第8話

「遅いですね……リリア」

ラシル改めラシーがシャルロット第三王女に抱き着かれながらそう俺に話しかけてくる。

性別を変えてそれなりに時間のかかったラシーが戻ってきてからずいぶんと時間が経った、にもかかわらず戻ってこないリリアにラシーは不安を覚えたらしい。


「大丈夫でしょ、あの子も別に消えたがってるわけではなさそうだったし」

ジロウの毛皮をもふりながらその上に座り本を読んでいたレイナが眼鏡を持ち上げてからそういう。

すっかりシロウの毛の感触と座布団としての性能に魅了されたレイナは再臨してからずっとシロウの上に座りながら本を読むことにはまったようだ。

何か色々と悩んではいたようだが、レイナからするとそこまで問題と思っていないようだ。


「うむ、いい汗をかいた、む?なんだラシル少し体系が変わったか?」

「うーん、今まで武器を使うことに興味がなかったのだがなかなかいいものだな、兄よ俺にも何種類か武器をもらえないだろうか?」

サブロウと一緒に森に行っていたセリーヌも満足そうに帰ってきたどうやら二人で手合わせをしたのだろう、満足そうな顔で汗をかきながら帰ってきた。


「武器かー、ちょっと思いつかないからすまないがシャルロット王女王都に戻ったらどこか鍛冶屋にうちの弟をつれていってもらっていいだろうか?」

どうやらうちの戦闘狂の弟は新しいおもちゃが欲しいようだ、だが俺達人狼はもともと武器ではなく自分の爪や牙で戦うので魔王の領地のほうにも知り合いはいない、むしろ魔王の領地では兄弟だけで暮らしてきたので知り合いが向こうにもいないと言えるのだが……


「構いませんがそもそも私たちが王都に帰れるかは怪しいですけどね」

この砦は人類と魔族の領域の境界でありここを抜けられると人類領に深く進攻される恐れがある、その為王国以外の各国も支援や増援を出している。

その中にはゼファー教徒も多く存在し、今回目の前で神を名乗るものを殺したことで反感を覚えたものは少なくないし、実際にゼファー教徒を名乗る神官が一国の王に対して行動に対する不満を露にしていることからも俺達の立場は決してよくはない。


「それについては私のほうでどうにかできるかもしれません」

俺よシャルロット王女が頭を悩ませていると後ろからリリアに声をかけられる、ただあまり話したことがない俺でもわかる程度に声が違うような気がするし、俺の正面に立っているシャルロットやラシーが驚いた顔をして後ろにいるであろうリリアのことを見ている、俺もリリアのほうを見るためにゆっくりと振り返るとそこには俺と変わらない身長と人狼に負けない筋肉を持ったぴちぴちの神官服をきた女性が立っていた。


「聖女リリアか?いや随分とイメージが変わったようだが?」

元の聖女リリアは身長150cm程の触れれば折れそうな少女だった実際簡単に首を折ったわけだが今目の前に立つ女性の首は簡単には折れないというか元の俺では噛みつくことも難しいのではないかと思わせる太さだ。

腕も筋肉がしっかりと付き可憐な少女だった聖女様はすっかりと僧兵といった容貌となっていた。


「はい、神からあまり大きく体を変えるのはよくないと聞いてはいたのですが、どうしても元の自分から大きく離れたくて…すいません」

大きな体を小さくしながらこちらに謝ってくるリリア、こちらとしては苦労するのは目の前のリリアだし俺としては別にいいのだが、足の長さや身長が違いすぎて日常生活に不便を覚えそうだな、室内で頭をぶつけたりとか……


「いや、俺はかまわんが、リリアも既に経験してると思うがそれだけ体のサイズを変えると日常生活でも違和感を覚えて不便だろうから誰かにサポートしてもらうといいぞ、さてリリアよ、どうにかできると言っていたが何か考えがあるのか?」

リリアの日常生活については俺もサポートするとして、なんとかなるとはいったいどういうことなのだろうか、これだけ姿を変えては聖女リリアだといっても誰にも信じてもらえないと思うんだが


「……私が体を変えたかった理由にもつながるのですが、私は教会で司祭達に性的な虐待を受けていました、自分で言うのも嫌なんですが私はそれなりに整った顔と良いスタイルをしていましたので司祭達からすると性欲の対象だったみたいです、おまけに私は平民の聖女なので後ろ盾もなく都合がよかったみたいですね」

リリアの目からハイライトが消えていき笑顔の仮面を張り付けてそう説明する。

再臨前のリリアは確かに男が理想とする美少女だった、整った顔に小さな体、体に見合わない胸に大きな尻と男の欲望を掻き立てる美少女ではあったなと思うがなるほど……


「私は日記を書いて誰に何度抱かれたかを残しています元々は初めて抱かれたときにその抱いた男を破滅させようと思って書いたものだったんですけどね、毎日何度もされてるうちにそんな気持ちもなくなってどうでもよくなってしまって惰性でかいていたのですが、こんなところで役に立つなんて、人間わからないものですね」

そういって小さく笑う聖女の顔には自分を汚した男たちに対して復讐できるからか、ハイライトの消えた目に憎悪の炎を宿していた。

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