第13話 実は飲めるんです
振り下ろされる途中で、レイの太刀からレッサーデーモンの死体が、抜けて飛んでいく。死体は近くに居たレッサーデーモンに覆いかぶさるようにしてぶつかり押し倒す。レイは駆け出し右腕をかかげ太刀を逆手に持ち替えた。倒れたレッサーデーモンに近づいたレイ、左足で死体を踏んづけ押さえつけ太刀を下に振り下ろした。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
激しい声が響く。振り下ろされた太刀は、レッサーデーモンの二体を貫いた。剣を引き抜こうと左足をさらに力強く押したレイの視線が横に向けられた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
声をあげ一体のレッサーデーモンが背後から襲い掛かった。振りかざしたレッサーデーモンの右手の爪が十数センチに伸びる。
「姉ちゃん! よろしく!」
「はーい」
レッサーデーモンの横から、右手を振りかざし頭上で、モーニングスターを回転させ甘菜が飛んで来た。甘菜が操るマジカルフレーム2は強度な装甲で重量があるが、出力が強化されており、ふくらはぎの装甲の後部と肩にスラスターをつけており、短距離であればホバリングのようにして移動できる。回転する鉄球の下部のスラスターからは火が噴き出て回転の速度が上がっていった。
「フン!!!」
鼻で大きく息を吐きだしながら、甘菜はモーニングスターをレッサーデーモンの頭上からたたきつけた。とげとげのついたレッサーデーモンは押しつぶされ、頭部はトマトをつぶしたように破裂する。鉄球はレッサーデーモンを押しつぶしながら、真っ二つに切り裂いた。左右に分かれてレッサーデーモンだった肉片が倒れる。
「姉ちゃん! 左!!」
甘菜の左からレッサーデーモンが飛び掛かって来た。レッサーデーモンは両手の爪を伸ばし振りかざし甘菜に切りかかってきた。
「ハッ!!!」
「うがああ!?」
素早く左腕を曲げ自分の体に、タワーシールドを引き付けた甘菜、そのまま前に出てレッサーデーモンに体当たりをする。前に出て来た甘菜にレッサーデーモンは、不意をつかれ対応できずに体ごと吹き飛ばされたしまった。レッサーデーモンはバランスを崩して尻もちをついた。
「お願い! レイ君!」
「あいよ!!」
さっと体を横にして道を開けた甘菜、彼女が開けた場所を駆け抜けていく。レイは両手で持った太刀を体の横に引き間合いをはかりレッサーデーモンの首を狙い斬りつけた。振りぬかれた太刀は空気を切り裂き音を立てる。レイの両手にやや重い感触が伝わった後、レッサーデーモンの頭部が彼の足元に転がった。
「さすが従姉弟ですね。初めてなのにあんなに連携が取れるなんて……」
二人の呼吸のあった連携に感心する未結だった。ヤマさんも同様なのか大きくうなずく。
「だな。こっちも負けてられないぞ」
「はい」
笑顔で返事をした未結はスナイパーライフルを構えるのだった。
十数分後…… 地上に下りた。二十頭のガルフと二十体の、レッサーデーモンは特務第十小隊により駆逐された。
「これで最後…… よっと!」
血を流し倒れていたレッサーデーモンの背中に太刀を突き刺した。レッサーデーモンはすでに死んでいようで体すこしのけぞり叫び声もあげない。レイはきちんとレッサーデーモンが、死んでいるのか確認をしていたのだ。
「姉ちゃん!? そっちは終わった」
「うん。大丈夫。二度と起きないように叩き潰しといたよ!!」
「はは……」
レッサーデーモンの紫の血とガルフの真っ赤な血がまじりあった、鉄球を引きずりながらレイに近づき甘菜が自信満々に答える。レイの横まで来た彼女はみあ空を見上げる。
「いつの間にか…… 光の輪は消えちゃったね」
「えっ!? あっ本当だ……」
甘菜と同じようにレイは空を見上げた。戦闘で気づかなかったが、空は美波によって作られた光の輪がなくなり、通常の雨雲が広がる空に戻っていた。
「多分…… 美波さんや信者の人たちの気持ちにエーテルが反応したんだと思います」
二人の会話を聞いていた未結から通信が入った。
「でも…… 悟君だよね? エーテルを持ってたの…… 彼女や信者さんの死体にエーテルはなかったよ」
首をかしげながら甘菜は、視線を倒れているユースレスアンブレラの信者に向ける。彼女の言う通りで、ユースレスアンブレラの信者や美波は、悟と違いエーテルを所持してなかった。ちなみに信者達は全部で二十名ほどいたが生き残ったはわずかに三人だけだった。
「体の中に直接エーテルを取り込んだんだろう。しかも相当の量を……」
「口径接種ですか……」
ヤマさんが会話に入って来て未結が答える。二人の会話を言葉を聞いた甘菜が思わず声をあげる。
「えっ!? エーテルって食べられるんですか?」
「あぁ。杏ちゃんも言ってたろ。薬として開発されてたって…… だから飲み込んでも問題はないはず」
「そうか」
甘菜はレイの言葉を聞いて納得したようにうなずく。しかし、すぐに未結の訂正が入る。
「レイさん。少し違います。口からの少量の接種なら人体に影響はないことが確認されているだけです。多量に摂取した場合は中毒になる危険性があります。それに継続的な摂取についてはサンプルが少なくわかりません」
「だな。ちゃんと勉強しろよ。レイ!」
「うっ…… すっすいません…… うん!?」
気まずそうに左手を後頭部に持っていき、頭をかくようなしぐさをしたレイ、甘菜は三人の会話を聞きながら黙って立って居た。レイは甘菜の背後に近づき軽く背中を叩いて声をかける。
「姉ちゃん…… 今エーテルが美味しいか想像してただろ?」
「なっ!? なんで分かるの?」
「相変わらず食い意地が張ってるな」
「だって…… 気になるじゃん…… 美味しかったら食べたいし……」
恥ずかしそうに答える甘菜だった。レイは嬉しそうに笑う。二人の会話を聞いていた、ヤマさんは首を横に振って、未結は微笑むのだった。
「はぁ。もういい。そろそろ加菜に連絡を……」
ヤマさんは呆れながら、基地に戻る手配を始めようとした。だが……
「えっ!? レイ君……」
「なんだこれ!?」
レイと甘菜の足元が急に明るくなった。上空から強烈な光が二人を照らしていたのだ。二人はほぼ同時に空を見上げる。そこには消滅したはずの虹色に光る輪が浮かんでいた。輪は先ほどより光は強いが、小さく中は真っ暗で見えなかった。
少し遅れてヤマさんは、自分の周囲が照らされていることに気付く。
「なんだこの光は?」
「光の輪です。また上空に現れました」
「なんだと!?」
ヤマさんとレイの会話に、甘菜が割り込んで来る。
「レッレイ君…… あれ…… ゆっ指が……」
「指!?」
振り向いて再び空に浮かぶ光の輪に視線を向けるレイだった。そこには小さな光の輪から、長く白い爪が生えた真っ赤な二本の指が飛び出していた。第二関節まで飛び出た指は、穴を広げるようとして左右に動く。指の動きに合わせ穴は広がっていき輪の中から出て来る指が三本、四本と増えていく。
「新しいレインデビルズが穴を広げようとしています」
「なに!? 如月! 狙えるか?」
「やってみます」
未結は膝をついてスナイパーライフルを構えた。彼女の目が青く光り照準を空に向ける。
「嘘でしょ……」
驚いて目を見開き声をあげる未結、千里眼により彼女の目に穴を広げようとする、レインデビルズの姿が見えていた。レッサーデーモンと同じようなこうもりのような翼を背中に生やした、赤い体色で高さ八メートルほどの筋骨隆々の人型の魔物だ。大きな口に下あごから牙を生やし、目は大きくぎょろっとして瞳は赤く光り、体毛のない頭には二本の山羊のような丸い角が生えている。魔物は上半身は裸で下半身は、金属のブーツに黒いズボンの上に銀色の膝当てとすね当てを装備し、右手には真っ黒な長い柄を持つ青龍刀を持っている。
未結の様子にヤマさんが声をかける。
「どうした?」
「アっ…… アークデーモンです…… あの穴から出ようとしてるのはアークデーモンです!」
「なんだと…… あの穴は…… 旧県庁につながってるのか…… クソ!」
悔しそうに左拳をヤマさんが強く握った。すぐに彼は全員に指示をだす。
「如月! 至急本部へ連絡して増援を呼べ!」
「わかりました」
「レイ! 甘菜さん! 這い出ようとしているのはアークデーモンだ! 下がれ! 一時撤退して増援と合流する」
左手であげ前後に動かし、ヤマさんは前に出た二人に戻れと合図をする。
「でも、俺たちが防がないと……」
「房総半島を支配しているレインデビルズだぞ。四人で勝てるわけない。いいから下がるんだ」
ヤマさんはやや声を荒げ、ちゅうちょするレイに強引に指示を聞かせようとする。魔の巣から地上へと侵入した、レインデビルズは、全員で協力して地球を支配しているのではなく、いくつかの勢力に分かれ争っている。
光の輪から出ようとしているアークデーモンは、十年前に千葉県庁上空に現れた魔の巣から地上へと下り、勢力争いを制し房総半島全域を勢力下に置いていた。アークデーモンはいわば現代における房総半島の王だ。
「わかりました…… えっ!? うわああああああああああああああああ!!!!」
「キャアアアア!!!」
「レイ!!! 甘菜さん!!!!!」
断末魔のような声をあげるレイと甘菜。彼らに視線を向けていたヤマさんに見えたのは、上空の光の輪の周りに一直線に光の輪が現れ爆発が起こり、その爆風にレイと甘菜が巻き込まれる光景だった。
黒煙がヤマさんと未結の周りに充満し、視界が真っ黒に変わっていく。
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