第2話  己を知る

 翌朝、フィーネが意気揚々とわたくしの部屋へやってきました。


「では、お嬢様。オークから人間になるために、まずは己を知りましょう」


「あら……わたくしは、わたくしのことを、知っているつもりですわ?」


「では、豚じゃなかったお嬢様は、一日何食お召し上がりになられますか?」


「朝ごはんに昼ごはん……ティータイムが終わったらおやつタイムでしょー? お夕食前に、軽く、お菓子を摘んで、お夕食……お夜食。だから、お食事としては、四回かしら?」


「シャラップ! それは、七回というのです。お嬢様」


 フィーネがどこからか黒板と棒を取り出し、バシバシ叩きながら話を続けます。


「一日三回。健康な人が一般的に取る食事の回数です! お嬢様はその倍以上! それは、倍以上の体重になります。それに加えて」


 フィーネはわたくしの朝食の皿を取り出してきます。


「一食をいったいどれだけ食べているんですか!? 常人の三倍は召し上がっていらっしゃいますよね?」


「そうかしら? 我が家では、これが、普通だけど」


「いい加減、気付いてください。公爵も公爵夫人も不健康だと」


 確かにお父様はお薬が手放せませんし、お母様は身体のあちこちを痛めていらっしゃいます。


「では……食べる量を、減らせばいいのかしら?」


「まずは無理せず、腹八番目を目指していきましょう? お嬢様」


「その……運動とかは?」


「お怪我なさりたいのですか? お嬢様の肉体に負荷をかけて、お嬢様のお身体が耐えれるとでも? 歩くだけでも精一杯でしょう?」


「は……はい」





 いつの間にか我が家の食事が、ヘルシー健康メニューに差し替えられておりました。お父様とお母様は身体が軽くなった気がするとおっしゃっているけど……。

 わたくし、何が嬉しくて、大嫌いな海藻やきのこ、野菜、豆腐といった豆類を食さなければならないのですのー!まごわやさしいってなんですのー!?





 そうして、フィーネは計量計を取り出してきましたの。


「お嬢様。お乗りください」


「これは……家畜の重さを計るもの、でなくて?」


「はい。お嬢様の重さに相応しいのはこちらです」


「わかったわ……」


 そう言って、わたくしが計量計にのると、フィーネはメモを取り出しました。


「ついでに失礼致します」


「な……何をするの?」


 フィーネはわたくしの身体にぐるぐると糸を巻きつけ、何やら長さを測っています。


「お嬢様の現在の状況を全て記録するのです。結果が見えた方がやる気につながりますから。次は映し絵で記録しますから、軽装に着替えてください」


「はい……って、本当に、これに、着替えろ、と?」


「はい。一番身体のラインが出る格好です」


「お腹も足も腕も出ていて、淑女として」


「そんなデブが何恥じらってるんだよ。黙って映されろ」


「は……はぃぃぃぃ!」


 フィーネがこわくて、言うことを素直に聞きましたわ。

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