第2話
弟達全員が自分の身に起きた変化に驚き、それからみなぎってくる力にすぐにでも体を動かして確かめてみたそうにしているがそれは少し待ってもらう
俺にはすぐにでもしなくてはいけないことがあるからだ。
「俺たちはこれから魔王軍を裏切り、人類側につく、いいな?」
俺の言葉に弟たちは頷き、俺の言葉に耳を傾ける
「理由は様々だが、俺たちは強大な力を手に入れた以上住み辛いここに長居する必要はないというのが一つ、人間の作る飯のほうがうまいというのが一つ、そしてもう一つは……」
俺は最後の理由を弟達に伝える、弟たちは少しだけ驚いた顔をした後にすぐに神妙な顔で頷き理解してくれた。
魔族と一括りで呼ばれているが、別に仲間意識があるわけではない。
前世で言うなら魔族というのは人間という大きなくくり程度でしかなく、種族が人種のようなものだ。
日本人は日本人が悲劇に襲われれば悲しむが、外国で大きな事件があったと聞いてもそこまで気にしないのと一緒である。
両親を失い、5人で生きてきた俺にとってここにいる弟4人のみが家族であり一族だ、他の魔族と敵対することに躊躇はない
「いくぞ、俺に託した勇者のお願いに答えるために人類に俺たちは力を貸す」
そう、死ぬ間際に託された、人類を守ってくださいという勇者のお願いに答えるために俺たちは魔王軍に反旗を翻すのだ……
===
「相変わらず悪趣味なことだ」
テントや私物をまとめて魔王軍の前線まで移動した俺の目に映ったのは人類側の砦を囲み、生殺しのように遠巻きに見つめている魔王軍の姿だった。
彼らは別に戦術的に意味があって人類の砦を囲んでいるわけではない。
ただ人類が怯える姿を見たいというそれだけの理由で長々と彼らを囲んでいるのだ。
俺を含めて人狼という一族は戦いを尊び、敵であっても敬意をもって戦うという一族だ、その考えは魔族領ではあまり尊重されず例えば魔族同士の争いでも幼いものや背を向けたものを斬らない等という行為を行ってきたために種族的には数を減らしているのだが、滅ぶなら自分たちが弱かったことが悪い、この考え方を考えるつもりのない一族である。
元地球人としてはその考えも嫌いではないため俺もその考えを改めることなく非常に人狼的な考えを持っている。
俺が殺した勇者を弟達が丁寧に扱ったのもそういった人狼の考え方があるからだろう。
「いくぞ、弟達大丈夫だ、少なくともこの場に俺たちを傷つけられるものはいない」
俺の言葉に全員が頷く。
そう仮にこの魔王軍を束ねている将軍だろうと人間側の将軍だろうと、すでに位階3に至った俺たちを傷つけることは簡単にはできないのだ、だから俺たちがすることは単純
人類側の砦まで歩いていき、彼らが俺達を傭兵として受け入れるまで声をかけるだけだ。
俺達を裏切者として魔王軍は攻めてくるだろうが、逆にそれを返り討ちにすることで人類に受け入れられる下地も作られるだろう。
昨日までは自分たちを率いる将軍に勝つことはできなかったから大人しく指示に従っていたが、力で上回った時点で指示を受ける必要はない、なんだがすごい小物臭いことを考えているが、これこそ魔族的思考だからしかたないのだ!
弟達を連れて人類側の砦に向かって歩く、やっと俺達の気配に気づいたのか後ろで魔王軍の将軍や副官達が何か言っているが、知ったことではない、それよりも人類側から飛んでくる矢を払うことのほうが大事である。
別に当たったところで刺さらないし、痛くもないのだが、もし俺達に傷をつけたとなっては今後友好的に過ごすうえで引け目を覚えさせてしまうだろうから、勇者のお願いを果たすためにもここは一本でも矢を受けるわけにはいかないのだ。
放たれる矢その全てを受け止めてなるべく折らないようにソフトタッチで捕まえる。
三国志を読んだときに矢を大量に作るのが大変で孔明が周瑜から10万本の矢を手に入れて来いとか言われてたしな、なるべく再利用できるようにしてうstぴ。
弟達は自分に向かって飛んでくる矢も全て受け止められてそれぞれの反応をしている。
サブロウ以外は全員感心したり素直にすごいとほめてくれるがサブロウは自分まで守られてることに不満を持っているのだろう、サブロウは自分の力を誇示したりそのために強くなることが好きだからね……すまん、この後暴れさせてやるから少し我慢してくれお前はたぶん受け止めた矢をへし折って力を誇示しそうだから…
「人類側の代表者に話をしたい、勇者の件だ!」
こちらが全ての矢をキャッチしている姿を見て人類側の戦意が落ちたのを見計らって人類側に大きな声で要件を伝えるために代表者を出してほしいと願う。
この砦には現在、勇者達をこの場に送った国の代表者である国王が来ているはずだ、できればトップに来てほしいが無理なら将軍あたりが来てくれないものだろうか?
そんなことを考えながら人類側の出方を待つためにその場で足を止めて彼らの出方を待つ。
少し経つと、砦の上に一人の男が現れる。
別に頭に王冠を被っているわけでもなく、自分の権威を誇示したりするわけでもないが彼が姿を現すだけで場の空気が変わった。
なるほどこれが王と呼ばれる男の威圧感かそんなことを思っていると、彼はこちらに向かって強い視線を向けて
「ブレイブ王国国王 アレクサンドロア・ブレイブだ、魔族よ勇者のことで余に話があるとのことだがどのような用事だ!」
決して声を張り上げてるわけではないのにこちらまで声が届く、なるほどいい声だ
「お前達がこちらの後方を混乱させるために送った勇者は俺の手で殺した」
一度そこで言葉を切る、人類側は絶望的な表情を浮かべる、それだけ勇者というものに期待していたのだろう。
「嘘をつくな卑劣な魔族め、この手で誅してくれる!」
国王の横に立っていた少女がこちらに手を向け魔法を放ってくる、あれはたしかゲームではメインヒロインの一人である第3王女だったか
まるで命まで込めたかのような強力な光の魔法はこちらに向かって飛んでくるが俺はそれを片手で掴んで握りつぶす、ここで俺たちの誰かが傷ついたら困るからね、しかたない
とはいえ、握りつぶされた側からすればたまったものじゃないだろう、王女は自力で立っていることもできないようで周りのお付きのものが支え真っ青を通りこして白い顔でこちらを睨んでくる、ちょっと怖いなレベルや位階の高さとは違う恐怖を覚える
「ブレイブ王よ、貴方は聡明な王だと思う、彼等では失敗すると思っていたのではないのか?」
俺の言葉に王様は顔をしかめてぐっと拳を握りしめる、ゲームで裏設定を知っている身としては王様を攻められない部分はあるのだがな…
「大臣等の貴族からの突き上げを食らって計画を速めたのは失敗だったな、彼らがしっかりとレベルを上げていれば俺如きでは手も足も出ずに作戦は成功していただろうに」
そう作戦が失敗したのは勇者の育成不足だ。
ゲームではここに至るまでにどれだけ適当に育成してもレベルが30を超えているのに対して、勇者たちのレベルはおそらく10代前半だったのだと思う。
理由は様々あるのだろうが、ここが現実になったというのが一案大きいのだろう。
ゲームならNPCの騎士や兵士はいくらでも使いつぶせるし、セーブ&ロードができるだが現実は違う。
死ねばそこで終わりで、騎士や兵士を勇者の護衛に出して死ねばそれだけ家の兵力が減るということだ。
その為家の兵力を減らしたくない貴族たちは勇者に護衛を出すのを渋った
そういった貴族同士の足の引っ張り合いで勇者のレベル上げはうまくいかずに縛りプレイのような低レベルプレイとなったのだろう。
「だが、勇者達は貴方を恨んではいなかったそれどころか、死ぬ間近に俺に人類を守ってほしいと頼んで死んだくらいだ……自分たちの命を俺に捧げてまでな……」
そう彼等は最初から俺に殺されるつもりだったのだ。
高い位階を持つ勇者を殺せば大量の経験値が俺に流れ込む、そうすれば俺の力は魔王にも匹敵するとそう考えた彼らは自らの命を捧げて俺に人類の未来をお願いしたのだ
おかしいとは思った、彼等がどれだけ低レベルとはいって位階では俺を上回るのだ、一撃で殺せるなんて向こうがこちらに殺されることを受け入れてでもいなければ不可能だ……
いや剣士だけはこっちを殺しに来たから納得してなかったのかもしれないが。
ともかく彼等は自分の命と引き換えに人類を救ってほしいという願いを受け俺は今こうして人類側へと鞍替えをしようとしているのだった。
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