幕間 暗雲
魔法都市マギアルティアの中央区に聳え立つ魔導院議事堂。
この場所に立ち入ることができる者は、世界屈指と言われる魔導都市であるマギアルティアでも一握りの優秀な魔導士のみ。
今この場に居る俺も、当然その優秀な魔導士の一人だ。
だが、俺は今その地位を追われる窮地に居る。
「マルコフ君、君はD級魔法しか扱えない学園の生徒に恥をかかされたそうだね? D級魔法で負った怪我の具合はどうだい?」
心配するような言葉に反して、その実は俺を侮蔑していることが分かる質問。
これほどの屈辱を経験したことは一度たりともない。
恥辱に耐え歯を食いしばる余り、奥歯が砕けそうだ。
「ぐっ…………す、既に完治しております……」
周囲からは俺への嘲笑と揶揄する声が聞こえてくる。
「ククッ……それは良かったですなぁ」
「マルコフ殿は怪我の治りが早いようで羨ましい! いや、そもそもD級魔法で怪我をするのが可笑しいですが……フフッ」
俺は魔導院からマギアステラ学園に派遣され、臨時教師の任を受けていた。
当然、教師なんて下らない仕事は表向きの仕事でしかない。
俺が派遣された真の目的はマギアステラ学園の指導方針を操作すること。
より高ランクな魔法を習得できるカリキュラムを組むこと、そして低ランク魔法しか使えない無能な生徒を早急に排除できる基盤の作成。
それが俺に任されていた本当の仕事だった。
その一環として、態々退学試験の試験官なんてものに率先して名乗り出たのだが、それが良くなかった。
ふざけやがって、あれがD級魔法だと?
吸衝石を破壊して、地面にクレーターを作る魔法だぞ!
嘗て天才と呼ばれた一人の少女――アリス・テレジア。
俺はあのガキによって辛酸を舐めさせられてしまった。
奴め、死んだ才能と思っていたが、あんなものを隠していたとは!
「おっ、お言葉ですが、あれはD級魔法などでは……。間違いなくA級以上の――」
「ほう? 君は魔力が殆ど無い少女にA級以上の魔法が使えると言っているのか?」
この言葉を肯定すれば、俺はいよいよ魔導院には居られなくなる。
『優秀な魔導士とは、より多くの魔力を内包し、より高ランクの魔法を扱える人間』
これが魔導院の掲げる理念だ。
それなのに、一般人の1/100しか魔力を持たない落ちこぼれのガキが簡単にAランク以上の威力を出せるオリジナル魔法に到達したなどと……。
そんなことを肯定できるはずがない。
「いえ……そんなことはありえません」
「ああ、そうだろうとも。ならば、君はD級魔法で死にかけたということだ。そうだろう?」
「…………はい。ですが、彼女が呪師である可能性も……」
「だとしても、彼女は魔力が少ない落ちこぼれの魔導士として名が知れてしまっている。そんな子に、君が恥をかかされた事実が噂になっては困るんだよ。君がバカを見る分にはいい。だが、組織の名に泥を塗られては困る!」
クソッ! クソッ! クソォッ!
何故、俺がこんな目に!!
「た、大変……申し訳……ありません…………」
「うむ……しかし、アリス・テレジアか。少し前までは無類の才を持つ人間として目を掛けていたが、こうなると邪魔な存在でしかない」
目の前に立つ男は、目を瞑って何事かを考えた後、俺に向けて新たな指示を出した。
「マルコフ君、君にチャンスを与えよう」
「……はっ!」
「……アリス・テレジアを消してきなさい。手段は問わない。我々の教義に反する存在を許すな」
どうやら、俺の首は薄皮一枚でまだ繋がっているらしい。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
なにより、この屈辱の返礼は必ずしなくては……。
アリス・テレジア、俺は貴様を――。
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