第3話 身体を柔らかくする

「では、お嬢様。まずは無理のない範囲の水中ウォーキングとストレッチから始めましょう」


「まぁ……ストレッチも、するの?」


「冷えて硬くなった贅肉がどうして燃焼されましょうか?」


「ご、ごめんなさい。わたくし、頑張りますわ!」


 フィーネのあまりの表情の怖さに、わたくしは質問を取りやめ、慌ててストレッチをはじめました。


「お嬢様……? 何をしておいでですか?」


「フィーネ? 何を言っているの? ストレッチよ?」


 わたくしが小首を傾げると、フィーネはどこからか鞭を取り出し、床を叩きました。


「お嬢様! 全く柔軟性がないじゃないですか!! どうなってるんですか!」


「だって……お腹のお肉がつかえて……」


「この豚! オーク! 上に乗って少しずつ柔らかくしてやるよ!」


 床をばしんばしんと叩きながら、フィーネはわたくしの背中の上に座りました。少しずつ体重をかけてくるその圧で、わたくしは少しずつ前に倒れることができました。しかし……。


「痛い! 痛いわ! フィーネ!」


「黙れオーク! その痛みは必要な痛みよ!」


「フィ、フィーネ……何か怖いわ!」



 全身くまなく柔らかく引き伸ばされたわたくしは、ぜいぜいと息を吐きます。その横でフィーネはお顔が艶々と輝いているように見えますわ。


「お嬢様。興奮しすぎて言葉が過ぎました。失礼いたしました。では、ゆっくりと水中ウォーキングをしていきましょうか?」


 息の切れているわたくしに、フィーネは満面の笑みを浮かべて手を差し出すのでした。


「ええ……うちのプールって久しく使っていないけれど、使えるのかしら?」


「もちろん、お嬢様のために皆で磨き上げておきました」


 よく見ると、満面の笑みのフィーネの周りのメイドたちの顔は、疲れ切っていましたわ。

 ……みな、ごめんなさい。わたくしのために頑張ってくださったのね。わたくし、皆の努力に報いるためにも頑張りますわ!

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