女を知りなさい
過去に教室で、女子たちが話しているのを耳にした。
『……火村さん、凄いよね?』
『高校生で、あれはヤバいわ』
『同じ女として負けたね』
体育の授業で更衣室から帰ってくるなり、女子たちは頬を赤く染め、呆けた顔をしていた。
たぶん、璃里耶の絵の凄さについて話しているのだとそのときは思った。
そうではなかったのだ。恐らく女子たちは、更衣室で目の当たりにした奇跡の瞬間に衝撃を受けていたのだ。
璃里耶の、奇跡のように美しい肉体を前にして。
俺だって年頃の男だ。
教室に絶世の美少女がいて、さらに体つきまで魅力的とあらば、よからぬ空想を働かせてしまう。
ブレザーの制服越しでもわかる、女性的な体つき。
その内側に眠る生まれたままの姿を思い浮かべては、胸をざわつかせ、自己嫌悪に陥って、でもやっぱり止められなくて、つい目で追ってしまっていた。
女性すらも虜にしてしまうような璃里耶の美貌と肉体。とうぜん、オスが惹かれないはずがない。
実りだした青い欲望は、意思とは無関係に、脳内に艶めかしい幻を生んだ。
……でも思い知った。
自分の空想ななんて、所詮は生身の女を知らないお子様同然の代物だったのだと。
「さあ、よく見て」
青色の花が刺繍された白い下着姿で、璃里耶は目の前に立った。
薄闇の中で、その体は白く輝くように見えた。
線は細く、手足も華奢で、ウエストは男の片腕が一周できてしまいそうなほどにスリムだった。
限界まで絞り抜いたような、か細い肉体。その余りを埋めるように、実るべき箇所にこれでもかと媚肉が育っている。
胸はとても大きく、大人の未遥さんにも匹敵するほどのサイズだった。
くびれから先の腰元は丸く、前からでも尻肉の豊かさがわかるほど。
スラリと長い美脚は、太ももだけむちむちとして、思わず齧り付きたいほどに、淡く艶光っている。
どこもかしこも、男の劣情を煽り立てる曲線をえがいた肉体。
強烈なまでにメスを感じさせる刺激的な下着姿を前に、言葉を失った。
どれほどの淫らな妄想を総結集して理想的な女体を思い描いたとしても、璃里耶の肉体美には到底及ばないだろう。
これが、生身の少女の体。白く、美しく、そして色っぽい。
……綺麗だな。
夢のような光景を前に、意識は麻痺し、ただ呆然と璃里耶の下着姿に見惚れていた。
しかし、璃里耶がブラジャーのホックに手を伸ばし、プチッと外れる音がしたところで理性は急速に目覚めた。
「ストップストップ! ななな、何やってるんだお前!?」
「何って……だから公園のときの続きよ。私をモデルにスケッチするの。今度はヌードよ」
「アホか!? そんなことできるか!」
「何を言ってるの? 私たち絵描きにとってヌードデッサンなんて基本中の基本でしょ?」
「そそそ、そうだけど……知り合い相手にするのは気まずいだろ!」
「私は平気よ。至高の芸術のためなら脱ぐわ。……まあ、いくら私でも相手は選ぶけれど」
「え?」
「あなたの絵には、私を脱がせるほどの価値があるってことよ」
璃里耶の目は本気だった。
ためらうことなく、外したブラジャーの肩紐をずり降ろそうとする。
鼻腔の奥から、熱い血液が垂れ流れてきた。
「やめろ! お前は良くても俺の心の準備ができん! とにかくそのブラは絶対に取るな!」
「なるほど。全裸よりも下着姿に興奮するタイプなのね、あなた。そうならそうと早めに言ってちょうだい」
「……もうそういうことにしておいてくれ」
不名誉な勘違いをされている気がしたが、それで璃里耶の脱衣を阻止できるなら敢えて見逃そう。
こんな密室で璃里耶の全裸と対面したら、確実に理性が粉砕されてしまう。
「さあ、時間が惜しいわ。カケル、スケッチブックを用意して」
「いや、俺はまだ描くとは言ってな……」
「……ここを紹介してあげたのは誰かしら?」
「うっ」
「すき焼き食べたわよね? それも私たちよりも多く和牛を」
「くっ」
蘭胤荘に入居することを決めた時点で、どうやら自分は悪魔と契約を交わしてしまったらしい。
この先、どうあっても璃里耶に頭が上がらないほどの恩を作ってしまった。そのことをよく理解した。
素直にスケッチブックとペンを手に取る。
「ありがたく、描かせていただきます」
「よろしく」
璃里耶は嬉しそうに笑った。
美しい笑顔の背後で、角と翼を生やした邪悪な幻が見えた。
……しかし、いきなり同い年の少女の下着姿を描くことになるとは。
それはつまり、彼女の素肌や際どい部分をまじまじと観察するということだ。
「うぅ……」
顔から火が噴き出しそうになりながらも、俺は筆を動かした。
落ち着け。女性をモデルにしたスケッチは授業でもやっている。
そのときと同じように描けばいいだけだ。
しかし、Tシャツとスパッツを身につけていた女性モデルと違って、璃里耶は下着姿だ。
それも、明らかにあの女性モデルよりも胸もお尻も大きい、男を骨抜きにする体つきだ。
スケッチというよりはむしろ、いかがわしい映像作品の撮影現場のようだ。
「スー、ハー……」
息を整えながら、璃里耶の胸元やくびれ、下半身を描いていく。
描きながら思う。本当に、なんて発育ぶりだ。
クラスの女子たちが圧倒されたのも頷ける。
もしも自分も女性だったら、理想的すぎる神秘の女体を前に敗北感を覚えていたかもしれない。
……そうだ。いまは女になったつもりで描くべきだ。
俺は男じゃない。男じゃない。そう考えなければ……いまにも興奮でケダモノになってしまいそうだ。
いま、スケッチブックを投げ捨てて璃里耶を押し倒していないのが不思議なくらいだ。
それはきっと……璃里耶の体が淫らというだけでなく、見惚れるほどの美しさも秘めているからだろう。
男としての情欲がチラつく一方で、同時に絵描きとしての情熱が手を動かしていた。
もしも……もしもこの素晴らしい肉体美を自分の手で完璧に描き起こすことができたら。
それは、どんなに凄い作品になるだろう。
気づけば、あの公園でのスケッチと同じように、夢中になって描いていた。
一枚、二枚、三枚と、あらゆる角度から描いた璃里耶の下着姿ができあがる。
描き終えたスケッチを、璃里耶は着替えないまま、じっくりと見ていく。
その顔は、どこか不満げだった。
「……こんなものじゃないわ」
「え?」
「照れているせいか、筆に迷いがあるわ。こんなものじゃないはずよ。あなたが描く女体は」
「そ、そんなこと言われても……」
半裸とはいえ、女性の素肌を描くのは小学生以来のことだ。
ブランクは確実にある。
しかし璃里耶の言うとおり、精神的な躊躇が絵に滲み出てしまっているのも事実だった。
そのせいか、公園で描いたスケッチよりもクオリティに差が出ている。それは認めざるをえなかった。
「……やはり、まずは殻を破ることから始める必要があるようね」
「殻?」
「カケルは、絵を描く上で、大事なことは何だと思う?」
璃里耶は唐突に聞いてくる。
俺はしばし考えてから口を開いた。
「それはやっぱり……観察じゃないか? 技術を上げることも、色彩の組み合わせを研究することも、もちろん大事だけど……でもまずは絵のモデルをよく見て、理解することが重要だと思う」
「正解よ。さすがカケルね。絵は非現実的な世界を生み出すことができる。でも、頭の中の空想だけで描くには限界がある。だからこそ現実に存在する物体をよく観察しないといけないわ。モチーフを忠実に再現することで、平面でしかないはずの絵は現実味を帯び、迫力が生まれる」
璃里耶の言葉に、俺は頷いた。
頭の中のイメージだけでも、もちろん絵は描くことができる。
だが、それではラクガキレベルのままで終わる。
リアリティーのある絵を描くには、やはり実物としてのモチーフを良く観察する必要があるのだ。
「でもカケル……ただ『見る』だけでは足りないわ」
「え?」
「観察とは、体のすべてを使って行うべきよ。スケッチの対象を、実際に手に取って確かめるの。たとえば果物のひとつでも、感触、固さ、温度……触れるだけで、それだけの発見がある。可能ならば匂いと味も確認して、果物というモチーフを全身に覚えさせるの。すると、絵にも変化が起きるわ。知識としてではなく、体感として知っているからこそ、生々しい果物を描き起こすことができるのよ」
絶句した。
確かに、璃里耶の言う通りだ。
果物に限らず、コップのグラスの固さ、金属の冷たさ、木材の感触……それらを体感で理解しているのとしていないでは、絵の完成度は遙かに違ってくる。
……そうか。璃里耶の絵が、他の生徒よりも一線を画している理由がわかった気がした。
「つまり、カケル……あなたも触って覚えなさい。女の体の感触を」
「……え?」
璃里耶は俺の手を掴むと、躊躇いもなく、大きな膨らみへと導いた。
「……は? あ?」
思考はしばし止まった。
頭がパンクしないようにするための緊急措置だった。
石を一個ずつ拾うように、状況を整理していく。
璃里耶は何をしている? 下着姿のまま、俺に胸を触らせているね。
俺は何をしている? 璃里耶の胸を鷲掴みにしているね。
初めて触る女性の乳房。
それもとても大きく、柔らかい胸だ。
下着越しでも、こんなにも柔らかさが伝わってくるものなのか。
ずっしりとした重み。なのに、乳肉はふんわりとしていて、いまにも蕩けそうなほどにタプタプとしている。
こっそり読んでいる無料のネットポルノ小説では、よく乳房の感触は「マシュマロ」や「水風船」に例えられているけど……生の乳房の感触を知ったいまとなっては、なんとも稚拙な比喩に思えてしまう。
だって、こんな素晴らしい感触、他に例えようがないではないか。
乳房は、乳房の感触でしかない。俺はひとつ、大人になった。
しかし、柔らかい。
なんて柔らかさだ。
どこまでも指が沈んでいく。
璃里耶の胸があまりにも規格外に大きいためでもあるが、思いきり奥まで突っ込んだら手が丸ごと呑み込まれてしまいそうだ。
とろふわ、とはよく言ったものである。こんなの、もうほとんど液体ではないか。なのに美しい形をたもっているなんて。
神秘だ。人体の神秘がここにある。
こんな神秘の物体を女性だけが身につけているとは。
そうか、女性の体とは神によって造形されたものだったのか。
なんだか信心深い気持ちになってきたぞ。
「随分と夢中で揉んでいるわね」
「……あ」
璃里耶のひと言で我に返る。
いつのまにか、鷲掴みにした乳房を揉みしだいていた。
「ご、ごめっ……」
胸を触らせたのは璃里耶だが、揉みしだいたのはこちらだ。
謝りつつ、手を離そうとしたが、
「ダメよ。続けなさい」
「うぇ!?」
璃里耶は両手でがっしりと俺の手を掴み、さらに胸を押しつけてきた。
「あなたが描く女性の胸にはまだ色気が宿っていない。それは生身の女性に触れた経験がないからではないかしら?」
「そ、それは……」
事実である。
俺は年齢イコール彼女がいない歴である。
「だから触ってしっかり観察するの。女体の感触を。その象徴でもある胸は特に念入りに。さあ、揉みなさい。その手にしっかりと覚え込ませなさい」
「いやいや、まずいだろそれは!」
「胸を揉み続けながら言っても説得力がないわよ。そうね、胸という言い方も色気がないわね。おっぱいよ、カケル。私のおっぱいを心ゆくまで揉みしだきなさい」
「お前は何でそんなに冷静なんだ!? 痴女か!? 痴女なのか!」
「失礼ね。私はただ至高の芸術のために貢献しているだけよ。あなたの絵が素晴らしい変化を遂げるのなら、この身を捧げることも厭わないわ」
「厭え少しは! 乙女として!」
「乙女である以前に私は絵描きよ! そしてあなたも絵描きなのよカケル! あなたはここで己の枷を外して、絵描きとしてさらなる高みを目指すのよ!」
高みを目指すために美少女のおっぱいを揉みしだくなど、聞いたこともない。
しかし、悲しいかな。
生まれて初めて揉むおっぱいの感触は、こちらのオスの本能を否応もなく引きずりだし、指の動きを止めることができなかった。
それどころか、もう片方の手がぷるぷると上がり、空いた胸を鷲掴みにする。
「くっ、手が勝手に……」
「んっ……何だかんだ言って、あなたもノリノリじゃないのカケル」
「だ、だって……」
しょうがないではないか。
触っているだけで、こんなにも気持ちいいのである。
揉んでいるだけで幸せな気持ちになる。
何なのだ、このおっぱいというものは。まるで底なし沼だ。
一度触れたら、永遠に触っていたくなるぞ。
「んっ。己の衝動に抗ってはダメよカケル。あっ。あなたの絵はエロスを込めることで真価を発揮するのだから。やん。そのためにも、あなた自身がエロスで染まるのよ。くぅ!」
「いちいち喘ぐな! ますます変な気分になるだろ!」
「仕方ないでしょ。私だって異性に胸を揉まれるなんて初めての経験なのだから……」
「なっ!?」
璃里耶が頬を赤らめながら目を逸らす。
璃里耶ほどの美少女なら男など引く手あまただと思っていたが、彼女も色事とは無縁な人生だったらしい。
そんな男女が恋人としての段階をすっ飛ばして、いかがわしい行為をしている。
しかも昨日までただのクラスメイトであり、友人ですらなかったにもかかわらずである。
順序が狂っているとしか言えない。
これもすべて絵の飛躍のためだというのだから、常人にはとても理解できない話だ。
「良識は絵描きにとって敵よ、カケル。いまはそんなものは捨てなさい。あなたの中のエロスを目覚めさせるのよ」
「い、いやだ、俺は健全な絵を描くと決めて……」
「……なら、あなたの理性を蕩かす情報を与えてあげましょう」
「え?」
「私の身長は160cmよ」
璃里耶はとつぜん自分の身長の数値を口にする。
……そんな数値がいったい何だっていうんだ?
しかし、璃里耶の次の発言で、脳天を殴られるような衝撃を受けた。
「そして、あなたがいま揉んでいるバストのサイズは……108cmのMカップよ」
「なっ!?」
男ならば最も知りたいであろう女体の部位の数値。
それを璃里耶は躊躇いもなく打ち明けた。
俺は頭の中でABCの歌を奏でながら、その順番を数えた。
えーと、Jが10個目で、Kが11個目で、Lが12個目……Mは13!?
驚愕のサイズに開いた口が塞がらなかった。
「中学生になった頃には、もうGカップはあったわ。それからどんどん大きく育ってしまって、困ったものだわ」
璃里耶は苦笑しながら、わざとらしく胸をたぷんと揺らす。
ゴクリと唾を飲み込み、爆弾サイズのバストを見つめ、その感触を確かめる。
これが、108cmのMカップおっぱい……。
そんじょそこらのサバを読んでいるグラビアアイドルですら敵わないサイズ。
そんな代物をうら若き乙女が付けていいと思っているのか。
けしからん。なんて、けしからんと思いながら、男の手でも掴みきれない特大バストを揉みしだいた。
「んっ。明らかに手つきが変わったわね。やっぱり男の子って好きなのね、おっぱいが」
当たり前だ。
おっぱいが嫌いな男などこの世にいない。
それが平均サイズを遙かに上回る巨乳……否、爆乳ともなれば、理性など容易く崩壊してしまう。
息が荒くなる。いつしか己を塞き止める感情は失せ、目の前の極上の女体のことで頭がいっぱいになる。
「バストの次ね……ウエストは、57cmよ」
またしても驚愕の数値が口にされる。
細いとは思っていたが、とんでもないくびれだ。
手は自然と、乳房からウエストに移っていた。
両手で包み込めてしまいそうなウエストを、ゆっくりと撫でる。
「んっ。くすぐったい」
璃里耶が身じろぎするので、うまくウエストが掴めない。
「動くな」
「っ!? ……ええ、わかったわ」
つい強い言葉が出た。
しかし、璃里耶は嬉しそうだった。
「それでいいのよ、カケル。いまの私はあなたのモデルであり……観察対象であるモチーフ。しっかりと確認なさい。体の感触を。肉の柔らかさを。肌の温もりを。それがあなたの絵を飛躍させる」
ジッとして大人しくなった璃里耶の腹部に触れる。
スベスベの肌が手に心地いい。
璃里耶のお腹周りを一周するように、手を滑らせていく。
改めて、そのウエストの細さに圧倒される。
どれだけの女性が羨むことだろう。
同じ内蔵が入っているのか心配になる。
この細さは、確かに見るだけではわからない。
触れることで初めて、絞られたウエストの輪郭を実感できる。
腰を屈めて、もっとじっくり観察する。
お臍の形まで美しい。セクシーなショーツからはみ出ている鼠径部も色っぽい。
胸にばかり意識が向いていたが、女性とは腹部にまで色香が宿る。そのことに気づけたのは、大きな発見だ。
「最後よ、カケル。私のヒップは……88cm」
スリーサイズの最後の数値を耳にして、ウエストのなめらかな曲線に沿って両手を下に降ろしていく。
もはや何の逡巡もなく、璃里耶の丸いヒップをショーツ越しに鷲掴みにした。
「んっ。カケル……あっ」
璃里耶の背後に回り、豊かなヒップを肉眼に収める。
ショーツが食い込まんばかりの尻の谷間。
軽く手で叩くと、ぷるん、と乳房と同じように波打つ。
「あんっ」
璃里耶がなやましい声を上げる。
男を誘うような反応を前に、余計に昂ぶっていく。
「……璃里耶、四つん這いになってくれ」
「え、ええ、わかったわ」
俺の要求に、璃里耶はどこかうっとりとしながら従順に頷く。
璃里耶は床に四つん這いになると、尻を強調するように突き出す。
ヒップの豊かさが一目瞭然となる角度で、その形を観察する。
……俺はどちらかと言えば胸派だが、いまなら尻を愛好する人間の気持ちがわかるような気がした。
丸々と山のように盛り上がった双丘。
大きいにもかかわらず、形は崩れておらず、きゅっと引き締まっている。
美尻にして巨尻。まったく、どこまでもオスに都合のいい体だ。
この至高の媚肉にどれだけのオスが群がることか。はたして目の前の少女は自覚しているのだろうか?
こんなにも無防備に、二人きりの密室で、下着姿になって、尻を突き上げて。
ここは男として、少しお灸を添えなくてはいけない。
両手で璃里耶の尻肉を揉みしだき始めた。
「ああっ!」
四つん這いのまま、璃里耶は体をくねらせ、長い銀髪をなびかせる。
心地よい手応えに、熱い衝動が込み上がる。
「カケルったら。急に別人になったみたいに積極的になってるじゃないの」
「観察しろと言ったのはそっちだぞ。もう遠慮しないからな」
「ええ、構わないわ。存分にやりなさい」
璃里耶が息を荒げてそう言う。
俺は上着を脱ぎ、上半身裸になった。
こんなものは邪魔だ。ちゃんと璃里耶の体を感じ取るためにも。
手では足りない。
全身で、彼女の体を知りたい。
「カケル……ああっ!」
覆い被さるように、背後から璃里耶を抱きしめる。
……俺は、どうしてしまったんだろう?
でも、自分を抑えられない。
いまはただ、璃里耶というモデルを理解したくてしょうがない。
「お前、言ったよな? モチーフの観察は、体のすべてを使って行うべきだって」
耳元でそう囁くと、璃里耶が熱い吐息をこぼした。
「そうよ。納得のいくまで、徹底的にやるの」
「わかった。その教え、ありがたく実践させてもらうよ」
白い首元に口づけをする。
舌を伸ばして、その素肌を舐めてみる。
「ああっ!」
ビクン、と璃里耶の体が跳ねる。
心なしか、甘く感じる。
もちろん錯覚なのだろうが、少女の肌というだけで特別な味わいを覚えてしまう。
「カケル……ああっ」
両手を使って体中をまさぐる。
乳房を。鎖骨を。肩を。二の腕を。腹部を。背中を。尻肉を。太ももを。
璃里耶という名の最高のモデル。その輪郭を、体に覚え込ませていく。
重なり合う肌から、熱いものが伝わってくる。
璃里耶の体から、男を強く昂ぶらせる甘い体臭が立ち上ってきた。
美しい銀色の髪に鼻をこすりつける。
胸いっぱいに息を吸い込むと、芳しい匂いが鼻腔を突いて、心地よさで意識が遠のきそうになる。
「んぅ、はぁ、あっ、あぁ……私、こんなこと、初めてなのに……はしたない声が出ちゃ……ひゃん、あぁっ、ああぁんっ!」
艶やかな吐息と一緒に漏れる声が耳に心地いい。
五感のすべてが璃里耶という少女で占められていく。
これが、生身の女の体。
知らなかった。
あれほど女の体を描いてきたのに、自分は何も理解していなかったんだ。
なんて素晴らしいのだろう。これこそ天が生み出した至高の芸術品だ。
どんな立派な彫刻だろうと敵わない。
これほどのモチーフを見て、触れて、感じて、それで終わりでいいのか?
いいはずがない。
叫び出したい衝動に駆られながら、璃里耶から身を離し、真っ先にペンを握った。
この昂ぶる感情をぶつける先は、ひとつしかない。
異様なスピードでスケッチブックにラフ絵を描き上げる。
構図が決まると、すぐに液晶タブレットを立ち上げ、デジタルイラストで色づけを始める。
モニターのない板タブレットと違い、液晶タブレットは紙の上で直接描くのと感覚的には変わらない。コツさえ掴んでしまえば、デジタルでも三次元と同様の描き方が実現できる。
筆の勢いが止まらなかった。
こんなにも描きたいと思ったのは久しぶりだった。
気持ちがはやる。早く描き込まなければならない。あの感覚を、忘れないうちに。
* * *
「はぁ、はぁ……そうよ。それでいいのカケル。それこそが、あなたの本来の姿よ」
痙攣する体を起き上がらせた璃里耶が、陶酔した眼差しでカケルを見つめる。
汗で艶光る、余熱の引かない体を自ら抱きしめながら、甘い吐息を漏らす。
「素敵よ、カケル。いまのあなた、とても輝いているわ」
「話しかけるな。集中力が乱れる」
「ええ、ごめんなさい。心ゆくまで、没頭して。自分の世界に」
璃里耶は満足げに微笑んで、カケルの後ろ姿を見守った。
「……楽しみね。どんな絵が、生まれるのかしら」
女体の感触を知って、一皮むけたカケルが生み出す新作を、璃里耶は心待ちにした。
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