第3話 母の承諾
「お母さん、相談があるんだけど。」家に着くなりすぐに話しだした。
アルバイトを終わってからの帰宅だから、既に夜の七時半を過ぎていた。
台所にいる母は夕飯の支度も終わって、波子のいるテーブルに並べるだけになっていた。
波子はテーブルを立つと、食事を並べるのを手伝った。
食事を始めると直ぐに「なあに、相談って。」
母が聞いて来た。
「私、陸上やりたいの、やってもいいかなぁ。」
「なによ、いきなり。母さんは賛成しないな。」
「来月には高校も卒業でしょ。最初は今バイトしてるコンビニでフルタイムで働こうと思ったんだけど。」
「でも、熱心に陸上に誘ってくれる人がいて。」
山県は殆ど毎週のように輪光市に足を運び、波子への説得を続けた。
「目立つ事はやらないでね。普通が一番なんだから。」と云う母の願いを守って、山県の申し出を断っていた波子だった。
しかし、頻繁に来るようになった山県は、時には夕食に誘ったり、又バイトのない日に近くの観光に連れて行ってくれたりと、山県は波子との距離を少しづつ縮めていった。
「母さんは、あまり目立つ事はやって欲しくないのよ。目立つ事はしないと云うのは昔からの我が家の家訓みたいなものだから。」
「それに、お父さんだって火事場から子供を救い出して、警察から表彰された後すぐに車に轢かれて亡くなったじゃない。」
「でも、あれは事故だったんでしょ。まだ私小さかったからわからないけど。」
「とにかく、目立つとろくな事ないのよ。」
「千葉県のサンシャイン工業という会社で、社員寮に入って仕事をしながら陸上の練習をするのよ。」
「コンビニのオーナーも、サンシャイン工業は大企業でうちで働くより給料が良いからって、後押ししてくれてるの。」
「そう、あまり賛成しないけど波子がやりたいならやればいいわ。」
「ありがとう。離れて生活するのは寂しいけど頑張るつもり。」
「あまり目立たない様に、いつも二番くらいでいなさいね。」
話しでお互いに箸が止まっていたが、その後波子は本当に自分は陸上なんかやりたいのだろうかとか、山県さんが期待してくれるなら頑張ろうとか、行く末に想いをはせながらゆっくり食事をすませた。
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