序章 第7話 実戦経験(2)
森の魔物の間引きはその後2日間行われ、初日に出くわさなかった猪型の魔物や熊型の魔物の相手もする事が出来た。
十分に間引きを済ませて宿場町へと帰る途中、切り立った丘の隘路で金属同士が打ち合わされる戦闘音が聞こえ、一行は馬を急がせた。
現場に着くと野盗と思しき風体の集団が、荷馬車の護衛達を襲っていた。
「野盗ですか!加勢します!!」
「加勢感謝します!!」
短いやり取りを終わらせると、馬上から槍を繰り出し野盗を突き殺していく。不利を悟って逃げ出す野盗を追いかけ、背後から容赦なく突き殺す。
野盗とはいえ人間相手にはもっと嫌悪感が湧くものかと思っていたが、二人は不愉快さを感じはしても、躊躇わずに殺すことができた。これなら次にその機会がきても無事にやれるだろうと、自信を深めた。
ユイエとアーデルフィアが馬車の位置まで戻ると、投降した野盗が縄で縛られていた。助けた護衛達の傷の手当ても行っている。
「捕虜?街まで連れて行くんですか?」
「野盗の
ユイエの疑問にガラッドが短く答えた。野盗はもう諦めたのか、放心したように空を見上げている。
「(なるほど、残党の退治と盗品の押収ですね)」
意図を察してアーデルフィアと共に頷き返した。
助けた商人達の再出発を見送ると、捕らえた野盗を馬に積んで
街道から丘を挟んで死角になる場所に岩場があり、岩場の奥が洞窟になっている。
「
「そうか。それなら入口を押さえて逃走防止する班と、
出口が1つなら見張りに発見されても別の出口から逃げられるような事もない。一行は騎乗のまま岩場の洞窟へと向かう。見張りがこちらの動きに気付いて、慌てた様子で中へと走って行った。
「エーギス領の兵士は入口の封鎖と馬の管理を頼む。騎士と公女殿下、ユイエ様は洞窟内の掃討を対応しましょう」
ガラッドの案に頷く。ユイエは槍を馬の鞍に付けたまま下馬すると、小剣を抜いて状態を確認する。それをみてアーデルフィアも槍を馬の鞍に戻し、小剣を抜いて刃の状態をチェックした。
「洞窟内で長柄の武器は取り回しが大変だものね。小剣を持っておいて正解だったわ」
鞘に刃を戻しつつ、アーデルフィアがユイエに声を掛ける。
「洞窟内は狭いでしょうから、突きが主体になるかもしれませんね」
「そうね。振り被って天井や壁に引っ掛かったら隙が致命的だものね」
先頭はエーギス領の騎士が2名で務め、ユイエとアーデルフィアが後に続き、その後ろをサイラスとメイヴィルがカバーするように続いて入っていく。
通路は大人二人が同時に通れる程度には広く、少し進むと右手と左手に別れるT字路になっていた。ここまで2列で5名ずつの10名の並びで進んできたので、右側の列は右手の通路へ、左側の列は左手の通路へと分担して移動する。ユイエが左側の通路へ向かい、アーデルフィアは右側の通路へと別れて行った。
左手の通路は一本道で、ところどころに小部屋があり荷物も置かれていたため、敵が潜んでいないか確認しながらの進行となり意外と時間が掛かっていた。
最奥までいくと大部屋になっており、手入れの悪い小剣などの武器を構えた野盗が9人居た。
「エーギス領の騎士団である!死にたくなければ武器を捨てて投降せよ!抵抗するなら斬り伏せる!」
嘘である。エーギス領では野盗は死罪のため、大人しく捕縛されても死ぬタイミングが少し遅くなるだけだ。
「捕縛されたらどうせ死罪なんだろ!だったら最期まで抵抗するぞ!」
リーダー格の身体の大きな男が叫ぶと、手下達も覚悟を決めた顔をみせ、一斉に戦闘がはじまった。
ユイエは次々と立ち塞がる手下達を刺し殺しながらリーダーへと迫り斬り結ぶ。
リーダーは手下と比べれば手強かったものの、騎士と比べれば素人同然の動きだった。ほんの2合打ち合わせたところで身体強化した踏み込みで一気に間合いを詰め、小剣を脇腹から心臓に向けて突き刺し、刃を捻りながら抜くと地面に倒れ込んで、咳き込み吐血しながら死んでいった。
一方、アーデルフィアの進んだ右側の通路の先は、捕まった女性達が嬲られる部屋だった。目の焦点の合ってない女性を二名、保護した。【清浄】の魔法をかけて縄を解き、マジックバッグから出した毛布を羽織らせる。自分達が助けられた事に漸く気付き、二人は感情を取り戻した様に大泣きしていた。救助者二名を連れて洞窟の外に出ると、女性の兵士が衣類を取り出して着せてやっていた。
少し遅れてユイエ達の班も戻ってきたが、こちらは戦闘があったようで返り血を浴びている。
アーデルフィアがユイエに【清浄】の魔法をかけて血糊を掃除してくれた。
救助された女性達はエーギス領の兵士達が持って来ていた荷車の馬車に乗り、とりあえずエーギス領の兵舎で保護される事になった。その後の身の振りについては落ち着いてから話し合うとの事だった。
ユイエ達一行は宿場町で1泊し、翌日の早朝から皇都へ向かって駆けていく。
「ねぇ、野盗相手にちゃんとやれた?」
「そうですね。特に忌避感はありませんでした。迷わず刺し殺せましたし。アーデルフィア様はどうでした?」
「私も、特に。魔物斬るのと大差なかったわね。自分で思っていたよりも神経が図太いみたい」
「ご自分では繊細だと思ってらっしゃったのですか?」
「殴るわよ」
言われた時には既に肩口を殴られていた。
「言う前に殴らないで下さいよ……」
殴られた肩口を摩りながら文句を言うと、再び拳が振り上げられたのを見てユイエは拍車をかけ、馬の速度を上げて逃げていった。
(お願い事)
★評価、ブックマーク登録、♥応援 などのリアクションをお願いします。
コメントなしで★や♥だけで十分です。モチベーションや継続力に直結しますので、何卒よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます