂の二人だね?はじめまして。私がレミュー・サイフォンだよ」


 切り揃えられた前髪と、胸元まで届く長さの癖のない黒髪が美しい。凄腕と聞いていたため想像していた年齢層よりもずっと若く、最近まで学生だったのでは?という程に若々しい女性であった。


「それで、何か用があって来たんだろう?とりあえず聞こうか?」


 レミュー講師が執務室を立って、応接セットのソファーの方へと移動する。あわせてユイエとアーデルフィアも対面のソファに移動し、着席を勧められたので着席した。


「失礼します。では早速ですが、本題に入らせて頂きます。高威力魔法の実演を披露して頂きたく思い、お訪ねしました」

 ユイエがサクッと核心を突いて答えた。

「ほう。高威力魔法の実演を?何故だい?」

 レミューが軽く首を傾げつつ問う。


「実は私達二人は探索者シーカーもしておりまして。皇都の北にある≪樹海の魔境≫で物理攻撃が全然通らない魔物と戦う機会がありました。物理攻撃が駄目なら魔法攻撃を、と思い実行したのですが、我々の使える攻撃魔法は基礎魔法に毛が生えた程度の攻撃魔法です。当たり前のようにこれも通じませんでした」


「なるほど?」


「もっと高威力の魔法が使えれば。そう思った時に、我々二人はそもそも高威力魔法というものを見たことが無い事に気が付きまして。1学年の魔法士科の実技講師殿に相談したところ、レミュー講師の高威力魔法が参考になるのではないかと伺いましてレミュー講師を訊ねた次第です」


「ふむ。≪樹海の魔境≫で君たちの物理攻撃と攻撃魔法が効かない敵ね。それはあれかい、苔むした甲羅の大亀ってやつかい?」


 レミュー講師の指摘がドンピシャだったため少し驚きつつ、アーデルフィアと一緒に頷いた。


「驚きました。その大亀の事です。今後、私達が魔法士として強くなっていくためには、実力者の使う高威力魔法の実演を視る事がどうしても必要だと考えていました。これは、私達二人の魔法は魔力マナの他に強いイメージが大切であるという理念に基づく欲求です」


「なるほどね。話は分かった。いいよ、実演しよう。私が使える複数種類の魔法をみせてあげる。その代わりに、君達のビフォー・アフターを見せて欲しい。イメージが大切だという君達が私の高威力魔法をみて、その魔法がどう変わるのか。是非見せてもらいたいな」


「「ありがとうございます!」」


 話をユイエに任せていたアーデルフィアも、レミュー講師に頭を下げて感謝を述べた。


 白衣を着たレミュー講師は立ち上がると早速扉の方へと向かっていった。


「結界魔法の保護が頑丈な第3演習場を使おう」

「「はい!」」




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