第11話
結局ゼファー教の者たちは何もできずに帰っていった、多宗教とはいえ民衆から人気のあるたぬ…ラーンク司祭に場の空気を握られた状態で強権を振るうことはできなかったのだ。
民衆たちも勇者や聖女のことで聞きたいことがあるだろうがさすがに王の前を遮るものはおらず俺達はやっと城へと戻ることができたのだが……
「父上…どういうことか説明いただけますかな?」
城の入り口には武装した騎士団を従えた王子様?がこちらに武器を向けた状態で待っていた。
(どちら様で?)と俺が勇者に尋ねるとこの国の第二王子だとのこと。
ブレイブ王国では国王がジョブの都合もあり前線砦に張り付いていることが多いので代わりに第一王子が国内の采配をとっており、非常に評判がいいらしい。
とはいえ第2皇子も決して無能というわけではないようで彼にも支援者はそれなりにおり、隙あらば王位を狙っているようだ、そして今まさに国王陛下が隙を晒しそこに付け込もうとしたということだ。
「セインか、どういうことも何もないこちらにいるイチロウ殿は我々の砦を囲む魔王軍をうち、生贄にされた勇者殿を蘇らせてくれた、勇者復活のためには彼を神として崇める存在が必要であり、ある程度位階の高く真剣に敬意を持ってくれる存在としてわしを必要としてくれたから崇めただけのことだ、あくまでもわしが信じているだけでお前達にも信じろとは言わんよ」
ブレイブ王の言葉にセイン王子は苦虫を噛んだような顔をし、そうではないと王様に食って掛かる。
二人の間に立つようにセレーヌとサブロウ立ちそれに反応するように王子の後ろに立つ騎士団が殺気立つ。
セレーヌとサブロウはまるで誘うかのようににやにやと笑い彼等の馬鹿にするようにふるまい、第二王子は怒りに顔を真っ赤にしている、もうやだこの子達頭痛い……
「やめよ、何が不満だというのだ元々王家は神を信じてはおらぬ政治のための信仰だといつも言っているではないか、お前も信じていなかった神を変えて何が不満だというのだ」
王様の言葉に俺はぎょっとする王家が神を信じていないということはうすうす全員が思っていたことだろう、だがそれを言葉にするのは問題だろう。
当たり前だが騎士の中にも様々な宗教を信じているものは多い、その中でもゼファー教は比較的多いだろう。
宗教分離、一向一揆、十字軍など。信仰に関わることなのだろうか、勇者のことを思い出したときのようにいろいろな言葉が脳内に湧き上がってくる。
「騎士や民が神を信じることにわしは何も言わない、だが我々王族は宗教と距離をとらなくてはいけないのだ、我々の決断は王として人としての自分の決断でなくてはいけないのだから」
自分より上位の存在をいいわけにせずに決断の責任を自分たちで持つべきだと告げる王様、とても素晴らしいことだと思うが言葉にせずに秘めておいてもよいのではと思ってしまう、どうやら勇者を殺したことは王様の中でトラウマのようになっており、勇者を殺させた前の神様やそれを信じる者に対して攻撃的になっているように思える。
「そこをどけセイン、砦を攻めていた魔王軍を打ち払われたとはいえまだ魔王を倒したわけではないのだ、今後に向けて会議をしなくてはいけない」
王の言葉に第2皇子とその後ろの騎士たちに動揺が走るのが見える、だがすぐにその感情は動揺から怒りに代わるだろう、さてどうしたものか……
「父上、お帰りなさいませ、どうなさいました随分と騒ぎになっているようですが?」
城の中から文官を伴い新しい男が出てくる、隣の勇者に聞いたところ第一王子のアイン王子のようだ。
アイン王子はブレイブ王の前で膝をついて頭を垂れる、セイン王子に比べれば覇気は薄いがどこか人を落ち着かせて彼のために働きたいと思わせるそんな雰囲気の男だった。
「アインか、久しいなイチロウ殿たちのおかげで一時的に砦から戻ることができた、何か問題はなかったか?」
ブレイブ王がアイン王子に声をかける、少し冷静になったのかアイン王子の雰囲気に絆されたのか、その顔は先ほどまでとは違い少しだけ余裕ができたようだ。
ブレイブ王が落ち着いたのを感じたのか弟のジロウが王の横に立つ
どうやら砦内で勇者たちの再臨を待つ間にブレイブ王とダン将軍との間に友好関係を結んでいたようで、砦内でブレイブ王と共に行動をしていたジロウは人心掌握の手段や集団の指導者としての振る舞いなどを聞いていたらしい。
兄が神になったのなら弟である俺達がその信者をまとめ上げなくてはいけない、兄弟の中でそれができるのは俺だからなとのことだった、そんなわけで二人は短い時間で距離を縮めることができたらしい
「王よ、我々と彼等の間に考え方の齟齬が起きるのはしかたのないことだ、何故なら彼らは俺達が魔王軍の先鋒と戦っている姿を見ていないし、イチロウ兄上が神を名乗る存在と戦った場面も見ていないのだ、もしもあの位階4同士の対峙を見ていたならイチロウ兄上を信じることもできるだろうがな、故にこちらからの提案だ、我々と貴方達騎士団が戦うことで兄や我々の力を理解させるというのはどうだ?」
……お兄ちゃん最初は感動したけど結局最後は獣の理論やないか!
俺が弟の成長に感動していた感情を返してほしい、そんな思いで周りを見渡すとサブロウとセリーヌが楽しそうにさすがジロウと弟をほめたたえていた、お前ら戦いたいだけだよね?
勇者?あ、だめ?ああなったセリーヌは止められない、そうだねたぶんサブロウも止まらないもんね、あと個人的にあの第2皇子が好きじゃないそっかー……
俺は神と対峙した時よりも疲労感を感じて大きくため息を吐くのだった。
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