第30話 狙撃場所を探して

 大神と未結はトンネルを三つほど抜けた。三つ目のトンネルを抜けると、右手に砂浜が広がる場所へと出た。真っ暗で静かな道路に、波が打ち寄せる音と二体のパワードスーツが歩く機械音だけが聞こえる。

 少し進んだ十字路にくると大神が立ち止まった。


「あっちにある砂浜に僕がアークデーモンを誘い込む。如月さんは近くに身を隠して狙撃を頼む」


 砂浜を指して大神が未結へと指示をだす。視線を大神が指した場所へ向ける未結、荒れた駐車場の奥に暗闇に浮かぶ白い綺麗な砂浜が見えた。


「わっわかりました。なら……」


 未結は右手をこめかみの辺りに手を置いた。彼女の目が青く光り、周囲の光景が見えて来る。砂浜の近くには廃墟が並ぶ光景が見える。


「身を隠せそうな場所は……」


 海岸の端にうっそうとした草木に、囲まれた白い四角い建物が見える。


「あの丘のような場所の向こうに三階建ての建物があります。私はそこの屋根からアークデーモンを狙います」

「了解。じゃあ行こうか……」


 大神は砂浜へと歩き出した。未結は彼と別れ砂浜の横にある、壊れた車が数台おかれた駐車場を通りぬけていく。駐車場の横から道を挟んで向かいにうっそうとした草木が囲む白い四角い建物が見える。ここはかつては賑わいを見せていた宿泊施設だった。未結はスナイパーライフルを右手に持って建物に向ける。

 建物は一階は窓が大きなって室内が見える。レインデビルズに荒らされたのか、テーブルや椅子がひっくり返されているのが見える。

 未結はスナイパーライフルを構え左手を頭へともっていく。


「中の安全を……」


 頭部に装着している双眼鏡を未結がおろすと、彼女の視界が青く変わる。双眼鏡はサーモグラフィカメラとなっている。壁の裏側に居る敵も千里眼で見通すことは可能だが、千里眼を多用することで未結の体力は激しく消耗するため場面によって使い分けている。


「二階にレインデビルズ二匹…… 一階に三匹…… 人型…… 大きさからしてオークですね。排除します」


 サーモグラフィが見せる画像では、二メートルほどの人型のオークが赤く表示されていた。オークは二階で座っているのが二匹、一階を徘徊しているのが三匹いる。未結はスナイパーライフルの銃口をあげ二階で地べたに座っている二匹のオークに銃口を向ける。


「そこ!」


 銃声が響くと、同時にセミオート式のスナイパーライフルから、薬きょうが飛び出し未結の足元に転がる。発射された銃弾は壁を貫き、二階に座っていたオークの頭を吹き飛ばす。赤いしぶきのようなものがまき散らされた後、未結に見えるオークの体は赤色からオレンジ色へと変化している。近くに座っていたもう一匹のオークが立ち上がった。未結はすぐに二階にいるもう一匹のオークを狙い引き金を引く。発射された銃弾が壁を貫いてもう一匹のオークの体に命中した。横からえぐられるように、オークの腕と体の上半分が引きちぎられた。

 未結の目に二階の部屋に二匹のオークの躯が転がる姿が見える。


「二階排除完了……」


 淡々とつぶやき建物をジッと監視し続ける未結。銃声と悲鳴が聞こえた、慌てた様子で一階に居たオーク達が二階へと駆け上がっていくのが見える。

 冷静に未結は銃口をオークたちへと向け引き金を引く。時を置かずに次々と発射された三発の銃弾は、オーク達を貫いていく。

 五匹のオークは全て床に転がった。


「ふぅ……」


 小さく息を吐いた未結はスナイパーライフルを下し、サーモグラフィカメラを跳ね上げた。周囲に気を配りながらゆっくりと建物の中へと向かって行く。


「少しお邪魔しますね……」


 宿泊施設の庭を見るように作られた、大きな窓の枠をまたいでつぶやきながら未結は中へと足を踏み入れる。中は激しく荒らされており物が散乱していた。窓枠の向こうは宿泊施設のロビーだったようで、散乱のした物の向こうにカウンターがあった。

 未結は二階へ上がる階段を探し、カウンターの横を通り抜け一階の奥へ向かう。カウンターを過ぎてすぐに二階へ上がる階段があった。未結は慎重に二階へと上がった。

 二階へ上がった未結衣は、自分が撃ったオークがいる部屋を回り、オークがきちんと死んでいるか確認するのだった。


「これは…… ひどいですね……」


 五匹のオークの死体を確認を終えた未結は最上階の三階へ移動しようとしていた。廊下に戻って階段に向かう彼女に廊下の一室が開いている光景が見えた。その部屋の隅に動物や人間の死体や骨が、無造作に転がり積みあがっていた。どうやらその部屋はオークたちの食糧庫として使用されていたようだ。未結はあえてその光景を見ようとせずに階段へ向かおうと……


「キシャアアアアアアアアアア!」

「キャッ!」


 なんと死体の山の中から一匹のオークが飛び出して来て未結に掴みかかって来た。不意をつかれた未結だったが、叫び声に反応し振り向いた。とっさに彼女は自分の体とオークの間にスナイパーライフルを突き出した。

 オークは突き出された、スナイパーライフルをつかみ奪い取ろうと引っ張った。


「この!」


 未結は引っ張られたスナイパーライフルの機関部を左手でつかみ、強引に銃口をオークの体にあて引き金を引いた。


「えっ!? あっ! そうか…… 弾切れ!」


 スナイパーライフルは弾を撃ち尽くしており、引き金を押してもカチッと音がするだけだった。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「あっ!? しまった!」

 

 弾切れに動揺し一瞬だけ未結のスナイパーライフルを握る力が緩んだ。オークは彼女のできたスキを見逃さずに、スナイパーライフルを引っ張り強引に奪い取った。オークはスナイパーライフルの銃身を掴んで振りかざす。オークは未結のスナイパーライフルを彼女自身に叩きつけるつもりだ。

 体勢をなんとか戻した未結、武器を奪われてしまった彼女になすすべはないかと思われた。しかし、冷静な表情で彼女は左手を自分の腰へとまわした。パワーアーマーの腰には拳銃が装備されている。彼女は素早く拳銃を引き抜く。


「この!!!!!」


 右肩を前にだし体をぶつけるように前に出た未結、オークがスナイパーライフルを振り下ろそうよろめく。未結は左腕を伸ばし手に持った拳銃をよろめいたオークの喉元に突きつける。右手を素早く拳銃の元へ持っていき銃身をスライドさせると同時に引き金を引く。

 小さな銃声が響く、至近距離で放たれた銃弾はオークの顎の骨を砕く。撃たれたオークは後ずさりする。オークが手を離したスナイパーライフルが床に転がった。


「がっは!?」


 ふらつきながら顎をおさえるオーク、未結は床に転がったスナイパーライフルを一瞥し、冷静に銃口をオークに向ける。

 二発、三発と未結は淡々と銃弾をオークに浴びせる。銃弾をうけるたびに体をゆらしオークは後ずさりしていく。六発目の銃弾がオークの胸を貫く、オークの目から光が失われ膝をついた。そのままこと切れたの人形のように床に倒れた。床に転がったオークを見つめ静かに銃を下す未結だった。


「はあはあ……」


 緊張から解放され肩で息をする未結だった。そこへ大神からの通信が入る。


「どうした? レインデビルズの声が聞こえたが?」

「オークが建物に居たので排除してました。大丈夫です」

「了解。気を付けて」

「はっはい」


 返事をした未結は拳銃の安全装置をかけしまう。スナイパーライフルを拾い状態を確認し三階へと向かっていくのだった。

 しばらくして…… 青く目を光らせた未結は、壁を背にし持たれかかって座り、スナイパーライフルをストックを床につけ銃身を肩に置いた状態で、建物の三階から窓を覗いていた。彼女の脇に青いテープが巻かれた弾倉と赤いテープが巻かれた弾倉が二つ置かれていた。月明りがわずかに照らす静かな光に山が照らされている。


「アークデーモンはまだか?」

「もうすぐ見えるはずです」


 目の青い光を消し、未結が大神に返事をした。直後……


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 激しい叫び声が聞こえた。山の向こうから翼をはためかせアークデーモンが飛来してきた。未結は窓の前にひざをつき素早く弾倉をスナイパーライフルに青いテープが巻かれた弾倉をセットする。未結が脇に置いていた弾倉は通常弾とエーテル鋼弾が入った弾倉でテープの色で見分けていた。赤が通常弾で青がエーテル鋼弾である。

 雄大に飛行するアークデーモンの背後に戦闘ドローンのピヨチャンが姿を現すのだった。

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