オーク令嬢の減量譚(のんびり更新)
碧桜 汐香
第1話 メイドの奏上
わたくしが一番好きなこと。のんびりお菓子を食べること。のんびりごろごろと惰眠を貪ること。
わたくしが一番苦手なこと。運動すること。我慢すること。
そんなわたくし、
「お嬢様!」
「あら……なぁに? フィーネ」
首を傾げながら問いかけると、フィーネは答えましたわ。
「僭越ながら、メイドの分際でお嬢様に奏上いたします」
「え、えぇ……」
奏上とは、我が家では命をかけてでも主人に伝えたいことがあるときに使うもの。他の使用人も邪魔ができない。命懸けでフィーネは何を言うのかしら。
「
「だ……
わたくしがポカンとした表情を浮かべていると、フィーネは畳み掛けるように続けます。
「僭越ながら、お嬢様は他の貴族の方々にオーク令嬢と呼ばれております。私はそれが悲しいのです」
「えぇ……まぁ」
知っているわ。わたくしが8歳の頃呼ばれたお茶会での出来事がきっかけですもの。
その頃にはもうすでに食べることが大好きだったわたくし。お菓子を頬張り、ご飯とたくさん食べすくすくと育っておりました。
皆より一回りも二回りも大きな私が王家主催のお茶会で、子供用の椅子に座ったとき、悲劇が起こったのです。
がっしゃーん!
「きゃああああ!」
「まぁ! リリアントマリアベル様! 大丈夫ですか!?」
わたくしが椅子を踏み潰して壊してしまいました。
その日は王家主催の子供向けのお茶会。実際のところは、同じ歳周りの子供達が集められ、第一王子の側近や
不幸なことなことなのか幸運なことなのか、地方出身で親と共に魔物討伐に参戦している子もおりました。
「オークだ」
「む? オーク?」
わたくしを見てその子が“オーク”と言い、それを聞いた子供たちは興味津々に聞きました。
「オークは、そのように肉体を使って、敵を踏み潰すのだ」
「オークじゃないか!」
「光り輝く女神よりもオークの方がピッタリだ!」
「オーク令嬢だ!」
そうして、わたくしはオーク令嬢と呼ばれることとなったのです。
ちなみに、“オーク”とはじめにいった子とその親は、後日、真っ青になって謝罪に来ました。
「笑いに変えられたら、リリアントマリアベル嬢の失態にならないかと思って」
そんな不器用なやさしさが、子供心に嬉しく思ったのでしたわ。ですからわたくし、オーク令嬢と呼ばれても構わないのです。
「お嬢様は、磨けば光る原石なのです」
奏上を続けるメイドは、語り続けます。
「今後とも私めの不敬を許してくだされば、必ずしも光り輝く女神として、王国中に名を馳せる令嬢にしてみせます」
「まぁ……。わたくしの、名前と同じ、光り輝く女神、に?」
わたくしが興味を惹かれたのを幸いと、フィーネは話をまとめてしまわれました。
今日までは自由に過ごしていいと言っていたので、いつも通りゴロゴロとお菓子を食べましょうか。
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