第6話 記録転送
記録員は基本的に、天使としての力は制限し人間としていることになっているが、その制限を解除するタイミングがある。
それは、記録を天界へ転送するときである。
昼前。クレアーレルの部屋。クレアーレルとユニエルは向かい合ってダイニングテーブルに着いている。
テーブルの上には、複雑な魔法陣の書かれたA4コピー用紙が二枚。一枚はクレアーレルの前に、もう一枚はユニエルの前に置かれている。
今から二人で、天界へ情報を送るのである。
ユニエルは紙二枚を見ながら、懐かしさを感じていた。その魔法陣が発するエネルギーが、天界の空気と似ている。
「ほな、この中心に右手置いて」
ユニエルは、言われた通り魔法陣の上へ右手を置いた。
「で、『上』おったときの感覚に戻る。制限なんてなくて、どれだけでも、どこへでも広がって羽ばたいていける。やろう思てできひんことなんてない……」
クレアーレルが言い終わるか終わらないかのうちに、ユニエルは魔法陣の上に置いた手が、手の平から熱くなってきたことに気がついた。目を閉じそこへ、感覚を委ねる。肉体なんてあってないような感じ、目の前は明るく、それは自分自身の輝きで。
体中が熱くなってきて、特に熱を持つのは、背中である。
そうだった。
顔を上げ、前を見た。目の前にいるのは、シアンカラーのオーラを纏い、それと同じ色の羽根と輪を持つ天使であった。
自分のそれらは、リーフグリーンだ。見えずとも、感覚で分かる。
羽根は出ているが、椅子の背もたれに押しつけられることはない。透けて、貫通して見えていることだろう。輪もだが、具現化されてはいても三次元的な実体はないからだ。
『忘れそうになるやろ』
テレパシー。クレアーレルが、こちらへ視線をやってきた。頭の中に直接聞こえた声へ、『はい』ユニエルはも、声に出さず答える。
『せやからこの記録転送には、記録を上へ送る以外にもでかい意味があんねん。地球は俺らのとことは波動、めっちゃ違うからな。たまにこうして上にアクセスせんと、本来の感覚忘れてく』
『はい……』
『まー、言うてもそう簡単には完全に思い出せへんようにはならへんけどな』
『ほな、送ろ』。クレアーレルの一言。ユニエルは再度返事して、上へと、意識を合わせた。
Fighter and Recorder ROTTA @shirona_shima
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