勇者を殺したそのあとで
@kagetusouya
第1話
自分が何者かの生まれ変わりだと思ったのは生まれてすぐのことだった。
魔王領にすむ一般的な人狼、名前も最初に生まれたからイチロウと名付けられた自分は早い段階で両親を亡くして4人の弟を育てるのに必死だった。
幸いにして能力には恵まれていたため食用になる野の獣や山の獣を狩り弟たちを育てていたところ、魔王に人類侵攻軍の一兵卒としてスカウトされた、
そして今日、俺は人類側の最前線の砦へと配属されて後方警戒任務をしていたのだがそこで唐突に自分が前世で遊んでいたゲームにこんな場面があったなと思いだしたところで勇者と遭遇した。
「ジロウ、あいつらの相手は俺がするからその間に隙を見て逃げろ」
この世界にはレベルとは別に位階というものがあり、同じレベルでも位階が違えば子供と大人くらいに差がつく。
ゲームでは勇者たちは第3位階と呼ばれる位階にあり、たいして自分は第2位階だ、レベルもゲームなら特にやりこみうとかをしてなくても30を超えており、今の自分と差がない。
後ろで弟たちが何かを言っているが、それどころではない、自分よりも強い相手を4人も相手にして少しでも意識を逸らしたらあっという間に殺されるだろう……
勇者たちも武器を構えてこちらを向く、勇者側の編成は、勇者、剣士、魔法使い、僧侶だ隙もない……
だからこちらから仕掛けた、少しでも油断しているうちにと一気に身を低くして勇者に攻撃すると見せかけて横をすりむける。
勇者と剣士がこちらに武器を向けてくるがその二人の間を通り抜けるもちろん無傷では抜けられない、深く剣で切り裂かれたがひるまず二人の間を抜けて、まず僧侶に接近し、その心臓に爪を突き立てる、もちろん防がれるだろうがこれで前衛二人は弟たちに背を向けてその間に……
そんなことを考えて突き出した腕は僧侶の胸を貫き心臓を破壊した……
バカなという思いで動きが止まりそうになるがそんな暇はないすぐに魔法使いに向きなおると魔法使いは僧侶があっというまに殺されたことで困惑したのか魔法の詠唱も忘れてこちらを向いている、申し訳ないと思いながら僧侶の体を乱暴に地面に落とすとそのまま魔法使いの喉に牙を突き立て、ゴキリと鈍い音を立ててへし折る。
残り二人勇者と剣士を殺さなければと振り返ると剣士がこちらの心臓めがけて剣を突き入れてきた。
避けきれない、そう一瞬で判断すると避けるのではなく屈むことで心臓ではなく首で剣を受け止めて力を入れて首の筋肉で剣を受け止める
僧侶と魔法使いを殺したことで俺のレベルは一気にあがり、首に剣を突き立てられても死ぬまでの時間を与えられたようだ……
首に剣を突き刺している剣士の首を掴むとそのまま地面に叩きつけて首を折って殺す……
「はぁ…やればできるじゃないか俺……さぁ勇者ラストバトルだ……」
頸から剣を引きぬけば血がどっと飛び出すがそれもすぐに止まる、人狼の再生能力の高さに驚きを覚えるが勇者に勝てるかもしれない、そんな希望が頭をよぎり、血が抜けて倒れこみそうな足も上がらなくなりそうな腕も再び力が籠る
そんな俺に対して勇者は泣きそうな顔をしながら一歩また一歩と近づいてきたその姿はまるで夢遊病患者のようで俺は思わず身構え
「お願いがあるんです、もし貴方が俺を殺したら……」
勇者がこちらに向けて語り掛けるように話しかけてきてそのまま一気に加速し剣を突き出してくる。
俺はそれを紙一重でかわす、だがかわし切れずに右腕を深く貫かれて腕がちぎれそうになるが、無視して勇者の喉に噛みつき、そのまま倒れこむように地面に叩きつける
「……」
勇者は小さく俺にだけ聞こえるような声で俺にお願いを残すとそのまま目を閉じてこちらの返事を聞くよりも早くその命の火を消すのだった……
「なんなんだよ一体、くそ、わけわかんねぇ……」
それだけ言って俺の意識は急速に薄れていき、最後に見たのは弟たちがこちらに向かって走ってくるところだった、なんだお前ら逃げろって言ったのに、仕方ない奴らだな……
===
次に目を覚ましたのはどのくらい時間が経ったのかわからないが俺はテントの中で目を覚ました、匂いの感じからおそらく自分の寝床だろう
「俺は、生きてるのか?」
「兄ちゃん起きた?!よかった、もう起きないのかと思った!」
そういって俺に抱き着いてくるのは末っ子で5男のゴロウだ、俺に抱きつくとわんわん泣きながらよかったよーと叫んでいる。
弟の叫び声を聞きつけたのか、残りの兄弟もやっと向かってくる足音が聞こえる
「兄貴目が覚めたのか…」
そういってほっとした顔をこちらに向けてくるのはジロウ、次男である
「一人で強くなってずるいよな兄貴、まあ俺たちが混じってたら勝てなかったかもしれないが」
そういってふてくされたような顔を向けてくるのは三男のサブロウだ、こいつは強さに兄弟で一番執着しているので俺が勇者やその仲間を倒して強くなったのが羨ましいのだろう。
「よかった兄ちゃん」
そういって嬉しそうにこちらを見るのは4男のシロウだ
兄弟で一番大きな体を持ち、気が優しくて力持ちという言葉がぴったりな弟である。
「すまん……お前たち勇者の亡骸をどうした?」
自分が殺してしまった勇者のことを思い出して4人にその亡骸をどうしたか尋ねる、この弟達だから死者に鞭打つようなことはしていないと信じたいのだが……
「ちゃんと土に埋めておいたよ、彼らは兄ちゃんを殺そうとした敵だけど誇り高い戦士だったみたいだから」
そういうのは俺に抱き着いているゴロウだ、その言葉を聞いて俺はほっと胸をなでおろす。
「ありがとう、彼らはいい戦士だった、そんな戦士の死後を辱めるような真似をしたくはなかったんだ」
「わかってるよ兄貴、それよりもあいつらは本当に勇者だったんだな、正直人類の希望と聞いてたからもっと強いのかと思ってたんだが……」
ジロウは首をひねりながら尋ねてくるが彼らが勇者であることは疑っていないようだ。
「どうして勇者だと信じているんだ?確かに強かったが俺に殺される程度だし、勇者を名乗っている偽物かもしれないぞ?」
「そんなの兄貴の姿を見れば一目でわかる、今の兄貴は勇者を殺す前とは別人のように強くなってるぞ?」
言われ、俺は自分の今の力を確かめるために水晶に手を伸ばす。
この水晶は今の自分の位階とレベルを教えてくれる便利なアイテムだ、ゲーム的だがあるものはあるのだからしかたない
水晶に手を伸ばして今の自分の状態を知りたいと願うとそこに文字と数字が浮かび上がってくる
名称 : イチロウ
位階 : 3 白銀神狼(フェンリル)
レベル: 50(限界)
水晶に表示されるのはこれだけだが、あとは脳内に使用可能なスキルとその効果使い方が浮かんでくる
勇者と戦う前の俺は位階:2 人狼闘士 だったから位階は1レベルは49上がったことになる
「……そうか、お前らちょっとこっちこい」
俺は水晶に表示された文字と使えるようになったスキルを理解してから4人の弟に近づくように言う
4人(正確には俺に抱き着いていた弟以外の3人)は俺が手招きして呼ぶと何も言わずに近づいてくる、本当にかわいい弟達だ。
「お前たちに俺の力を分け与える、その後俺は少し魔王軍を離れるからお前たちがどうするかは自分で決めてほしい」
俺の言葉に全員一瞬驚いた顔を浮かべるが、すぐに末っ子のゴロウが
「僕は兄貴とどこにでもいくよ」と答えれば全員が頷きこちらを見てくる
「まったくお前らは、分かったじゃあお前らに今から力を与えるから受け入れろよ?」
俺はそういって近づいてきた弟達全員を抱きしめてスキルを使用する、俺のスキルを全員が受け入れたのはすぐに分かった
何故なら全員の毛皮の色が光り輝く銀色になったからだ……
きっと水晶玉で見れば全員の位階にこう書かれているだろう
位階:3 白銀従者(フェンリルスレイブ)と
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