第14話 現代の王、降臨
ゆっくりと顔をあげ顔を覆っていた手を下ろす。マウントディスプレイを冷静にエラーがないか見つめ、指先や足を軽く上下にうごかし、自分の体とパワードスーツに損傷がないかを確かめる。問題がないこを確認した彼は静かに周囲を見渡す。黒煙が周囲に充満し、不気味なほど真っ暗な空間がそこに広がっている。一メートルほど離れたところにいる甘菜の影だけがかろうじて見えた。
レイはすぐに甘菜の元へと駆ける。彼女は前を向いたままぼうぜんと立って居る。
「大丈夫?」
「レッレイ君……」
甘菜はレイに声をかけられて静かに前を指さした。レイが顔を向けると二人の前に、大きな黒煙の塊が目の前を漂よっていた。わずかに黒煙が動いてていく。何か巨大な物が二人に近づいてきているのだ。
「あれは…… クソ!」
ゆっくりと黒煙の中からアークデーモンが姿を現した。にやりと口元にほほ笑みを浮かべ赤く光る眼で二人を見た。アークデーモンが出す瞳の赤い光に照らされる二人、不気味な光にレイは身構えてすぐに隣の甘菜に声をかける。
「姉ちゃん…… 逃げるよ」
「うっうん。ダッダメ…… 足が……」
「クソ!」
足がすくんで動けないようだ、レイは慌てて左手を伸ばし彼女の手をつかんだ。アークデーモンは右手に持っていた巨大な青龍刀をふりかざした。直後…… ポンという音がして煙を吐いた円筒形の物が二人の足元に転がって来た。
「姉ちゃん! 目をつむって!!!」
「えっ!?」
甘菜とレイが目をつむった。爆発音がなって円筒の物体が破裂し、目がくらむほどの激しい白い光が一瞬で周囲をつつんだ。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
目を開けた甘菜に叫び声をあげながらふらつくアークデーモンが見えた。転がって来たのはスタングレネードで、その強烈な光にアークデーモンは目がくらんだのだ。
「今です。私と視界をリンクしてください」
「わかった! シンシア視界を共有してくれ」
「ハイ……」
未結の声がレイに届いた。未結は顔を横に向け笑顔でうなずく。彼女の視線の先には構えたアサルトライフルの銃身についたグレネードランチャーから煙を出しているヤマさんがいた。ヤマさんがスタングレネードを撃ったのだ。レインデビルズにはエーテルコーティングしたものを、直接ぶつけないとダメージがでない。その為、榴弾のような破裂して敵を攻撃する兵器は効果が期待できない。ヤマさんのグレネードランチャーは、火力をあげるためのものではなく、閃光弾や消火剤などを撃つための支援用なのだ。
レイは左手につかんだ甘菜の手首を強く握った。彼の前面のディスプレイの光景が黒煙から資材置き場に変わった。エーテルの力を使って未結がレイと視界をリンクさせたのだ。リンクさせることにより、レイの特殊能力で映った場所まで瞬間移動できる。
二人の姿はアークデーモンの前から消え、未結が居る積まれた鉄筋の前へとやってきた。レイがゆっくりと甘菜から手を離す。彼女はレイの顔を見てうつむく。
「はぁはぁ…… ごっごめんなさい」
「いや…… いい。俺だってすぐに動けなかった…… まして姉ちゃんは初めてだしな……」
アークデーモンを見て甘菜は身がすくんで動けなくってしまったのだ。レイは彼女の肩に手をかけて声をかけていた。
「みんな聞こえるか?」
「隊長」
石川から通信が入り、全員が彼の声に耳を傾ける。
「そっちに第三遠征兵団第一隊が向かっている。お前さん達は彼らが来るまでできる限りそこでアークデーモンを足止めしろ」
「「「「はい」」」」
四人が声をそろえて返事をする。石川が指令を続ける。
「やつは上級特定危険外界生物だ。反応強度の八十五以下の隊員は交戦禁止をされている。ヤマさん…… 君は現場指揮に専念しろ」
「わっわかりました」
少し悔しそうにヤマさんが返事をした。ヤマさんの反応強度は七十二ほどでアークデーモンと対峙すれば一瞬で殺されてしまい戦力にはならないだろう。
「それと戦う時間は五分だけだ。決してアークデーモンを仕留めようと考えるな。時間になったら引き上げろ。後…… 全員生きて帰って来いよ。戻ったらコーヒーをおごってやるからな」
「「「「はい」」」」
全員が返事をし石川との通信が終わった。アークデーモンの様子をうかがいながらヤマさんが口を開く。
「シンシア! タイマーを五分だ。すぐに始めろ」
「リョウカイシマシタ」
マウントディスプレイの左下に、デジタルタイマーが表示されカウントダウンが始まるのを確認しレイはうなずく。未結が立ち上がって鉄筋から下りた。四人は縁を描くように集まる。
「レイ、前に出てアークデーモンの注意を引け。如月! レイを援護しろ」
「はい」
ヤマさんはまずレイに指示をだし次に甘菜へ顔を向けた。
「甘菜さんは如月の護衛を頼む。如月。甘菜さんは初戦だ。面倒を見てやってくれ」
「わっわかりました。よろしくお願いします。甘菜さん」
「よろしくお願いします」
四人がアークデーモンへ顔を向けた。資材置き場に漂っていた黒煙が少しずつ晴れていく。アークデーモンの姿が見えていく。スタングレネードのダメージが少し残っているのか、アークデーモンは瞬き二回ほどをしていた。
ヤマさんが照準をアークデーモンに合わせ、レイに顔を向けて小さくうなずいた。レイは太刀を両手に持ち力強く握った。視線をアークデーモンへと向け、膝を曲げ腰を落とし体勢を低くしレイは両腕を体の右横へと移動させた。
「行きます」
声と同時にレイの姿が消える。彼は瞬間移動でアークデーモンの首の後へと移動した。構えていた太刀でアークデーモンの首を狙う。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「チッ!!!」
気配に気づいてアークデーモンは、即座に振り向いた。振り向きざまにアークデーモンは青龍刀でレイを斬りつける。レイは素早く反応し右手と左手をやや縦にして、斬りつけようとしていた太刀の軌道をアークデーモンの青龍刀へと向けた。
「グっ!!」
資材置き場に大きな音が響く。レイの太刀とアークデーモンの青龍刀がぶつかる。火花を散らしながら激しくぶつかりある太刀と青龍刀。アークデーモンの背中の筋肉が盛り上がり、レイのパワードスーツの背後とふくらはぎに搭載された、スラスターの出力が上がり炎が大きく吹き出していく。二人は至近距離で青龍刀と太刀で押し合っている。
「押し返されている…… こっちは最大出力だぞ…… うわああ!!!」
レイはアークデーモンに押し負けてしまった。振りぬかれた青龍刀に、押されたレイは体は地上へ落ちた。衝撃がはげしくレイを襲ったが、彼は必死に踏ん張りバランスを取ってなんとか倒れずにすんだ。
「クソ!!!」
倒れずにんだレイだったが、アークデーモンの押す力はすさまじく、地面についた彼の両足が地面を削って痕を残し落とされた場所から五メートルほど下がっていく。レイはとっさに持っていた太刀を地面に突き刺した。突き刺した。地面に刺さった太刀が地面を数十センチ削りようやくレイの体は止まった。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
にやりと笑ったアークデーモンは、続けざまに青龍刀を上から振り下ろした。レイは突き刺した太刀から手をはなし、左手を腰にさしている打刀の鞘にかけ、顔をあげ振り下ろされる青龍刀を見つめていた。
「ハッ!」
青龍刀が振り下ろされる直前レイの体が消えた。青龍刀はレイが居た場所に叩きつけられた。地響きがして砂埃が空中に舞った。
「足元ががらあきだせ!!」
レイはアークデーモンの右足の後ろへと移動していた。腰にさしていた打刀を抜いた彼は、右腕を引き切っ先をアークデーモンに向け一気に突き出した。
「えっ!? クソ……」
甲高い音がする。レイが突き出した打刀が、アークデーモンの皮膚の硬さに負けたのだ。彼の打刀は切っ先から十センチほど下の部分が折れた。折れた刀身は回転しながら地面に突き刺さった。
「うわ!」
アークデーモンは足の感触に気付き、足を軽く上げ後ろにかかとでレイを蹴りつけた。レイの体にかかとが直撃し激しい衝撃が彼を襲う。
レイは吹き飛ば荒れ一直線に飛んでいき、積まれた鉄筋へと突っ込んでいった。崩れた鉄筋に押しつぶされ倒れるレイだった。激しく揺れる体にヘルメットの表示されていうディスプレイがわずかにちらつく。
すぐに視界は戻り両手をついて体を起こそうとした。
「クックソ!!!」
「レイ君! 前!」
「はっ……」
起き上がろうとしたレイの視界にアークデーモンの足が見えた。アークデーモンはレイを吹き飛ばした後、すぐに飛んで距離をつめていたのだ。青龍刀を両手にでもってニヤリと笑うアークデーモン、その表情は獲物を狙う獣ではなくおもちゃで遊ぶ子供のようだった。
「レイさん! 動かないで!!!」
銃声が轟きアークデーモンの顔がのけぞった。未結が撃った銃弾が横からアークデーモンのこめかみに直撃した。アークデーモンは青龍刀から、右手をはなしこまかみをおさえ動きは止まった。
「やった!!」
「いや。まだだ」
歓声をあげる甘菜をレイが冷静に制する。
「えっ!? うそでしょ……」
ゆっくりと顔をもどしたアークデーモンが、こめかみから右手を離す。銃弾が直撃したアークデーモンのこめかみには傷一つついていなかった。アークデーモンは顔をうごかし未結を見て笑う。
「逃げて先輩! 姉ちゃん!」
レイが叫ぶ。アークデーモンは駆け出して一直線に未結の元へと向かって行く。レイは右手を伸ばす彼の体はすっと消えた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
奇声をあげ未結達の距離をつめるアークデーモン。甘菜がタワーシールドを構えて前に出ていく。
「未結ちゃんには手出しさせないよ!!」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
目の前に現れた甘菜を青龍刀で横から振り払う。甘菜は体の向きをかえ、青龍刀をタワーシールドで受けた。しかし、青龍刀とぶつかったタワーシールドに亀裂が入った。アークデーモンはタワーシールドで青龍刀がとまったが力任せに強引にふりぬく。甘菜は必死に踏ん張ったが力負けしまい吹き飛ばされてしまう。放物線を描いて飛んだ甘菜は、地面に叩きつけられようとしていた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! えっ!?」
吹き飛ばされた地面にたたきつけられようとしていた、甘菜の背後にレイが現れて彼女を受け止めた。
「レッレイ君…… ありがとう」
「大丈夫?」
「うっうん…… でもやっぱり強いよ」
「あぁ…… でも、あと一分だ。ちょっと先輩を連れて来る」
マウントディスプレイの左下に表示されていた、タイマーは残り一分になっていた。レイは甘菜を地面にやさしく下すとそのまま姿を消した。すぐに未結が乗っていた鉄筋の上へとやってきたレイ。アークデーモンは未結の元へとゆっくりと歩いて向かって来ていた。
「先輩? 大丈夫ですか?」
「はっはい」
「逃げますよ」
「はい」
レイは未結の肩に手を置いた。すぐに二人の姿が消え甘菜の元へ戻って来た。アークデーモンは三人を探しているのか首を左右に動かしている。
「後四十秒です。私がエーテル鋼弾を使います。これならアークデーモンでもダメージが入るはずです。相手がダメージを負ってるすきに私たちは撤退します」
「了解。じゃあ俺と姉ちゃんが気を引く。行くよ。姉ちゃん」
「はーい」
レイと甘菜がアークデーモンに向かって駆けていく。
二人が前に出たのを見た未結は、スナイパーライフルのライフルのマガジンを外した。すぐに左手を腰の後ろにまわす。背中の小さなケースに入っているマガジンを取り出し装着する。エーテル鋼弾とは弾丸の先端に二重にエーテルをコーティングした銃弾だ。貫通力が高くなるがエーテル反応の影響を受けやすく扱いが難しい。
両足を軽く開き左足を前にだし、スナイパーライフルを構える。
「シンシアさん。重射撃モードに移行してください」
「ワカリマシタ」
未結の声に反応するシンシア、パワードスーツのふくらはぎの横の装甲と背後の開き、中から金属の脚が出てきた。出て来た金属の足により、機動力はなくなるが反動を押さえることができ、立ったままの姿勢で正確に射撃が可能になる。
「おい! こっちだ!!!」
「おいでー!」
両手をあげ激しく振るレイ、甘菜はモーニングスターをタワーシールドから外し地面をたたく。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レイ達を見つけたアークデーモンが声をあげ走り出す。レイと甘菜はアークデーモンに背中を向け走り出し、未結に向かって手を振った。未結は二人に向かって小さくうなずいた。
「ここなら…… 貫け!!!!!!!!!!!!!!」
未結は引き金を引いた。けたたましい声が資材置き場に響き、銃身から発せられた激しい衝撃が彼女の全身を駆け巡って通り過ぎていく。銃声の後、アークデーモンが顔をのけぞらせて止まった。
「やったのか…… えっ!?」
ふらついたアークデーモンが倒れそうだったが、踏ん張ってゆっくりと顔をあげた。振り向いたレイと甘菜っ葉にアークデーモンの顔が見えて来る。未結の銃弾はアークデーモンの左目に直撃し大きな穴が開き紫色の血が流れていた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
耳を着裂くような激しい声をあげたアークデーモン。顔を歪めながらアークデーモンは左手を自分の左目に突っ込んだ。ぐちゃぐちゃという嫌な音が漏れた後、アークデーモンは左目から手を抜いた。
抜かれた手から地面に銃弾が転がった。
「ねえ…… あの光って…… さっきの」
「はっ!?」
甘菜がアークデーモンの銃弾が貫かれた瞳の奥が七色に光っていた。その光はどんどんと大きくなっているように見えた。不気味に大きくなっていく光を三人はぼうぜんと見つめていた。
「時間だ! 全員! 退避しろ!!」
ヤマさんの声が響いた。ディスプレイの端に見えていたタイマーがゼロになる。直後に、資材置き場を強烈な光が照らし目の前が真っ白になりその場にいた全員が視界を失った。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」
「レイ!? みんな!? どうした!?」
光りに包まれたレイ、未結、甘菜が同時に叫び声をあげる。ヤマさんが声をかけるが返事はない。やがて光がおさまり視界が回復する。
「クソ!!!! みっみんな!? どこへ」
視界が回復したヤマさんの目の前にはアークデーモンも三人もいなかった。戦闘により破壊され物と死体が転がるだけの静かな資材置き場があるだけだった。
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