第14話 問題児チーム結成

 結論から言えば、グレンダの嫌な予感は当たっていたらしい。

 

 今日は魔物討伐を初めて体験する実践訓練の当日。

 流石に単独で魔物と対峙するようなことはなく、グループを組んで訓練に取り組む手筈となった。

 

「うわ、アリスちゃんか……」

「おい、失礼だぞヤクト」

「チッ……コイツと一緒かよ。……てか、あたしらのグループだけ配分おかしくね?」


 明らかに私に対して拒否反応を示す男子生徒と、私を見下したような態度を隠さないギャル。

 まあ、グループを組めば私を良く思ってない生徒と一緒になることは分かってた。

 問題は別にある。


「何というか、成績下位の生徒で集まってるよね……」

「魔力がまともにないアンタよりましよ」

「アマンダさん怖……」

「でも、実際そうだよね……僕らってたぶん成績ワースト4人だろ?」

 

 まず、私に対して喧嘩腰な女子はアマンダさん。

 桃色の長い髪が特徴的で、目付きが鋭い。

 正しくギャルといった様相と言葉遣い。私のことが嫌いらしい。

 

 次にアマンダさんを怖がる男子生徒がヤクト君。

 茶色の短髪が逆立っているツンツン頭。私が怖いらしい……。

 

 最後に、もう一人の男子がオズ君。

 金髪のサラサラヘア。私の事は嫌ってもいないし、怖がっても居なそう。

 今のところ一番話がしやすそうな貴重な存在。

 


 この三人は、私が学園で名前を憶えている数少ない生徒たち。

 何故知っているかと言えば、三人とも問題児としてどこかしらで噂になっている生徒だからだ。

 

「たしか、三人とも使える魔法が極端に少なかったよね……」

「C級が 1つも使えないアンタよりはまし」


 私の言葉へ即座に反発するアマンダさん。

 事実だから否定はしないけど、今はそういう話がしたいわけじゃない。

 

「でもアリスさんが言う通り、俺らに問題があることに変わりないよ」

「ちょ、オズやめろって」

「ヤクト、真面目な話だよ。僕らはこれから魔物と戦うんだ。下さらない意地の張り合いをしてる場合じゃない」


 噂だと三人はそれぞれ特定の属性魔法を数種類しか扱えない、所謂『リトルホルダー』。

 リトルホルダーというのは、極少数の魔法しか使えない魔導士を揶揄する蔑称みたいなものだ。

 根本的な部分で魔法発現に必要な想像力が欠けている。

 私と同じく、『欠陥品』の烙印を押されている生徒たち。


「手札の数をお互いに確認しようよ。私はD級までの魔法を全てと、最近になってオリジナルの魔法を幾つか使えるようになった」

「なに? 自慢? オリジナル魔法を使えるようになって舞い上がってんの?」

「アマンダさん、それじゃ話進まないって! 一度冷静になってちゃんと話をしよう」

「煩いわね! アンタ何様? あたしに指図するんじゃないわよ!」

「このチーム、終わってる……」


 何故か言い合いを初めてしまうアマンダさんとオズ君。

 そして、それを見て遠い目をするヤクト君。


「前途多難すぎるよ……」

 

 こうして問題だらけのチームが結成されてしまった。


 ◆


「では、訓練の詳細を説明する。まず、今回の討伐対象は『ドレインキャット』だ。小型の魔物だが、一定の距離まで近づくと魔力を吸収されるため実戦では十分な警戒が必要だ。また、移動速度は非常に速い。鋭い牙と強靭な顎を持つドレインキャットは人を嚙み殺すこともある。君たちには防護魔法を教員から付与することになっているが、それを過信しないように」


 小型と言えども前世でいう猫とは違う。イメージとしてはライオンが近い。そして、黒く長い体毛を持つ。

 いつだったか、私の黒い髪をグレンダはこの魔物と結びつけて褒めてきた。

 本当に、彼女の感性はどこかおかしいと思う……。


「ドレインキャットって……アンタ、マジで今回の訓練で使い物にならないんじゃないの?」


 私に対してアマンダさんは辛辣な言葉を投げかける。

 でも、本当にそうなってしまう可能性はある。


「ま、まあ、ただでさえ魔力が少ないから、私がドレインキャットと対峙するのはかなり難しいと思う……」

「最悪ね……」

「近づきすぎなければいいだけだよ。アリスさんにはあの魔法がある」

「先生をミンチにしたあれかぁ……」

「あたし、その魔法見てないんだけど。役に立つの?」

「威力は相当なものだったよ。あれなら魔物を一撃で仕留められると思う」

「だな! あれ? そうすると俺たちってアリスちゃんが居れば余裕?」


 どうやら、アマンダさんは自分の試験結果を聞いて早々に帰ったらしい。

 私を嫌っている割に、私が退学する様を楽しもうとしなかったのは意外だ。

 

 そして、残って私を見ていた二人はあの魔法を当てにしたいらしい。

 しかし、頼ろうとしてくれた二人には悪いけれど、《テスタ・ルプティス》をドレインキャットに直撃させることはできない。

 

「悪いけど、試験で使った魔法は役に立たないよ……。発動に時間がかかるから、ドレインキャットには避けられると思う。あと、あれは 1回使うと私の魔力を使い切っちゃうから……」

「外したら終わりって事か……」

「マジかよ……」

「ハァアア、結局お荷物ってことね」

 

 アマンダさんの辛辣な言葉が私の心に突き刺さる。

 その通りだけど、もう少し優しく言って欲しい……。

 どうにもアマンダさんは私を毛嫌いしているようでやりにくい。


「ま、まあ、D級だけど、拘束魔法とか支援魔法は使えるから攻撃は三人に任せるよ……」

「他力本願もいいところね」

「だから、やめろって」

「……チッ」

「おっかねぇ……」


 そんな言い合いをする内に、試験の説明は終わってしまったらしい。


「では、これで説明は終了だ! これより訓練開始とする。各グループに配属された教員の指示に従って移動するように!」


 生徒たちは教師に連れられて散り散りに郊外へ向けて歩き出してしまう。


「やべっ、俺たちも行かないと……」

「でもまだ僕らのチームの担当教師が――」


 オズ君の言葉の続きを遮るように一人の教師が口を挟む。


「やあ、お待たせ。君たちの護衛を担当するマルコフだ。よろしく」


 本当に、最悪なチーム構成になってしまった……。

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