第4話 新天地へ
「よく来るね、初めて来た時から半年以上経ったけど、何回目かねぇ。」
「ご迷惑掛けます。15、6回は来たかもしれないです。」
「迷惑ってことはないけど、ハコちゃんもうすぐ上がるから少し待ってて。」
「ありがとう御座います。」
暫く待っていると、私服に着替えたといっても、制服の上着を脱いだだけの波子が来て
「山県さん、今日も来てくれてたんですね。」
「うん、夕飯でも食べに行こうかと思って」
「又、オオヨロコビですか?」
「そう、あそこの大慶ラーメン美味しいからね。」
ラーメン店「大慶」を地元の学生たちは訓読みでオオヨロコビと言っていることは、最初に波子を食事に誘った時に聞いていた。
丼が大きく、そこに入る具も多い事からみんな大喜びすると云うことから付けたらしい。
店に入って注文を済ませると、波子は
「母が陸上をやる事を許してくれました。」
「えっ、それはこれ以上ない朗報だ。来た甲斐があったよ。」
「コンビニのオーナーも、何処までやれるかやってみたら、と言ってくれて。」
「そう、あのオーナーと云う人も良い人だね。」
その言葉と同時に注文のラーメンが来て、幸せな気分で美味しく食べる事が出来た。
「それじゃあ、入寮の準備を終わらせて、三月の終わり頃迎えに来るよ。」
「宜しくお願いします。」
4月3日、サンシャイン工業陸上部の女子監督安原美南は女子部コーチ佐々木宏、トレーナーの山県ととも紀平波子を伴って練習トラックにやって来た。
「みんな一度ここに集まって。」と少し大きな声で監督。
練習中の選手たちは一斉にこちらへ振り向くと、足速にトラックのスタート地点に集まって来た。
「紹介します。今年入社で家電総務部に配属された紀平波子さんです。」
続けて監督は「紀平さんは陸上は全く未経験で、小さな大会にも出た事が無いそうですが、トレーナーの山県君が是非にと言うので短距離走をやってもらいます。」
「そんな訳で紀平さん、簡単に自己紹介して下さい。」
「今、紹介して戴きました紀平波子と申します。波子はナミのコと書きます。栃木県の山間部の三端町の出身です。」と一言。
コーチの佐々木が言葉を引き継ぐように
「と言う訳で、みんな仲良くやって下さい。」
「まだ、身体も出来てないしいきなり走って怪我でもされたら困るので、一ヶ月後くらいに簡単な走力テストをやってみよう。」
「それで良いかな、山県さん。」
「結構です。宜しくお願いします。」
「それじゃあ紀平君」「はい」
「今日はもういいから明日16時半にこのグラウンドに来て下さい。仕事の方は16時で上がれるようになってるから。」
「わかりました。」
「山県さんもお願いします。」
「了解です。」
波子は山県の方に軽く会釈をするとその場を去って行った。
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