第13話 新たな問題
マギアステラ学園はあくまでも教育機関だ。
だから、学園で実施される講義はあくまでも座学が中心。
稀に実技試験なんてものはあるけれど、魔法を打ち合って戦ったりすることはなかった。
そもそも、この学園は魔導学についての知識を深め、その探求に励むことを基礎理念としている。
だから、学園で魔法を使うのはあくまでも威力計測や発現テスト、そのはずだった――。
「突然のことで戸惑っているかもしれないが、これは君たちが魔導士を志す上でいつか必ず通る道だ。今までは学園の方針として実践訓練は学生に課してなかった。しかし、今後は違う」
マギアステラ学園の教育方針が大幅に見直されたことを告げるのは、退学試験で試験官をしていた男。
名前は何と言っただろうか……マルコフ?
彼は今年になってやって来たばかりの教師で、まだ馴染みがないから名前すらあやふやだ。
しかし、そんな新人教師がどうしてあんなにも偉そうにしているのだろうか。
こういう場ではこれまで学園長が話をしていたはずなのだけど……。
「手始めに、君たちには魔物討伐をしてもらう」
今はマギアステラ学園の全体集会。
学生たちは突然の出来事に戸惑いの声を漏らしている。
当たり前だ、魔物は都市外部に生息する危険な生物。
最悪殺されることだってあり得る。
「安心してくれ、当然教員が君たちをサポートする。あくまで訓練だ。君たちの安全は我々が全力で守ろう」
人の魔法を自ら受けて血達磨になった間抜けにあんなことを言われても安心感は無い。
油断して生徒より先に彼が魔物に食われそうだ。
私はそんな失礼な事を思いながら彼の薄ら寒い演説を聞く。
「将来有望な君たちの更なる躍進を私は願っている!」
だから、なんで新人教師が偉そうにしてるのさ……。
終始訳の分からない状況に首を傾げながら、マルコフ先生の無駄に長い演説を聞き流す。
そうして、全体集会は幕を閉じた。
◆
今は昼休み。
学生たちは各々好きな場所で食事を取っている。
普段は雑多な会話が繰り広げられているのだけれど、今日は概ねどこからも同じ話題についての会話が聞こえてくる。
「ミンチ先生の話長かったな……」
「魔物討伐とか急に言われても……」
「俺は結構楽しみだぜ。自分の魔法がどこまで通用するか試してみたかったんだ!」
「教員が付いてるって言ってたし大丈夫だろ」
学園の大幅な方針変更に賛同する者、不安を感じる者、色々な意見が交わされている。
ちなみに、ミンチ先生というのは、マルコフ先生のことだ。
私の魔法で重傷を負った時の様子から付けられた渾名らしい。
人の事を加工肉のように呼ぶとは、酷い生徒たちだ。
その原因を作ったのは私なんだけど……。
「アリス、僕の話聞いてるかい?」
「あ、ごめん何も聞いてなかった」
ここ暫くでグレンダとの食事も日課になっていた。
いつも大した話なんてしないのだけれど、今日のグレンダは真剣な顔つきだ。
「全く……。それより、アリスはどう思う?」
何が? なんて聞かなくても分かる。
「魔導士ならいつか通る道だって話は理解できるし、完全に反対ではないよ。ただ、この学園の基礎理念からは離れているよね。もっと魔法の研究をしやすい環境を整える、とかなら分かるんだけど……。というか、そういうのは学園長の孫娘であるグレンダにこそ聞きたいんだけど? 何か聞いてないの?」
「今回の件に御祖父様は関わってないんだよ」
「え? 学園長なのに?」
「ああ。表向きには、この学園を統括するのは御祖父様だけど、その上には理事会がある。今回の件は、そっちの提案らしい。まあ、理事の上にはさらに奴らが居るんだろうが……」
奴らというのは、おそらく魔導院という機関のことなのだろう。
魔法技術をより発展させ、マギアルティアという都市の名声を高めようとする組織。
最近になってグレンダから聞かされた話だ。
「より実践力のある人材の育成か……。まあ、都市を発展させる上では理に適ってはいるんじゃない?」
「だが、やり方が強引過ぎる。反対する人間だって居たんだ。それなのに否定意見を全て握り潰して強行された。その上、下地も整ってないのにこんな性急に事を始めるとはね……」
たしかにそうだ。
本来であれば、制度は時間を掛けて変えていくもの。
それなのに、今回の件は全てが突然すぎる。
「アリス、気を付けた方が良い。何か嫌な予感がするよ。特にあのマルコフという新任教師。君に逆恨みしている可能性もある。変な事にならないといいんだけど……」
「あんまり不安になるようなことは言わないで欲しいな……」
内容によっては、私は本当に命の危険に晒されることになる。
オリジナル魔法を使えるようになったとはいえ、私の魔力が極端に少ない事実に変わりはない。
持久戦に持ち込まなければならないような訓練なら、それだけで私は苦戦を強いられることになる。
「前途多難ってところかなぁ」
「そうだね……」
せっかくの食事だというのに、私たちの間には楽しい雰囲気はなかった。
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