第2話 廃寺に潜む闇

 山の上に大きな寺がある。周囲に広がる森は、人間の手から離れて久しくうっそうとし。ひっそりとたたずむ山門のむこうには、草が生え荒れた石畳みの参道の少し先に、屋根が崩れた本堂が静かにたっていた。

 屋根が崩れた本堂に夕日が差し込み、腐りかけた畳を赤く照らす。その畳の上にジャージ姿の女性と少女が寄り添うようにして立って居た。


「返しなさい!」


 目の前に向かって叫ぶ黒いジャージの女性。怯えた様子の少女は緑のジャージを着て、女性にしがみつくようにして目をつむった。

 女性は黒くやや長い髪を後ろで結んだポニーテールで、すっとした顎に大きな目に黒い瞳の凛々しく綺麗な女性だ。彼女の名前は根岸陽菜乃ねぎしひなの、二十六歳の高校教師だ。

 彼女の数メートル前で、拳銃を天井に向けている男がいる。彼の後ろには眼鏡をかけ小太りの男が立っている。拳銃を持つ男性と小太りの男、陽菜乃にしがみつく少女は同じ色のジャージを着ていた。

 陽菜乃と三人は教師と生徒の関係で、四人はレイ達が探している要救助者だ。四人は本堂の中央付近に立って居た。


「いい加減にしなさい。今はこんなことをしてる場合ではないでしょ!!」


 強い口調で手を伸ばし毅然とした態度で、陽菜乃は男性生徒に拳銃を返すように要求する。


「ふん。俺を守る立場のくせに拳銃から手を離してるからだろ。だから代わりを俺がしてやってるんだ」


 陽菜乃を馬鹿にしたように鼻で笑い、男子生徒は引き金に手をかけた。男子生徒が持っている銃は教師である陽菜乃に支給された護身用の物だ。彼は寺に避難をしてきて隙をついて陽菜乃から銃を奪ったようだ。


「これを撃ったらどうなるか分かるだろ? 銃声を聞いた怪物がここになだれ込んで来る。そしたら丸腰のお前たちはおしまいだ」


 にやにやと笑いながら男子生徒は銃口を陽菜乃に向けた。男子生徒は背が高く、茶色の肩につくほどの長めの髪にぱっちりとした目に長い鼻をした、端正な顔立ちをしている。彼の名前は桜木ルイさくらぎるいという。


「ふふふ。わかっただろ? だったら……」


 ルイはニヤリと笑ってと女子生徒と陽菜乃を交互に見た。寺の内部は静かで、囲む森の木が揺れわずかに葉のすれる音が耳に届く。


「脱げよ」

「はっ!?」

「ジャージを脱いで俺に銃を返してくださいって言え!」


 片手に持った銃を左右に揺らし、銃口を陽菜乃と女子生徒に向けるルイ。


「何を言ってるかわかってるの? ふざけてる場合じゃないのよ?」


 真顔で注意する陽菜乃。しかし、ルイを見つめる彼女の眼差しは冷たく、非常時に非常識な要求をするルイへの軽蔑が多分に含んでいた。


「うるせええ!! さっさと脱げ」


 ルイは陽菜乃が自分を軽蔑しているのに即座に気付き不機嫌そうに声を荒げる。ルイは二人を睨み拳銃を振りかざしている。彼の様子におびえた女子生徒が陽菜乃のジャージの裾を強く握った。陽菜乃は怯える女子生徒に視線を向け口を開いた。


「わかった。脱ぐわ! だから銃を下して」

「先生!?」


 ルイに声をかけた陽菜乃は、右手を前に出し上下に振り銃を下すように頼む。

 女子生徒をかばうように前に出た陽菜乃は、ルイに見せるようにジャージのファスナーに手をかける。彼女の目には涙でうるみすぐ後ろで女子生徒は怯えて震えている。

 ルイは怯える女子生徒と泣きそうな陽菜乃を見つめ満足そうにしている。ルイは極限で追い詰められてこのような横暴をしているのではない。彼にとってこれはゲームで、救助が来るまでの暇つぶしなのだ。

 陽菜乃は女子生徒の顔を向けほほ笑む。


「大丈夫よ。橋本さん。すぐに救助が来るわ。あなたは離れてなさい」

「はっはい……」


 女子生徒はゆっくりと後ずさりして離れようとした。二人のやり取りを聞いていたルイは、銃口を女子生徒に向けた。


「おい! どこへ行くんだよ橋本! お前も脱ぐんだよ!!」

「なっ!? おっお願い。彼女には何もしないで!」


 陽菜乃は女子生徒を守ろうと、ルイに懇願するが彼は不機嫌そうに彼女を睨みつける。


「嫌だね。おい! さっさと脱げ! 撃つぞ」


 ルイは引き金に指をかけ銃口を女子生徒に向けた。


「先生…… 私、大丈夫だから」

「ごっごめんなさい…… 橋本さん……」


 陽菜乃と女子生徒は離れ横に並びジャージを脱ぎ始めた。

 ジャージのズボンを下した陽菜乃、黒のストッキングにピンクの下着が透けて見える下半身が露出する。続いて上着を脱ぐ、少し大きな胸を包むピンク色のブラが露出する。隣で女子生徒は薄い青と白の水玉模様の下着姿に変わっていた。


「ヒュー」


 ルイは唇を尖らせ口笛を吹き、満足そうに小刻みにうなずく。


「おい! オタク!」

「ひぃ!!!」


 下着姿になった二人をルイは満足そうに眺めていたルイが、急に振り向いてすぐ近くに居た小太りの男子生徒を呼んだ。


「どっちがいい? 一人はババアだけどな」


 ニヤニヤしながら、ルイは小太りの男子生徒に近づき肩を抱き小声で話を始める。


「えっ!? どっちって」

「うるせええ!!! 早く答えろ!!! どっちとやりてえんだよ?」

「うっうーんと……」


 男子生徒は肩を組まれたまま視線を二人に向ける。


「えっ…… あっあ……」


 視線を左右に動かし二人を見た。思春期男子に刺激が強いのか、あっという間に彼の股間はぱんぱんに膨れ上がっていく。


「橋本さん……」

「はっ!? ざけんな!!!!」


 女子生徒を指名した小太りの男子生徒を怒鳴りつけるルイ。彼の狙いは最初から小太りの男子生徒に選択権などのなかったのだ。


「ひぃぃぃ!!! 根岸先生で!!!」


 怯えながら小太りの男子生徒はルイに答えを訂正する。ルイは彼の小谷満足しうなずく。


「なんだよ。お前…… 年増好きかよ。変わってんな。いいぜ好きにして来いよ!」

「えっ!? でも! さっきオークが来るって……」

「うるせえな。大丈夫だよ。誰も来るわけねえだろこんなとこによ。それに来たらみんな死ぬんだ。だったら楽しもうぜ」


 拳銃のグリップを握る右手の親指を立て外を指すルイ。根拠のない言葉ではあるが、自信満々な彼の言葉を小太りの男子生徒は信じてしまう。


「ほら行くぞ」

「うっうん」


 うなずいた小太りの男子生徒、彼とルイは肩を組んだまま並んで歩き二人の前に歩いて行く。陽菜乃はストッキングを脱ぎ、女子生徒は恥ずかしそうに下着姿のまま立って居た。二人の前に来たルイは小太りの男子生徒の肩から手をはなした。


「せんせー! 中山君がムラムラしたってさ。相手してやってよ」

「えっ!? ぼっ僕は」

「いいからいけよ!」

「うわぁ!!」


 ルイはにやにやと笑って小太り男子生徒の背中を押す。陽菜乃の前に押し出された小太りの男子生徒は気まずく視線を陽菜乃からそらす。ルイは抵抗しないように、銃口を彼女に向けていた。


「おい。そこ邪魔だからこっちに来な」

「お願い! 桜木君! やめて!!! やめなさい!!!」

「黙れ!」


 ルイは女子生徒に近づき左手で彼女の腕をつかんで自分の元へと強引に引き寄せる。ルイは女子生徒の肩に手をまわし右手に持った拳銃を彼女の頬に突きつける。


「中山君! いいの? 彼の言いなりで……」


 陽菜乃は目の前に立つ、小太りの男子生徒に声をかける。おどおどした彼は頬を赤くし困った顔をする。


「おい! オタク! さっさと犯せ! こいつ生意気だからな! わからせてやれ」

「でっでも……」


 ちゅうちょする小太りの男子生徒、ルイは笑って左手を女子生徒の胸を滑らせて下していく。


「じゃあ俺が先にこいつをやっちまうぞ」

「やっ! いたい!」


 ルイは女子生徒の下着の中に手を突っ込み、胸を強くわしづかみする。女子生徒が思わず声をあげ顔を歪める。


「わっわかったわ。ほら…… おいで中山君」

「ひぃ…… 先生!!!!!」


 両手を広げて小太りの男子生徒に微笑む陽菜乃、小太りの男子生徒は声をあげ、いきなり彼女に抱き着き押し倒した。小太りの男子生徒は陽菜乃の胸を強くつかみ硬くなった股間を下着の上から擦り付ける。


「キャッ!? ちょっと中山君? もっと優しく! へたくそね!」

「なっ!!!!」


 陽菜乃が言葉に小太りの男子生徒の顔を変わる。彼は眉間にシワを寄せ怒りに満ちた表情へと変わっていく。


「ぶひいいいいいいいいいいいいい!!! てめえ! 大人しくしろ!!!」

「キャッ!!」


 体を起こし陽菜乃の腹の上に乗っかり、奇声をあげる小太りの男子生徒、彼は平手で彼女の頬を叩いた。パチンという乾いた音が響く。叩かれた陽菜乃の頬は赤く腫れ目に涙を溜めていく。小太りの男子生徒は普段は大人しく暴力的なことは一切しない。だが、叩かれた陽菜乃の姿を見た、小太りの男子生徒に今まで経験したことのない感情が沸き上がっていく。異性を強引に支配したという一種の興奮のような物を覚えたのだ。


「なんだその目は!!!」


 叫びながら何度も陽菜乃を叩く小太りの男子生徒、興奮した彼の股間は硬く大きくなっていく。


「おぉ! やるじゃねえか。そうだ! 女なんて黙って言うことを聞いてりゃいいんだよ!! 下らねえ石拾いなんか俺達にさせやがって!!」


 ルイは小太りの男子生徒が、陽菜乃を叩くを見て嬉しそうに笑っている。

 大人しかった小太りの男子生徒の変わりように、驚くと同時に叩かれた恐怖で陽菜乃は静かになった。男子生徒は大人しくなった陽菜乃の胸に顔をうずめ舌をだして舐め始めた。気色がわるい小太りの男子生徒の舌が、自分の胸をはう感覚に陽菜乃は声をあげてしまう。


「いっいや……」

「おとなしくしろって言っただろ!」

「キャッ!」


 胸から顔を離し体を起こした小太りの男子生徒が、また陽菜乃を叩く。


「お前たちは僕たちのおもちゃだ! 大人しく……」

「ヒッ!」


 目の前で小太りの男子生徒の顔は一瞬で横につぶれてそのまま吹き飛ばされた。目の前には白い背骨が見える真っ赤な肉片とジャージの肩の部分だけだ。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 雄たけびが聞こえる。陽菜乃の目の前には、頭がなくなった小太りの男子生徒の奥に、棍棒を持ったオークが立っている姿が見えた。灯りは日差しが照らすだけで、屋根が崩れた本堂の中央以外は薄暗くなっており、なおかつ興奮状態だった四人はオークの接近に気付かなった。

オークは倒れそうに男子生徒の腕をつかみ、自分に引き寄せると、頭を投げすて肩のあたりの肉をかみちぎった。


「ベエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!! うがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 顔をしかめたオークは、食いちぎった肉を吐き出して雄たけびを上げた。どうやら、小太りの男子生徒の味がお気に召さなかったようだ。


「うそ…… うそよ……」


 倒れたままオークが自分の生徒を食いちぎる、姿を見て震えた声をあげる陽菜乃だった。彼女の股間がじんわりと濡れあつくなり、彼女のまたから漏れた液体が腐りかけた畳の上へとたまっていく。あまりの恐怖で陽菜乃は小便を漏らしてしまっていた。


「なっなんだよ! これ!」

「キャッ!」


 ルイは叫びながら、女子生徒を投げ捨てるようにして逃げだした。本堂を囲む縁へと飛び出して姿が見えななる。


「待って!!! 桜木君! あなたが……」


 護身用の拳銃を持ったまま、ルイは逃げてしまった。オークの視線が女子生徒へと向けられた。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 雄たけびを上げ、ゆっくりと体の向きを変えたオークは、女子生徒へと向かって歩き出した。オークが持つ木製の棍棒から滴る、小太りの男子生徒の血が畳の上に点々と女子生徒へと向かって行く。ルイに投げ捨てられた女子生徒は、腰が抜け恐怖で顔を引きつらせオークを見つめている。


「ダメ!!!!」


 我に返った陽菜乃はオークの腰にしがみついた。迷惑そうな顔をしオークは陽菜乃に視線を向け、彼女が腰に回した手をつかみ簡単に振りほどく。


「キャッ!」

「先生!」


 オークは左手一本で陽菜乃の両手をつかんで強引に腕を上に向かせる。両手を上にされたまま陽菜乃の体は浮かび上がっていく。足がつかなくなった陽菜乃、オークは品定めをするようにじっくりと彼女の体を上から下まで見つめている。オークの体に巻いた革の腰巻の下にある物体が大きく膨らんでいく。


「橋本さん! あなたは早く逃げなさい!」

「でっでも……」

「行きなさい! 早く!!!」


 必死に叫ぶ陽菜乃。女子生徒は目をそらし陽菜乃に背中を向けた。安堵の表情を浮かべる陽菜乃だった。オークは陽菜乃の顔を自分の顔の前に持ってきていやらしく笑う。

 陽菜乃はこれから自分の身に起こることを覚悟した。生徒に強姦されそうになり、今度は魔物に強姦される自分にむなしくなり目に涙がたまっていく。だが、その直後……


「ウゲエエエエ!!!」


 目の前で今度はオークの顔が縦に裂けた。血が吹き出し陽菜乃の顔に、点々と生暖かく赤黒い血が数的振りかかる。ものすごい速さでオークの顔から、太刀が飛び出して陽菜乃の目の前で止まった。


「えっ!?」


 目を大きく見開き瞳を中央に寄せ陽菜乃は目の前に突き出された太刀を見つめる。彼女の太ももをまた熱い液体が伝って床へと流れていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る