第12話 偽りの聖獣
地面にうち捨てられた美波、目がかすみまぶたが重くなる。きしむように痛みが、彼女の全身を包みうごけなくなっていた。目の前に置かれた悟の腕と、自分に冷たい紫の雨がうちつけていく。彼女の目から自然と涙がこぼれ、悔しさと悲しさが入り混じったような感情が頭をめぐっていく。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
最後の力を絞り出すように、美波の泣き叫ぶ声が資材置き場に響いた。
「なんだよ…… あれ…… 聖獣なんかじゃない! 逃げろ!!!」
「うわああああああああああああ!!!」
ユースレスアンブレラの信者達は、泣き叫ぶ美波の姿を見て自分達の過ちに気付いた。だが、もうすでに遅く、彼らの運命は引き返せない。紫の雨に混じって降り注ぐレッサーデーモンとガルフ。その数は双方とも二十を超えていた。レッサーデーモンは空を飛びガルフは地上を駆け、舞台の周囲にいたユースレスアンブレラの信者達に襲い掛かる。
「キャッ!?」
逃げ出した信者の女性の背後からレッサーデーモンが飛び掛かった。二メートル近い巨体に覆いかぶされたこけた女性。レッサーデーモンは、女性の肩をつかんで仰向けにする、服に手をかける。
「いや!? やめて!!!」
女性は服を引きちぎられあっという間に裸にされた。レッサーデーモンは腰巻をずらし、いきりたった下半身を彼女にうつつける。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レッサーデーモンの化身が下半身へと侵入し女性は泣き叫ぶ。周りに信者達はいるが助けるすべはない。
「クックソ!!!」
近くに居た男性信者の一人が女性を襲う、レッサーデーモンに向けサブマシンガンを向けた。しかし、彼の背後には別のレッサーデーモンが空から迫っていた。
「うわあああああああああああああ!!!!」
背後から迫って来たレッサーデーモンは、左手で男性信者の頭をつかんで空へと連れ去った。
「クソ!!! クソーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
必死に銃を撃つやみくもに撃つ男性信者。銃声が響き何発の銃弾はレッサーデーモンに当たる。迷惑そうな顔をしてレッサーデーモンは男性信者がサブマシンガンを持つ右腕につかんむ。レッサーデーモンは軽く男性の腕を引っ張った。男性信者に激痛が走り、メリメリと言う音が耳に届く。
「やめろーーー!!! やめろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
レッサーデーモンは男性信者の腕を引きちぎった。血が吹き出し雨に混じって地面へと落下する。引きちぎった腕を見て笑ったレッサーデーモンはガルフがたむろう場所へ右腕を投げた。落ちて来た餌にガルフが群がる。続いて男性信者の体をガルフの元へと投げ込む。
「ぎゃふ!? ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ガルフは男性信者の体に次々にかぶりついた。地獄のような光景が資材置き場で広がっていく。
女性はレッサーデーモンにつかまり裸にされ強姦され、男はつかまり体を引きちぎられガルフの餌にされていく。
泣き叫ぶ信者達の声が響くなか、最初に地上に落ちてきたレッサーデーモンが美波の元へと向かう。泣く力も失い呆然と目の前に転がる、悟の腕を見つめる美波だった。
「グフ!!!」
レッサーデーモンは足で美波を踏みつぶした。彼女の体はレッサーデーモンの足と地面によって押しつぶされた。圧力によって体はつぶれ、目と口から口から血が飛び出した。美波は絶命したがレッサーデーモンは何度も足を振り下ろしていた。
「人を踏みつぶして笑ってる……」
美波を踏みつぶすレッサーデーモンは笑顔で嬉しそうだった。凄惨な光景を見て思わず甘菜が声をあげる。横に居るレイは踏みつぶされる美波を見ながら淡々と答える。
「あいつらは俺達を見下して殺すだけだ。聖獣なんかじゃない」
「うん…… レイ君…… ごめんね」
「えっ!?」
急に謝罪する甘菜に驚くレイだった。直後……
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
雨音を切り裂く爆音が資材置き場に響く、舞台の手前で信者の体をむさぼっていたガルフ二匹の頭が吹き飛び、その奥にいた美波を踏みつけていた、レッサーデーモンの足が吹き飛ぶ。レッサーデーモンは倒れ足を押さえ転げまわる。
鉄筋の上に膝をつき、銃口から煙をあげるスナイパーライフルを構えた、未結が静かにうなずく。
「よし。いいぞ如月! 次は左に固まっているガルフを狙え」
「はっはい」
「僕は上空にいるレッサーデーモンを撃ち落とす。レイ、甘菜さんはこっちに近づくやつを排除しろ」
「「了解です」」
未結のスナイパーライフルが二発目の銃声を轟かせる。舞台の左手に居た、ガルフの体が半分に引きちぎられる。さらに銃声が轟く。
「町の外へとはいかせん」
右手に持ったアサルトライフルを斜め上に向けたヤマさんは、空を飛んでいたレッサーデーモンに向けて発砲した。二体のレッサーデーモンが翼を撃ちぬかれ地面に落ちた。飛んでいた十体くらいのレッサーデーモンは、不規則に動きながら地上へと下り舞台の前に並んで立った。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レッサーデーモンが十五体の舞台の前に並んで右手を四人に向けた。レッサーデーモンの赤く光り出し、周囲の空気が渦巻いて集約していく。
「ファイアボールだ!!!! 速射して片付けろ!」
「ダメです! 間に合いません!」
並んだレッサーデーモンの右手から直径一メートルはあろうかという大きな火の玉が飛び出した。うねりをあげながら四人へと一斉にむかっていくる。
この火の玉はファイアボールという魔法だ。灼熱の火の玉は戦車の装甲をも簡単に溶かして破壊する。
「衝撃に備えろ!!」
ヤマさんの叫び声が聞こえる。レイはそっと左手を甘菜の肩に伸ばし前に押し出す。甘菜はレイに向かって小さくうなずいた。
「大丈夫です!! 私が止めます」
走って前に出た甘菜は、左手に持っていたタワーシールドを地面へとおく。ファイアボールは速度を増して迫って来る。タワーシールドから光が漏れ彼女を顔を赤く照らしていく。
「お願い…… みんなを守って!!!!」
青白い光がタワーシールドを包むと周囲を明るく照らす。地面につけられたタワーシールドから左右に青い光が伸びた。青い光は空に向かって伸びていき高さ十メートルを超える光の壁となった。
「「「「「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
爆音が資材置き場に響く。光の壁へと激突したファイアボールが爆発したのだ。黒煙が充満し衝撃で地面がゆれ爆風が資材置き場を吹き抜けていく置かれていた鉄筋や鉄板が爆風によって飛び交う。レッサーデーモンは爆風に吹き飛ばされない踏ん張っていた。周囲に立ち込めていた黒煙が徐々におさまっていく。レッサーデーモンは期待したような表情でレイ達を見つめていた。
「「「「「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!??」」」」」
目を大きく見開いてレッサーデーモンが声をあげる。彼らの前には、光の青い白い光の壁に守られ無傷のレイ達だった。
「プラズマシールドか……」
目の前にある光の壁にヤマさんがつぶやく。光の壁は甘菜の特殊能力プラズマシールドだった。顔を動かし後ろを向いて三人の無事を確認した甘菜はほほ笑みタワーシールドを地面から離す。光の壁は下から光の粒となって消えていく。
「キシャアアアアアアアアアアア」
叫び声を上げながら一体のレッサーデーモンが飛び上がった。怖気づいてのかレッサーデーモンは、レイ達に背を向け飛び去ろうとしている。甘菜は反応しすぐに前を向く。
「未結ちゃん! 上だよ」
「はっはい!」
返事をした未結が銃口を上に向け、飛び立ったレッサーデーモンに照準を合わせ引き金をひく。銃声が轟き放たれた銃弾はレッサーデーモンの後頭部に直撃した。銃弾はレッサーデーモンの頭を貫き、頭部を吹き飛ばした。破裂した頭部と骨は花火のように周囲に巻かれて地面へと降り注いだ。
地面に頭が吹き飛ばされたレッサーデーモンが叩きつけられる。甘菜は右手に持っていたモーニングスターに力を込め体の横で回転させる。モーニングスターが回転する風を切る音が資材置き場に轟く。
「みんなはもうここから出れないの。私たちの町に一歩だって入れさせないんだから!!!」
甘菜がレッサーデーモンに向かって叫ぶ。レッサーデーモンは彼女の気迫に圧倒されていた。
「ヤマさん! 俺と姉ちゃんで突撃して相手を駆逐します」
「わかった。如月の護衛は任せろ」
敵の様子を見たレイがヤマさんに声をかけた。ヤマさんはすぐに彼の提案を了承した。
「行くよ! 姉ちゃん!」
駆け出したレイは甘菜を追い越していく。
「あぁ!? レイくーん! 待ってよーー!」
甘菜は慌ててレイの背中をおいかけ駆け出した。迫りくるレイ達に一体のレッサーデーモンが再び手を向け再びファイアボールを放った。
「遅い!」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レイの体が消えた。レイが居た場所をファイアボールが通り過ぎ、甘菜は飛んで来たファイアボールをタワーシールドで防いだ。甘菜のタワーシールドに当たったファイアボールは弾き返された。弾き返されたファイアボールは戻って行ってレッサーデーモンに当たった。自分のファイアボールにレッサーデーモンは焼かれた。
「キシャ!?!??!?」
真っ黒になって倒れるレッサーデーモン。黒焦げのレッサーデーモンを見た他のレッサーデーモンは、弾き返されたファイアボールに信じられないという顔をするレッサーデーモンだった。しかし、これだけでは終わらなかった。
瞬間移動で並んで立っているレッサーデーモン達の背後に移動していたレイは、腰を落とし両手で持った太刀に力を込め、その切っ先を目の前に立つ魔物の背中に向けた。
「さようならだ」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
一歩前に踏み込んだレイは力強く太刀を突き出した。断末魔が響く、太刀はいとも簡単にレッサーデーモンの体を貫いた。レッサーデーモンは胸をのけぞらせ、太刀が胸から突き出ている。紫色の血が太刀の刀身をつたって地面へとポタポタと落ちていく。
「まだ終わりじゃないぞ」
レッサーデーモンデーモンが突き刺さった太刀をレイは持ち上げた。レッサーデーモンの足が地面から浮かび上がっていく。レイは横を向き持っていた太刀を振りかぶりそのまま勢いよく振り下ろすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます