第9話

現在俺達はブレイブ王国王都に向けて軍を進めている。

といっても砦を空にして魔王が攻めてきても困るということで王国軍の多くは砦に残り防備を固めている。

俺のゲーム知識からの予想だと魔王は攻めてこないと思うのだがだからといって減らして砦が落とされれば人類領の領域の奥深くまで攻め落とされるだろう、その為守りを固めることはいいことだと思う。


王都に戻るのはブレイブ王、シャルロット第三王女、王を守る近衛騎士団の団長ダン将軍、それと俺達5人兄弟に使徒となった4人だ。

兵士は連れてこなかった砦の戦力と、裏切られたら困るからだ。

俺が神を殺して新たな神になったのは砦の兵士が見ていたしこの国ではゼファー教が最大の勢力を誇る勢力なので兵士の中にも信じているものが多いし、本人が信じていなくても属するグループで信じているものが多いからゼファー教に属しているものも多いだろうという考えから後ろから撃たれるのを避けるために必要なことだ。

撃たれてもこちらは誰も傷つかないだろうが撃った相手を拘束したりしなければいけないからね……


俺達が王都の門の前にたどり着くとそこには多くの華美な衣装をつけた神官が市民達を取り巻きとしてこちらが門をくぐるのを防ぐように立っていた。

「ブレイブ王よ、どうやら戦場に我らが神が降臨された、卑怯な手段を用いて我らの神を貶めたとのことですが説明いただけますかな?」

俺達の前に立つのは立派な、横に広い意味で立派な神官だった、どうやらそれなりにえらい立場にあるようで彼が前に出てきたのに合わせてほかの神官達は膝をついて彼を敬う。


「卑怯な手段とはどのようなことなのか私には理解できないがこの世界に降臨した神をそちらのイチロウ様が正面から挑み打倒したのはこの目で見ておりましたよ?」

ブレイブ王はそういうと俺の横で膝をつき俺を敬う、シャルロットやダン将軍、4人の使徒もまた同じように頭を下げると弟達も下げたほうがいいか?と聞いてくる、別に下げなくていいよというとそっかとそのまま後ろに立っている。


「王よ、神がそのような獣に負けることはないのですつまりその獣が何か卑劣なことを行い我らの神を陥れたのでしょう、今ならばまだ私の言葉で王を破門することは避けることができますその獣を王の手で殺すのです」


「神を殺した新たな神を殺せとは、どうやらゼニル大司祭は我らをはじめから陥れるつもりしかないものと思われる」

俺を殺せと言われた王様は首を緩く降る、まぁ無理だろうな勇者か魔王ならともかくそれ以外の者に俺はおそらく殺せない。

そう勇者と魔王には神を殺す力があり、勇者と魔王が殺しあうことで二つに分かれていた力が一つになり、神殺しを成すのはゲームのシナリオでもあったのだ、つまりあの神はゲームでもこっちでも殺されることが運命だったのだ合掌


「ブレイブ王よ今こそ信仰を見せる時なのです私の周りにいる民もまた貴方の行いを見ていますよ?」

ゼニル大司祭とやらが後ろを振り返る不安そうな目でこちらを見つめてくる民と目が合う。

まぁ力なき民からすれば急に神が死にましたとか言われても困惑するだろうなんとなく毎日自分たちを見守り最後には力を貸してくれると思っていた存在だっただろうからな。

民衆の後ろには貴族の者たちもたっているこいつらはおそらく王様の今回の行為を失態として王家を糾弾し自分の理にしようと考えているのだろう、一部の貴族はシャルロットを見て鼻の下を伸ばしている不快だなあ

さて、めんどくさいから全部ぶっ飛ばすか?ここらへんで位階4の力をお披露目するのもいいかもしれない、そんな風に首をコキコキ鳴らしながら一歩前に出ようとするとそれを遮るものがいた。


「ララン別に前を塞ぐのが不遜とか言うつもりはないがいったいどうした?」

俺の前に立ったのは聖女リリアだ、さすがに今の姿でリリアと呼ぶのは問題があるかといって変わりすぎては本人が急に呼ばれたときに答えられないということで少しだけ変えた偽名を使っている。

大きな体で俺の前に立つラランは俺と視線を合わせて任せてほしいとお願いしてくるのでここはお手並み拝見といこうか。

俺がその場で止まるとラランは一度頭を下げてから民へと向きなおり、体には似合わない、といったら失礼だが元の小さな聖女の声とさほど変わらない声で民衆たちに声をかける。


「偽物の神を信仰し、欲にまみれた愚かな神官達よ聞きなさい、私は聖女リリア、平民でありながら聖女に選ばれ勇者と共に新たな神への生贄にされたものです」

ラランのその言葉に一瞬時間が止まったかのように誰も言葉を発することができなくなっていた。


「落ち着きなさい民よ、リリアはあのような体躯の女性ではありませんでしたもっと小さくか弱い聖女でした、そうでしょう?つまりあの女性は聖女リリアの名を語る偽物です、どのような詐欺を使って彼女の声を奪ったのかわかりませんが……」


「奪っただなんてことはありませんは、皆さまは気づいていないかもしれませんが私以外の3人は神の慈悲を受けて新たな命を受け入れて神の使徒として転生しております」

俺の横で膝をついていた三人が立ち上がると民衆は戸惑いの声を上げる。

今まで距離をとっていた住民には見えてなかったのかもしれないが、改めて彼女達3人が顔を出せば民衆は彼らがだれなのかわかったようだ。

元々勇者の一団は民衆からも人気があったのだろう彼らが死んだという言葉と改めて生き返ったという言葉に困惑しているようだがそれでも改めて3人の顔を見ることができたのが嬉しいのだろう、困惑だった空気は歓喜の空気に代わっていく。

だが喜びの感情が強くなればなるほど、3人しかいないことに違和感と聖女の声を持つ存在の存在感はましっていく。


「私は蘇ることを拒みました、それは私がゼファー教の聖女だからではありません、ゼファー教に対して失望していたからです」

その言葉は民衆の間に浸透していく、だがこのまま言葉を離されると困るのはゼファー教の大司祭だった。


「待ちなさい民よ、そのような言葉を信じてはいけません聖女がゼファー教を……」

「私はゼファー教の聖女として教会の奥にて修行という言葉を使って大司祭や他領の高位神官に犯されました、その全ては私が持っているこの私の聖印によって納められているノートに日記として書いています」

ゼニル大司祭や他の高位神官が話そうとするのを遮りラランが言葉を続ける、その言葉は誰もが引き込まれていき耳を傾けていく。

聖印は個人個人で違う形を持っており、聖印官と呼ばれる人間が管理している、問い合わせればこの日記の書き手が誰かすぐにわかるだろう。


「私を聖女等と呼んでいる彼らは裏では私のことを都合のいい道具として口に出したくもない呼び名で呼んでいました、それは神官だけではなく他の聖女もでした、私もそんな自分に価値などないと思って生き返ることを拒みました、新たな神に汚れた私のような人間はふさわしくないとそう思って、ですが新たな神を既存の神殿が認めないのはわかりきっていました、なので私は私の友人であるこのラランにお願いして私の思いを皆さんに伝えてほしいと伝えたのです、彼女はラランは私の最後お願いを聞いてくれてこうして皆さんに私の最後の思いを伝えてもらいました」

沢山の人間が一言も喋ることなくラランの次の言葉を待つ

ゼファー教会の人間が何かを言おうとするが冒険者や教会騎士に剣を向けられて喋ることはできない、冒険者だけではなく教会騎士にまで剣を向けられた大司祭たちは青い顔をするだけで何も声を発することができない様子だった。


「貴方達にゼファー教を捨てろとは言いませんですが、ゼファー教は決して正しい場所ではありません、皆さんは自分の頭で考えて誰を何を信仰するのか考えてくださいね?」

最後は聖女らしく民の安寧を願い、その言葉を最後にラランは口を開くことはなくなった。

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