第31話 消えた王様

 翼を広げ巨体を夜空に浮かべ雄大に飛ぶアークデーモン。通った山の木々が揺れ、その強烈な気配を感じた獣やレインデビルズの逃げ惑う声が響く。砂浜に立つ大神は空を飛ぶ、アークデーモンをジッと見つめていた。

 アークデーモンを見つめたまま、大神は意識を夜空に向け集中する。彼が意識を向けたアークデーモンの十メートルほど上空のわずかに歪み戦闘ドローンのピヨチャンが姿を現す。


「!!!」


 気配に気づいたアークデーモンが振り向いた。直後にピヨチャンがレーザーをアークデーモンへと発射した。アークデーモンは素早く反応し、翼をはためかせピヨチャンのレーザーをかわす。地上に向け一直線にレーザーが伸びていき木々を高熱で溶かしながら地面に到着し火柱をあげる。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 アークデーモンは左手をピヨチャンへと向ける。怪しく赤くアークデーモンの左手が光った直後に赤い火の玉が発射された。迫りくる火の玉に機体を斜めにし、旋回し火の玉を回避したピヨチャン。

 しかし、アークデーモンの火の玉は向きを変え、旋回したピヨチャンを追いかけてくる。うなりを上げながらピヨチャンへと火の玉が迫って来る。アークデーモンは魔力によって火の玉を操作し誘導しているのだ。

 ピヨチャンは速度をあげ前に出ると、機体の後部から青白く光る十センチほどの金属の棒を五本ほど背後から迫って来る火の玉へと向け射出する。

 ピヨチャンが出した、エーテルフレアという。エーテル加工された金属棒は、目標の手前で五角形を作るように計算され射出される。金属の棒が五角形を作ることで周囲に一種の結界のようなものを作り出す。結界に入った火の玉は魔力を遮断される。魔力で誘導された魔法である火の玉は制御を失いエーテルフレアが作り出した金属棒の手前で爆発した。爆発した火の玉の、衝撃と爆風が周囲にまき散らされる。ピヨチャンにも背後から爆風が迫って来る。


「ウガア!?」


 爆風が当たる寸前にピヨチャンの姿が消えた。すぐにアークデーモンの目の前に悠然と飛ぶピヨチャンが姿を現した。アークデーモンは驚きの声をあげるのだった。

 ピヨチャンは自分の機体を見せるかのように機体を翼を垂直にし、アークデーモンの目の前を砂浜へと飛んでいく。

 

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 砂浜へ飛んでいくピヨチャンを叫び声をあげながらアークデーモンが追いかける。


「食いついた! 如月さん! 狙撃準備を!」

「はい」


 窓わくの前に寝転がり銃身を外に出しスナイパーライフルを構える。銃身の先には砂浜に立つ大神の姿が見える。直後にピヨチャンが大神の元へと飛んで来た。すぐに大神の周囲の砂浜が波打つように動き砂埃が舞う。

 アークデーモンが砂浜に飛んで来たのだ。右目でジッと大神を見つめゆっくりと彼の前へと下り立つ。


「出番だぞ」


 左右に視線を向けた大神の横に、ハチとナナが現れた。大神はトラックから機械犬たちを降ろし気化させて待機させていたのだ。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 口を大きく開け顔を前にだし、威嚇するような声をあげたアークデーモンだった。アークデーモンには大神の横にいる機械犬がただの獣のように見えているのだろう。


「いけ!!」


大神がハルバードをアークデーモンに向け指示を出した。ハチとナナがアークデーモンに向かって駆け出す。ハチは走りながら背負った機関銃でアークデーモンを狙撃する。アークデーモンは銃撃を左手で防ぐ。二体の機械犬は巧みに連携してハチが、アークデーモンの気を引きナナはそのスキをつき、アークデーモンとの距離を詰めていく。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 駆けながら刃を出した、ナナの刃の光が視界に入り、接近に気付いたアークデーモンは声を上げた。右手に持っていた青龍刀をナナに向かって振り下ろす。素早く飛び上がったなな


「グぅ!」


 苦痛に顔をゆがめ声をあげるアークデーモンだった。アークデーモンの足元を小さな影が走り抜けていく。

 影は大神で動きわずかににぶったアークデーモンの背後に彼は回り込んだのだ。飛び上がった大神はハルバードを構える。


「もらった!」


 アークデーモンの首を狙い大神のハルバードが鋭く伸びていく。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 ハルバードがアークデーモンの首に届く寸前にアークデーモンは振り向き、そのまま大神を斬りつける。


「クソ!」


 空を切るアークデーモンの青龍刀。大神の体は消えていた。青龍刀を振り切ったアークデーモン、手ごたえがないことに首をかしげた。アークデーモンの十メートルほど前の砂浜の空気がわずかにゆれ地面から白い湯気のようなものが沸き立って大神が姿を現す。


「ウガアアアア!!」


 目の前に姿を現した大神を見てアークデーモンは前に出た。手に持った青龍刀を振りかざす。大神は銀色の光輝く青龍刀を冷静に見つめている。

 

「さすがに強いな。だが…… これはどうかな?」


 大神がハルバードの柄で砂浜を軽く叩く。上空を旋回していたピヨチャンの機体下部のハッチが開き円筒が落ちて来た。

 アークデーモンと大神のちょうど間に円筒が落ちた。アークデーモンは落ちて来た円筒を見つめる。大神は顔を横に向け円筒から視線を外す。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 円筒は閃光弾だった。破裂した閃光弾は強烈な爆発音と光をはなつ、アークデーモンは一時的に聴覚と視覚を失う。顔をあげ叫び声をあげ左手で右目を押さえてふらつくアークデーモン。


「今だ! 如月さん!」


 大神の声が未結に届く。砂浜の端に立つ建物三階でスナイパーライフルを構えていた未結は静かに照準をアークデーモンへと合わせて引き金を引く。銃声が轟く、空気を切り裂きながら発射されたエーテル鋼弾はアークデーモンのこめかみへと一直線に向かっていく。

 しかし…… アークデーモンは銃弾が届く前に首を傾けた。エーテル鋼弾はアークデーモンのこめかみをかすめ飛んで行き海へ飛んで行った。


「はっ外した…… ちっ違う…… 防がれた……」


 アークデーモンを見てつぶやく未結だった。だが、ここであきらめるわけにはいかない彼女は再度照準をアークデーモンに合わせる。


「もう一度! えっ!?」


 顔を未結に向けるアークデーモン、ディスプレイ越しに見えるアークデーモンの口元は、わずかに笑みを浮かべているように見えた。未結はその不気味な笑みに驚き体が動けなくなっていた。

 アークデーモンは開いた左手を未結に向け水平に横に動かす。彼女の目が青白く光り、動かされたアークデーモンの左手から視線が外せなくなってしまった。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 未結の頭がざわつき違和感と痛みが走った。彼女は脳を何かがうごめく気持ち悪い感触と動くたびに響く頭痛に悲鳴を上げるのだった。未結の視界は真っ暗になった。


「如月さん! 如月さん! 大丈夫か?」


 大神の声が遠くから聞こえる。未結の視界が鮮明になっていく。彼女は意識を失ってしまったようだ。


「大丈夫です。私は……」

「よかった…… アークデーモンが消えた」

「えっ!?」


 顔をあげ前を見る未結、砂浜に立って居たはずのアークデーモンは消えていた。頭を触った未結、彼女の顔がみるみると青ざめていく。


「アッアークデーモンが消えたのはいつですか?」

「君の叫び声が聞こえてからすぐだ。それから十秒も経ってない」

「わかりました。急がないと……」


 慌てた様子の未結に大神が尋ねる。


「どうした!?」

「千里眼を利用されました…… アークデーモンは一気に私の視界を使って転送魔法を…… だからもう杏ちゃんたちの近くに……」

「なっ!? そんなことができるわけ……」


 アークデーモンは未結の力を利用し千里眼で杏たちを見つけ転送魔法を使ったいう。未結の言葉を信じらない様子の大神の言葉を彼女は遮る。


「いっいえ! でっできます! レイさんは私と視界をリンクして瞬間移動ができます。魔法を使えるレインデビルズなら私の力を利用をすることくらいはできるはずです」

「クソ!」


 悔しそうな大神の声と何かを叩く音が未結に聞こえた。目を大きく見開いて大神が何かに気付いた顔をする。


「あいつ…… まさか最初から僕たちを利用するつもりで……」

「さすがにそれは…… でももう急いで杏ちゃんたちに追いつかないと!」

「そうだな…… 今からそちらに向かう。合流しよう」

「はい!」


 通信を終えた大神が移動をしようとすると、背後から何かが近づいて来た。彼は武器を構えて振り返った。


「やっぱり! 大神さんだよ! レイ君!」


 振り向いた大神の前に装甲車両が道路を曲がって来た。大神に向かって装甲車両の銃座についた甘菜が手を振るのだった。

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