第4話 覚醒
残酷なほどに、時が流れるのは早すぎる。
あっと言う間に、家に籠って研究をするようになってから二週間が経過していた。
そこら中に魔力回復薬の空き瓶や魔法関連の文献が散乱している。部屋の中はハッキリ言って酷い惨状だ。
それほど無我夢中になって魔法の研究に没頭する生活を続けていた。
けれど、遂に私の心が折れ始めている。
「っ……ぅ……ぐすっ………………あああああああああ‼」
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
魔力が、足りない!
「結局……けっ、きょく…………っ!」
研究そのものは上手くいっていた。
二週間掛けて、私が編み出した新しい手法――魔法の圧縮発現。
サイズを縮小して、熱を凝縮した圧縮版≪ファイヤボール≫。
その威力は従来の≪ファイヤボール≫に比べて一点特化の高火力。
この技術を突き詰めれば、省魔力かつ通常では考えられない威力を実現できる。
これは、革新的な技術と言えるはずだ。
でも――――。
「ここまで来てっ!」
悔しさで這いつくばる私は、床に激しく拳を叩きつける。
魔法の圧縮技術を用いても、私の力ではC級魔法の威力に届かないことが分かってしまった。
それを実現するには、私には魔力が
魔法を圧縮させるにも、結局は魔力を使うのだ。
「できない……私には…………」
自分で生み出した技術ですら、私の魔力量では完璧に扱うことができない。
私には、致命的なパーツが欠損している。正に欠陥品だ。
『あいつ、魔力量が少なくてC級魔法以上は使えないらしいぜ!』
『うっわ、推薦貰って入学しておいてダッセェ!』
『魔導士としては終わりだよね。いつまで学園に居るんだろ?』
これまで耐えてきた私を馬鹿にする言葉の数々。
『使えない魔法を勉強して、馬鹿みたい』
頭の中で何度も反響するように、そんな言葉が聞こえてくる。
「……るさい。……うるさい! うるさいうるさいうるさい‼」
私はそれを振り払うように大きな声で叫んだ。
もう、二週間。
試験までの半分の時間を費やして、スタートラインまで戻ってしまった。
その事実に、私の精神は酷く揺さぶられている。
どうして、私を転生させた神様は人並みの魔力を与えてくれなかったのだろうか。
チート能力なんていらないから、この世界の平均値くらいは授けて欲しかった。
天才になんてなれなくたっていいから、せめて自分の思い描く魔法を使える身体に……。
段々と、そんな現実逃避気味な思考になっている。
これ以上、魔法と向き合うことが怖い。
そういえば、前世でも私は何だかんだと物事を諦める癖があった。
スポーツでも、勉強でも、いつだってそれなりに良いところまでは行けるんだ。
でも、上には上が居て、その人たちの歩みの速さには追い付けなかった。
『私には、
そんなことを言って、色々な事を投げだしていた。
「魔法の才能も無かったんだ……」
――――――――――――――――――――。
――――――――――――――。
――――――――――。
――別に、魔法じゃなくたって……。
「また、諦めちゃおっかな」
無意識にそんな言葉を口にして、一瞬だけ心がフワッと軽くなる。
一人だけの部屋で、自分の声が異様に大きく響いた気がした。
そして――――。
私は、とんでもない吐き気に襲われる。
咄嗟に手で口元を抑えたけれど、喉元までせり上がった胃液を押し留めることはできなかった。
「……ぅ……げぇ……ごふっ……」
身体が勝手に痙攣して、遅れて寒気がやってくる。
こんなに気分が悪くなったことは前世を含めたって一度もない。
自分で吐いた言葉に対する拒絶反応。
私の心の奥底で、何かが『逃げるな』と訴えかけていた。
まだ胸に残るムカつきを言葉にして吐き出す。
「……才能って、何よ…………! そんなんいいから、やりなさいよ!」
泣き言をいう自分を全力で否定する。
今ここで魔導士の道を諦めたら、私はもう何もできなくなる気がするから。
「死んで生き返っても、まだ言い訳を並べてるようじゃ前になんて進めない!」
まだ、諦めたくない自分が居る。
だって、私は異世界に転生したんだ。
普通じゃ考えられない体験。
こんなチャンスを貰っておいて……!
「まだ……終わりたくない!」
少なくとも、自分で終わらせるなんて嫌だ。
決めたじゃないか。
持てる全てを尽くして、悪足掻きをしてやるんだ!
私は、また深い思考の海の中へ潜り込む。
何度でも、何度でも。
だって、私は魔法が好きだから。
私はずっと、こんな世界に憧れていたから。
大好きだった小説の主人公たちみたいに、私だって――――。
「最強になるんだ!」
◆
失敗して、失敗して、失敗して、失敗して。
何度も新しいことを試して。
折れそうになる心を何度でも叩きあげて。
――そうして、試験前日。
私は、固定観念を破壊する新たな魔法に辿り着いていた。
「こういうのを漫画やアニメで『覚醒』って言うのかな? 今の私なら、誰にも負ける気がしない!」
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