序章 第9話 氣《プラーナ》(2)
まずはユイエがサラが指差したカウチソファに横になる。サラはその横に立つと、ユイエの心臓のあたりに手を当て、ユイエの顔をちらりとみて言う。
「身体の中を針が這い回るような痛みだからね。頑張って耐えてね」
サラの言葉が終わると同時に、
「ぐ……ッ痛ッ……あああああああ!」
訓練で外傷の痛みには慣れているが、直接身体の中に走る痛みは未知の物であり、身体が硬直して跳ね、背中が反ったり痛みで身体が内側から千切れるんじゃないかと思う程の痛みを味わう。永遠にも思えるような身体中の痛みが終わると、アーデルフィアがユイエにそっと【清浄】をかけてくれた。おそらく涎や鼻水、涙などで酷い有様だったのだろう。粗相までしてたらショックだなと思いつつ、荒い呼吸を繰り返す。
「さて、どうかな?
サラの言葉を聞きながら、ユイエが目を閉じて体内に感覚を集中していく。
「あ……。これかな?
「おめでとう。それが
「私も!私もお願いします!」
アーデルフィアも手を挙げて希望する。
「今のユイエ君をみてたのにやる気になったの?痛いだけで効果が出無くても、苦情は受け付けないよ?」
「はい!それでもお願いします!」
痛みだけで
「そ、そう?止めるかと思ってたのにやる気満々だね?わかったよ。ほら、ユイエ君。場所空けてね」
ユイエは何とか身体を起こし、ソファを空けた。全身が極度の筋肉痛を訴えているようだった。ユイエは呼吸を整えつつ、治癒魔法で筋肉の痛みを和らげようと試みる。
「それじゃ次。アーデルフィア様、いってみようか」
「はい。あ、でも顔にタオルか何か掛けておいてもらえると助かります……」
「侍女さん持ってる?」
「どうぞ」
マチルダがエプロンからタオルを取り出してアーデルフィアに手渡した。
「ありがとう、マチルダ」
アーデルフィアはタオルを顔に掛け、目を瞑って待つ。
「それじゃ、いくよ~」
「はい。よろしくお願いします」
アーデルフィアの返事を聞くと、サラがアーデルフィアの心臓の辺りに手をやり、
「うッ、痛ったぁ……これ、は、キツ、イ……痛痛痛痛痛痛」
背中を反らし身体を跳ねさせる。全身の皮膚の下を針が這い回り、より体内の深くに潜り込んで行くような、異様な不快感と痛みに耐えてなんとか気を保ってやり過ごす。サラが手を引っ込めると痛みが徐々に落ち着いた。ようやく回路の拡張が終了したらしい。タオルで隠した顔のあれこれを自分の【清浄】魔法ですっきりさせてから、顔に掛けていたタオルを外し、上半身を起こした。
「生きたまま魔物に食べられるのって、こんな感じなのかなっておもいました」
「よく頑張ったね、アーデルフィア様。もう一度掌出して。今度はさっきより自覚できるかもよ」
サラの指示通り、アーデルフィアが両手の掌をだして、サラがその掌に自分の掌を重ね、再び
「あ、さっきより断然感じます。これが
アーデルフィアに続いてユイエも両手の掌を差し出すとサラ講師が掌を合わせて
「あ……。私もさっきよりはっきり分かりました」
「二人ともおめでとう。それが
サラが柔らかく微笑み、アーデルフィアとユイエが深く頭を下げて礼を述べた。
「「はい!ありがとうございます!!」」
◆◆◆◆
サラの契約期間の7ヶ月の間は、とにかく
はじめは自力で
この制御が速く正確になって来ると、次は走りながらなど別の事をしながら
今後の課題としては、他の動作に合わせた最適な場所に
例えば拳打。足の踏み込み、足首の捻り、ふくらはぎから太腿を通って腰を回し、腹筋と胸筋、背筋を伝って肩へ力を伝え、肩からから肘、肘から拳、拳への捩じりへと力を伝導させる。
身体の構造上、連動する動作に一部のズレもなく
最終的には呼吸と同じくらいの当り前さで操作できるようになることを課された。
「うん、二人ともたった7ヶ月ぽっちの訓練でよくぞここまで成長したね」
「サラ先生のお陰で、何とか
「サラ先生は来月から皇立カグツチ学園で実技の講師をやると聞きました。私達が入学するまで、首にされない様に頑張って下さい。ここまでのご指導、本当にありがとうございました」
アーデルフィアが折り目正しく礼をし、ユイエがこれからのサラに皮肉な感じで、でも再会を期待して、礼をした。
(お願い事)
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