第17話 瞬殺・逃走

 作戦を立てた翌日。

 私たちはぶっつけ本番の決戦へ挑む。


「行くよ、ヤクト君」

「いつでも」


 前方20メートル程には単体のドレインキャットが目視できる。今日も、気持ちよさそうに寝ているだけだ。

 でも、あと3個体は居るはず。運が悪ければその倍以上。

 ハッキリ言って全部を倒すことは不可能だ。

 となれば、残された選択肢は 1つ。

 

 一体を他の個体にバレる前に殺しきる。

 そして即効で逃げる。

 それだけだ。


 私達は昨日の活動時間を費やして、それだけを念入りに話し合った。

 そして、これがその結論。


「《ウォルタ》」


 ヤクト君がE級水属性魔法を発現させる。その効果は水を作り出すこと。たったそれだけ。

 本来ならコップ1杯分を作り出す程度。

 でも、ヤクト君が生み出す水はコップ1杯なんてケチな量じゃない。

 それは丸々ドレインキャットを呑み込む。


 魔力に余裕がある人はこれができるから羨ましい。

 結局は物量の暴力が戦いにおける正義だ。


 でも、人の魔力を羨んでいる暇はない。

 私もヤクト君に続いて魔法を発現する。


「《インドゥラーレ》」


 そして、作り出された水が重力に従って地へ落ちる前に、私は拘束魔法で『水』を固定する。

 すると狙い通りドレインキャットを閉じ込める水牢か出来上がった。

 激しく抵抗するドレインキャットを拘束するよりも余程やりやすい上に、確実な拘束。


 私には苦しい消費魔力量だが……。

 

 時間に余裕があるならこのまま窒息を待っても良いのかもしれない。

 でも、それではドレインキャットを仕留めるまで数分は掛かる。

 それじゃあ他の個体が気づくし、何より私の魔力が切れる。


 だから、既にとどめの一手は別に用意されている。


 私の後方、そこでは私とヤクト君が魔法を発現するよりも前から詠唱を開始していたオズ君が居た。

 

「《ストーンフォール》」


 私は拘束魔法を解いて水牢を崩す。

 そして、ドレインキャットは解放されると同時に大岩に叩き潰された。

 

 今のところ順調だ。

 悠長に死体の確認はしない。


「皆、急いで離れよう」


 返事はない。

 けれど、 3人は黙って私の言葉に従ってくれた。



 警戒を怠らず仮設拠点まで引き返した私たち。

 まだまだ油断できる状態ではない。

 ドレインキャットは知能が高い魔物じゃないけど、集団での奇襲に長けた生物だ。

 悠長に仮拠点で過ごしていれば、袋叩きにされる可能性もある。

 

「さっさとテントを解体してここを離れよう。予定通り、アマンダさんはこの一帯の大地を焼け野原にしちゃって」

「アンタ、エグいわね……」

「やっぱアリスちゃん怖……」

「…………」


 一連の流れを見ていたアマンダさんとヤクト君の素直な感想。

 オズ君も引き気味で私を見ている。


「いや、このやり取りは昨日もやってたじゃん……」

「何回でも言うわよ……」

「この作戦思いつくのはヤバイ」

「ま、まあ、頼りになるってことで……」

 

 どうにも 3人との心の距離がまた少し離れてしまったような気がする。

 気のせいであって欲しい。


「それにしても、初手が上手くいって良かったよ……」

「《ウォルタ》と《インドゥラーレ》の連続行使、あんなの良く思いついたね。というか、魔力干渉を起こして発現に失敗すると思ってたよ……」

「水を作り出す途中で私の魔法を発現させればそうなるだろうね。でも、魔法で作り終えた水はもうただの物質でしかないから魔力干渉はしないよ」

「そんなこと何処で覚えてくるのよ」

「昔、自分で実験した」

「……昔って、何歳の頃の話をしてるんだ」


 3人とも不思議なものを見るような目だ。


「い、いいから逃げるよ!」

「ああ、うん。でも、ミンチが居ないんだよな……」

「「「はっ⁈」」」


 ヤクト君に言われて気づいた。二人も気づいていなかったらしい。

 言われてみれば、さっきまで私たちを偉そうに監視していたマルコフ先生が居ない。


「じょ、冗談でしょ⁉ アイツ何してんの?」

「流石に、あの人が居るかもしれないのに一帯を焼き払うわけにいかないよね……」

「もうあのミンチ野郎を焼肉にしてやろうぜ……」

「こ、こらこら」


 それにしても困った。

 昨日、私たちの作戦を傍らで聞いていたのだから、早々に逃げることはマルコフ先生も理解しているはず。

 なんで教師が生徒の足を引っ張てるんだ?

 意図的だとしたら悪質というレベルを超えている。


「どうするのよこれ、アイツの為に戻るとか嫌よ?」

「つーか、今襲われたら防護魔法もないから死ぬな」

「僕たちはかなりの窮地にいるってことになるね……」


 ヤクト君とオズ君の言葉で空気が一気に重くなる。

 だいぶ笑えない状況だ。

 このままではという言葉が頭から拭いきれない。


「い、今は取り乱したすことが一番危険だね」

 

 自分に言い聞かせるようにそんなことを呟くけれど、全く気持ちが落ち着かない。


「探すか、置いて行くか……」

「「置いてく!」」


 オズ君が二択を提示すると、アマンダさんとヤクト君は速攻で答えを出す。

 なかなか薄情だけど、私も賛成だ。

 あんなだけどマルコフ先生はマギアステラ学園の教師。

 優秀は優秀なはず……。


 置いて行っても問題ないか……悪いのあっちだし。


「よし、予定通り一帯を燃やしてから逃げよう!」

「「「容赦ないな!」」」

「あれ?」

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