モンスターによって滅んだ地球では、銃と魔法とパワードスーツが活躍する。

@chibidao1

第1話 出動せよ。血塗られた傘

 ロッカーが並ぶ、とある高校の玄関。午後になり日が傾き、ガラス扉の向こうから、わずかに日差しが差し込んでいた。

 足元は黒のスニーカーを履き、詰え襟の学生服いわゆる学ランに身を包んだ、一人の男子生徒が、扉の開いたロッカーの前に立って居る。彼は身長百七十五センチくらいで、少しがっしりとしていた。

 扉の開いたロッカーは、男子生徒が使用しているもので、性格を表すかのように、教科書などが乱雑に置かれゴチャゴチャしている。しかし、ロッカー下部の一画だけはしっかり整理され、そこには鍵のかかる小さなケースが置かれていた。


「ふぅ」


 男子生徒は静かに息を吐きケースに左手を近づけるとカチッと音がして鍵が開く。彼はそのまま近づけた左手の指ではじくようにケースを開けた。中には長方形の黒い物体が置かれていた。

 男子生徒の瞳に金色の銃弾が収められた、黒く光るマガジンが横たわる姿が映る。ケースの中に置かれていた拳銃のマガジンだった。

 男子生徒はそっと腰に右手を回した。彼の腰のベルトにはホルスターが固定され、そこには黒く光る自動式の拳銃が見える。右手一つでホルスターから拳銃を抜いてマガジンを左手に持つ。


「よし……」


 男子生徒は小さくうなずくと慣れた様子で、拳銃にセットし安全装置を確認し腰のホルスターに戻す。


「レイくーん。準備できたー?」


 おっとりとした女性の声がロッカーの向こうから聞こえる。ロッカーは全生徒分が、二列ずつ背中に合わせに置かれ、それが十列並んでいる。男子生徒がいるロッカーの向こう側に女子生徒がいて声をかけてきたようだ。

 男子生徒は越声に反応し視線を上に向けた。彼が視線を上に向ける。男子生徒は青く輝く短い黒髪に鼻は高く目がやや細いどこにでも居そうな特徴のない顔をしていた。

 彼の名前は温守冷夜ぬくもりれいや、十六歳の高校生。学業の傍ら番傘衆という民間軍事会社に兵士として雇われている。親しい人は彼のことはレイと呼ぶ。


「あぁ。そっちは?」


 レイはロッカーに向かって返事をすると、ロッカーの脇から女子生徒が飛び出してきた。彼女は赤いリボンのセーラー服に、足は黒タイツに包まれ、足元はレイ色違いの青のスニーカーを履いていた。


「私もできてるよ」


 くるりと回転する女子生徒のスカートがふわりと浮かび、右足のタイツにベルトが巻かれ拳銃の入ったホルスターが付いているのがわずかに見える。

 女子生徒はレイより五センチほど小さく、全体的にふんわりとした雰囲気に包まれていた。彼女の胸が大きく腰はしっかりとくびれ、太ももはむちっとした抱き心地の良さそうな体形をしていた。太ももの裏ぐらいまである長い、茶色のストレートの髪の先端を青いリボンでまとめていた。丸くやや垂れた目に黒い瞳に、鼻はすらっと伸びて口は小さく、唇は少しふっくらして暖かそうにピンク色をした美人でかわいらしい。

 この女子生徒の名前は温守甘菜ぬくもりかんなという。甘菜はレイの従姉で年齢は十八歳。レイと同じく番傘衆で二人は同じ特務第十小隊に所属していた。


「見て見てー。私、一人でもできたよー」


 無邪気に甘菜はスカートの裾をつかみたくし上げていく。レイと比較すると銃身が少し短い拳銃が彼女の太もものホルスターに収納されていた。

 レイには十分に拳銃はみえているが、甘菜は何を思ったのかさらにスカートの裾をあげていく。

 徐々に彼女の黒いタイツに包まれた太ももの全体が見えてくる。わずかにもっちりとした太ももを包む、タイツの奥に透ける黒いレースの下着が、持ち上げられたスカートからのぞいた。思春期の十六歳の少年には少々刺激が強いのか冷夜は顔を赤くし視線をそらした。


「もう! ちゃんと見てよー」


 目をそらしたレイに、スカートから手を離し不満を言う甘菜、レイは彼女の下着が見えなくなるとホッとした顔で恥ずかしそうに口を開く。


「そっそれくらい俺が確認しなくてもいいだろ! 別にさ。だいたい…… 姉ちゃんはまだ出撃できないんだから銃を持つ必要ないじゃん!」

「ムッ」


 レイの言葉に頬を膨らませ、口をとがらせさらに瞳をやや潤ませる甘菜。子供っぽい彼女の反応にレイはあきれ首を横に振る。


「はぁ…… もういいや。俺が悪かった」


 甘菜にレイが謝ると彼女は満足そうに笑う。子供の頃から一緒に暮らす二人。レイは甘菜の機嫌を損なうと、面倒なのをよく理解しており、すぐに彼女に謝るくせがある。


「早く行こうぜ。先輩が迎えに来ちまう」

「はーい」


 ガラス戸の向こうを指し、校舎から出ようとするレイに甘菜は素直に従うのだった。

 校舎から出た二人は早足で正門を飛び出した。正門の前の道路の手前で止まる二人、直後に猛スピードで一台の車が来て二人の前に泊った。二人の前に止まったのは濃い緑色のフロントガラスのみの軍用車両だった。


「おっお待たせしました!!」


 軍用車両のハンドルを握るのは少女で、おどおどした少し自信なさげに二人に声をかける。少女は黒髪を左のサイドテールにし、鼻は小さくすらっとして唇と口は小さい、目は丸くく赤い瞳の上に黒縁の眼鏡をかけていた。

 少女の制服は甘菜と違いキャメルのブレザーに首元に赤いリボンをつけ、下半身は緑と黄色のチェックのスカートで足元は白い短い靴下を履いていた。

 少女の名前は如月未結きさらぎみゆ。背が百五十センチに満たず、幼く見えるがレイと年齢は同じで番傘衆に所属する二人の先輩にあたる。

 二人はすぐに車に乗り込む。レイは後部座席で甘菜が助手席だ。


「いっ行きますよ」


 二人が乗り込むと未結はすぐに車を走らせる。走りだして直後にレイが口を開く。


「先輩、状況は?」

「はっはい。外で資源回収研修中のセントラファエル高校の生徒三十名がオークの襲撃をうけました。三名が死亡。負傷者は多数で四名が行方不明です。現在、飛行連隊のドローンで捜索中。我々特務第十小隊は四名の行方不明者の救助を指示されました」


 前を向いて真面目な顔で、運転しながら未結はレイの質問に答える。

 オークとはゲームやアニメなどによく出てくる魔物だ。体が大きく二メートル近くあり、筋肉が盛り上がったたくましい体に、とんがった耳に豚のような鼻をし、口から牙を生やす醜い顔をしている。知能はあまり高くなく、棍棒や石斧などの武器を使う。丸腰の人間が遭遇すれば、男は殺され女はもて遊ばれる。

 レイ達が住む地球は魔の巣という紫色の雨雲により、異世界とつながり、そこから侵入してきた魔物達によって支配され、人間は小さな町で暮らしていた。


「おしゃべりはおしまいですよ。スピードを上げますから舌をかまないように閉じてください」


 未結はギアを操作しアクセルと踏み込む、車は速度を上げ町を駆け抜けていく。レイと甘菜の二人は彼女に指示に従い黙って車に揺られる。すぐに潮の香りがレイの鼻に届く。車は町をぬけ海沿いの道路へ出て猛スピードで進んでいた。

 海に面した広い埋め立て地の滑走路と数機の航空機が並ぶ景色が見えて来る。ここは自衛隊が会った頃に作られた基地だ。


「はっ!」


 未結はハンドルと巧みに操作し、猛スピードで基地の中へと車両を走らせた。レイは慣れた様子で車両の取っ手をつかんでバランスを取り、甘菜は振り落とされないように必死に取っ手を掴む。

 立派な五階建ての基地の建物の前を通りすぎ、脇に建てられた小さな二階建ての四角い建物の前に未結は車を止めた。建物は一階がガレージで外側に階段が付いて二階に入り口が見える。


「じゃあ甘菜さんはここで」


 車を止め横を向き、助手席にいる甘菜に声をかける未結。


「はーい。二人とも気を付けてね。何かあったらすぐに連絡して」

「あぁ。隊長によろしくな」


 笑顔で甘菜は車を降りて振り向き、手を振りながら四角い建物へと駆けていく。甘菜が降りるとほぼ同時に未結は車を走り出した。


「えっ!? 先輩!? ヤマさんは……」


 慌てて運転席側の座席に、顔を近づけ未結に声をかけるレイだった。振り向いた未結はレイに口を開く。


「ヤっヤマさんは非番です」

「あっ!? そうだった。ごめん。急ごう」

「はい」


 笑顔でうなずく未結は、車の速度を上げて基地の中を駆けていく。山さんとは特務第十小隊のもう一人の隊員だが今日は休日だった。滑走路に出た車は停まっている、一機の輸送機に向け一直線に向かう。

 輸送機はクジラのような形をした船体に後部に二枚の垂直尾翼があり、先端の主翼が前方と船体のやや後方についている。主食の先にはヘリのローターのついたエンジンがついている。輸送機の全長は約三十五メートル、船体の幅は二十五メートルほど、翼を含めた全幅は四十メートルはある。

 この大型の輸送機は番傘衆が開発したV422シャットアウト。四枚の翼の先端についたローターを傾けることで垂直短距離離着陸が可能ないわゆるティルトローター機だ。

 未結は輸送機の開いた後部ハッチから、車ごと内部へ入り停車した。


「ついたね」


 濃い青いパイロットスーツに革の手袋をつけ、サングラスをかけた女性が車両の目の前に立っている。彼女は栗色の手入れされていないボサボサの短い髪の凛々しい。この女性は二十四歳の吾妻加菜あずまかな。特務第十小隊の専属パイロットである。


「あんた達のおもちゃはそこに積んであるからね」


 二人に声をかけ右手の親指で右側の壁を指さした加菜は、さっさと二人に背中を向け操縦席へ向かう。


「あっ! レイ! あんたは慎重にね。あんたが乗ると毎回天井に傷がつくんだから」

「えっ!? はっはい」


 加菜は立ち止まって振り返り、目を吊り上げレイに注意をする。気まずそうに返事をするレイを見て、満足そうに笑った加菜は、すぐにまた前を向き運転席へと消えていった。音がして後部ハッチが閉まり、同時に四基のエンジンが始動しローターが回転し振動がわずかに船内に伝わる。


「襲撃されたのは町から五キロほどの場所です。二分くらいで着きますからすぐに準備です」

「了解」


 レイと未結は車から降り、レイは船内左側の中央部の壁際に向かう。そこには天井から伸びた二本の短い黄色アームか伸びた、ワイヤーの先端にあるフックに黒い人型の鎧のような、物が吊るされていた。

 兜は軍用ヘルメットのような形で左の耳から通信用のアンテナが伸び、顔面も装甲に覆われ両目の部分をめかみの辺りから青いバイザーで覆われている。肩の装甲は丸く、肘から先は金属の装甲に指先まで覆われている。足も膝の上部からつま先まで装甲に覆われ、首や上腕部や太ももの内側や関節部の内側など駆動部は厚い布のような灰色の柔らかい素材が使われている。左肩の装甲に漢字で『特務十』と黒文字で書かれている。

 この鎧はマジックフレームツー、正式名称、外界生物駆除用強化外骨格二番がいかいせいぶつくじょようきょうかがいこっかくにばんという。装備者に車を持ち上げるほどの怪力と、銃弾をなんなく弾く装甲に、ビルを超える跳躍力を与えるパワードスーツだ。

 レイはパワードスーツの背後に回り、外し首の付け根あたりに左手を当てる。するとカチッと音がしてパワードスーツの背中の装甲が開いた首の付け太ももの付け根まで開いた。この状態なら両手足を突っ込むだけパワードスーツを着られる。足と両手を突っ込み、両手でヘルメットを外す。背中の装甲がしまるとレイはヘルメットをかぶった。視界が真っ暗になったが直後に鮮明に周囲が見え始めた。パワードスーツをレイが装備すると黄色のアームから吊るされていたフックが自動で外れる。


「コンニチハ…… レイ」

「シンシア。今日もよろしくな」

「ヨロシクオネガイシマス」


 機械音声がレイに届く。これはパワードスーツのAIシンシアだ。武装の交換や通信などで装備者をサポートしてくれる。

 挨拶が終わると加菜からの通信が、レイのヘルメット内に聞こえる。


「レイ! 未結! 聞こえるかい?」

「「はい」」

「甘菜から連絡がきたよ。監視用ドローンが少し前に山門をくぐって廃寺に逃げ込む要救助者を発見したみたい」

「了解しました。すぐに廃寺へ向かってください」

「わかったよ。魔の巣も近づいてるみたいだ。最悪の場合は要救助者を捨てるのも……」

「大丈夫です。オークなら二人ですぐに片付けます」


 自信に満ちた未結の返事で通信が終わる。


「レイさん。ヤマさんが居ないので私が救助装備を持っていきます。レイさんはすぐに準備をしてください」


 オレンジの装甲のパワードスーツに身を包んだ未結がレイの前へとやってきた。彼女のパワードスーツの形はほとんどレイと変わらないが、足の装甲のふくらはぎの部分がわずかに膨らんでいる、ヘルメットはゴーグルをかけたようになっていて、額に細長い双眼鏡のようなもを装備している。


「わかった」


 右手をあげ返事をしたレイは船尾の方へ向かう。彼が向かった先にパワードスーツが吊るされていたと同じアームがあり、何も吊るされていないがアームの間に置かれた台座に、円筒型をしたスラスターがついた、バックパックと細長い木製の箱が置かれていた。

 木の箱は高さ五十センチで、幅五十センチの四角くで長さは二メートルほどある。バックパックは二本ベルトが付いた円形の薄い装甲に、装甲から伸びた二本の太いアームの先にスラスターが取り付けられている。レイはバックパックを背負った。背負うと同時にカチッと音がし、ベルトが外れて装甲の中へ引っ込んだが、バックパックは外れずに固定されている。続いてレイは木の箱を開ける。箱の中には太刀と一メートルほどの打ち刀にコンバットナイフの三本があり横に小さな銃のケースがある。

 レイはまず打ち刀を左の腰にさし、コンバットナイフが入ったベルト付の鞘を右の太ももに装着する。次にレイは銃のケースを開けた。中にはサブマシンガンが入っていた。マガジンを抜いて中身を確認したレイは、安全装置をかけサブマシンガンを腰に装着する。


「おっと…… うるせえから気を付けねえとな」


 最後に箱から太刀をだし鞘から引き抜き右手に肩にかつぐ。かつぐ際に太刀の切っ先が天井にかすりそうになる。


「準備できた」


 レイは太刀をかついだまま、背後に居た未結に声をかける。未結は背中に大きなリュックを背負い、口径の大きな巨大なライフルを軽々と左手に持っていた。ライフルはレイの太刀よりも長く二メートルを超え、機関部にある弾倉は三十センチ近くあり、銃身の先端に装着された四角い、マズルブレーキは拳よりも大きい。


「廃寺の上空だよ。ハッチをあける」


 音がして後部ハッチが再度開いていき風が吹き抜けていく。開いたハッチから小さな森に囲まれた今は使われてなく屋根の一部が崩れた寺が視界に入る。


「それじゃあ…… 先輩。行くか」

「はい!」


 左手を未結に差し出したレイ、彼女はうなずいて彼の手をつかむ。二人は一緒に走り出して輸送機から飛び降りた。同時にレイが背負ったスラスターが点火して光を放つのだった。

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