第3話 救出成功!?

 陽菜乃の鼻先に突きつけられた太刀、刀身は磨かれた刀身は輝き切っ先から冷たく静かな殺意が放たれている。

 オークの顔はつぶれ、支えを失った生気のない目玉が飛び出し垂れ下がり、裂かれた肉の間からからつぶれたピンクの脳みそがはみ出している。

 陽菜乃は小便を漏らしながら、目の前でただの肉片とかしたオークを黙って見つめていた。彼女の足先の畳には小便の水たまりが出来ていた。


「えっ!? キャッ!」


 太刀がわずかに引かれると同時にオークの体が、糸が切れた人間のように下に倒れた。同時に手をつかまれた陽菜乃の拘束が取れ彼女も地面に落とされたしりもちをついた。太刀が地面に投げ捨てられたのだ。

 陽菜乃の目にオークの背後に立って居たパワードスーツを着たレイの姿が見える。


「レイさん! 後ろ!」

「わかってる」


 レイの耳に未結の声が届く。彼は返事をし腰に刺していた、打刀を右手で握り、鞘を左手で押さえ振り返る。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 棍棒を振りかざし叫び声をあげる、オークがレイの前に飛び出して来た。

 レイは振り向きながら打刀を抜き、振り返ると同時に打刀でオークを斬りつけた。レイの刀は鋭く伸び振り下ろされようとしていたオークの腕を上腕の真ん中あたりで切り裂いた。レイの打刀が振りぬかれた、本堂の天井と周囲の畳にオークの赤い血しぶきがふりかかる。


「えっ!?」


 吹き出した血は陽菜乃にも降りかかった。頬を生暖かい液体が伝う気色の悪い感触がする。オークの右腕は斬られ空中を回転し、陽菜乃の近くへと落ちた。腕から出た血が畳を赤く染めていく。オークは腕から血を吹き出しながら後ずさりした。


「さよならだ!」


 レイは素早く右手を戻し腕を引き、切っ先をオークの喉元へ向けた。そのまま右腕をまっすぐに突き出す。


「ウギ!!!」


 突き出された打刀の切っ先はオークの喉を貫き首を貫通した。オークの目を大きく見開き声にならない声をあげた。急速にオークの目から光が失われ左腕が力なくダランと下ろされた。

 レイは左手をオークの肩にかけ押し同時に右腕を引いて打刀を抜いた。刀身についた血を振り払い、打刀を鞘に納め陽菜乃に体を向けた。

 尻もちをついた姿勢で呆然とレイを見つめていた陽菜乃。オークが倒れ少しだけ冷静になった頬を伝う液体の感触が嫌になりを手で拭った。頬を拭った手を確認した彼女に、自分の手が真っ赤に染まっているのが見える。


「キャアアアアアアアアアアアアア!!!」


 オークの血がべっとりとついた、自分の手を見て悲鳴を上げる陽菜乃だった。慌ててレイは彼女の前にしゃがんで、悲鳴をあげている口元を優しく手で押さえる。


「静かにしろ…… まだ敵がいる」


 パワードスーツからレイの声が出る。人の声に安堵したのか、陽菜乃は呆然とレイを見つめて静かになった。


「俺は番傘衆、特務第十小隊のレイだ。君たちを救助に来た」


 顔を女子生徒へ向けるレイ、女子生徒は恐怖でしゃがみ頭を押さえてうずくまっていた。レイは顔を再びに陽菜乃に向け彼女に右手を差し出す。


「立てるか?」


 小さくうなずいてレイの右手をつかんだ。レイは彼女の手を引っ張り立ち上がらせた。しかし……


「キャッ」


 立ち上がった陽菜乃だったがすぐにまた尻もちをついてしまった。どうやら腰が抜けてしまった。尻もちをついた陽菜乃を見たレイは小さく首を横に振った。


「しょうがない」

「えっ!?」


 レイは陽菜乃の背中に右手をまわし両膝の下に左手を入れ持ち上げた。お姫様だっこをされた陽菜乃は恥ずかしそうに頬を赤らめる。レイは陽菜乃をうずくまる女子高生の元へと連れて行き座らせた。


「レイさん!? さっき悲鳴が聞こえましたけど」

「あっ。大丈夫。四名のうち二名は確保。一人は死亡。残りの一人は逃亡…… いや…… 見つけた」

「えっ!?」


 通信を途中で終わらせレイは、打刀に手をかけ薄暗い本堂の向こうに視線を向けた。暗闇の中から浮き上がった薄い青色のジャージの裾とスニーカーが見える。


「あがあが……」


 苦しそうな声を上げるルイの姿が崩れた屋根から差し込む夕日に照らされ見えて来た。彼の頭にオークの爪がめり込んでいた。すぐにルイの頭をわしづかみにしたオークがゆっくりと三人の前に現れた。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 威嚇するように牙を向き鳴き声をあげる。苦痛に顔を歪めるルイ、陽菜乃と女子生徒はオークの声に恐怖で震え抱きあっている。

 レイは二人をかばうように前に立ち、左手で鞘を持ち右手を打ち刀の柄の上に置き、ジッとオークを見つめていた。


「先輩。状況は見えてるよな?」

「はい。レイさんの二メートル後ろの壁の向こう縁側にもう一匹かくれてます」

「俺が動いたら背後から襲うってか…… ふん。オークの浅知恵ってやつだな」


 前面の人質でレイの気をひき、背後から彼を襲おうというのがオークの算段のようだ。


「後ろのは私が片付けます。前の駆除をお願いします」

「わかった。さっさと片付けよう」


 レイは小さくうなずく視線を上げある方角を見つめる。レイ見つめる方角に山門があった。本堂は屋根が崩れているが、山門は健在でしっかりとその形を残していた。

 山門の屋根に未結がいて膝をつき、スナイパーライフルを構え本堂へと向けていた。スナイパーライフルにスコープはなく、ヘルメットについていた双眼鏡のようなゴーグルをさげジッと彼女は山門を見つめている。


「三、二、一で行きますよ」

「わかった」


 未結の視線はゴーグルにより、左右で違う映像を映しており、左はサーモグラフィで体温が高く赤く映るオークとレイの姿が見えている。右目は本堂の壁が間近に見えている。徐々に彼女の右目が青く光り出していく。右目が光ったまま未結はライフルの引き金に指をかけた。


「三、二、一!」


 けたたましい銃声が寺院に轟く。未結が持つスナイパーライフルが反動でわずかに上に動き黒い煙と火花が銃身の先につけられたマズルブレーキから吐き出され、撃ちだされた銃弾が本堂へとむかっていく。

 本堂の中をすさまじい風圧をあげながら未結が撃った、銃弾が通り抜けていった。彼女が放った銃弾は本堂の屋根と壁と貫通し勢いを失うことはなく、レイの背後の後ろに身を潜めていたオークの胸に当たった。オークの体銃弾で半分にちぎれた。命中した胸の舌から頭を太ももと腕の手首付近だけを残し粉々に砕けた。

 レイはオークの前にいつの間にか移動していた。陽菜乃を始め本堂にいた者は全てがレイの動きを捉えることはできなかった。それもそのはず、彼の姿は銃声と同時に消え、て一瞬でオークの前に移動していたのだ。オークの前に立ったレイ、彼は足を曲げ体勢を低くし懐にもぐりこみ、腰にさした打刀の柄を左手に握り、右手は柄を掴んで刀を抜く。


「グギャ!????!!!!!!!!!!!????」

「うわあああああああ!!」


 レイは打刀を抜き即座に右斜め前に振り下ろし、ルイを掴んでいたオークの左腕を切り落とした。ルイとオークの左腕は畳へと落ちていった。レイは刀を返しオークに刃をむけると畳を滑らせるようにして横を振りぬいた。

 振りぬかれた刀はオークの両ふくらはぎを切り落とす。バランスを崩し背後に崩れるようにオークは仰向けに倒れた。畳にはオークのふくらはぎから下が血を吐きながら立っていた。レイは前に出ながら、右手に持っていた刀を逆手に持ち替え倒れたオークの左脇辺り立つ。オークは何が起きたのかわからず呆然と天井を見つめている。


「さよならだよ」


 打刀を両手で逆手でもつと、レイは静かに下した。右手に軽く感触がレイに伝わる。彼はオークの体に刀を突き立てた。オークは声をあげることなく目は光を失い動きを止めて絶命した。

 

「ふぅ。終わった…… 先輩! 外の様子は?」


 小さく息を吐いてレイは打刀の柄を両手で握ったまま未結に声をかける。


「周囲に敵影はありません。救助者搬送の手配をしたらそちらに向かいます」

「了解」


 すぐに未結から返事が来た。レイはオークから打刀を抜いて鞘におさめる。レイはオークに人質にされたルイの元へと向かう。ルイはオークの拘束が解けたまま畳の上に座って呆然としていた。オークの左腕はずり落ちて畳の上に転がり、彼のジャージのポケットから拳銃のグリップがのぞいていた。


「大丈夫か?」

「あぁ……」


 ルイはレイが声をかけると返事をし、右手を向け彼を制止し一人で立ち上がった。フラフラを歩き陽菜乃たちの元へと歩くルイ、レイはその後ろをついていく。しかし、近づいて来たルイを見た陽菜乃は立ち上がり、彼を睨みつけ右手を振りかざす。


「最低!!!」


 パチーンという大きな音が響く。陽菜乃がルイを平手打ちにしたのだ。ルイは顔を横に向け、相当の威力があったのかルイの唇の横が切れて血が垂れている。


「てめえ!!! 何しやがる!!!」


 ルイが顔を前に向け頬を押さえながら陽菜乃を怒鳴りつけた。レイは慌てて二人の間に立って手を広げ二人を遠ざける。


「なにしてんだ!? 喧嘩してる場合じゃねえだろ!!!

「こいつはこんな状況なのに私と彼女をおもちゃにしようとしたのよ!!」


 陽菜乃はレイにルイが自分達にした仕打ちを説明する。ルイは右手のポケットに手を持っていった。


「クソアマが! 下手に出てりゃいい気になりやがって!!!」


 ルイはポケットから拳銃を取り出し両手に持って陽菜乃に向けた。銃をだしたルイにレイは体を向け、あきれながら声をかける。


「おい。それはおもちゃじゃない! やめろ」

「うるせえ!!! つべこべ言うならお前も殺すぞ!」


 レイを睨みつけルイは彼に向かって拳銃を向けた。

 首をかしげたレイは銃口を向けるルイに向かって歩き出した。パワードスーツを着た彼は、拳銃で撃たれたとしても傷ひとつつくはことはない。ただ…… 跳弾をすると陽菜乃や女子生徒が怪我をしてしまうが……


「なっ!? おい! 俺は本気だぞ!! ファっ!?」


 引き金に指をあてルイが必死に叫んだ。

 しかし、レイは歩みを止めずに彼の手前に来て、銃身をつかんで強引に彼の手から拳銃を奪い取った。レイは奪い取った拳銃を目の前にかざし、何かを確認するようにまじまじと見つめる。


「はぁ…… 壁の外にでるなら真面目に戦闘訓練を受けとけよ。銃っていうのはセーフティを解除しないと撃てないんだぞ」


 説明しながら銃のグリップをもって、親指で横にある安全装置のレバーを下げスライドさせた。直後に彼はルイの足の甲に向けて発砲した。


「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 足が! 足がああアアアアアアア!!!!」


 銃はルイの靴をつらぬいた。足が焼けるような感覚し激痛がルイを襲う。彼は耐え切れずに転がりまわる。レイは転がるルイの腹を軽く蹴った。


「ギャッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 蹴られたルイは転がるのやめ声をあげた。レイはしゃがんでルイの髪の毛をつかんで自分の方へと引き寄せる


「後でしっかり治療してもるから心配すんな。後…… いてえだろ? これはむやみに人に向けるもんじゃねえんだよ。わかったか?」


 ルイを撃った銃を彼の前にレイはつきつけた。黙りこむルイ、レイは雑に彼の髪から手をはなし立ち上がる。右手についた彼の髪をレイは汚物を捨てるように振り払い太ももの辺りでかるくこする。


「レイさん!? いま銃声がしましたけどなにかありましたか?」

「あぁ。ごめん。誤射だよ。気にしないで」

「わかりました」


 未結からの連絡をうけごまかすレイだった。彼は通信を終わらせ、陽菜乃の前に行き彼女に拳銃を差し出した。


「あんたもあんただ。生徒を守る立場のあんたが拳銃を奪われてどうするんだ」

「ごっごめんなさい……」

「まぁいい。大事にしろよ」


 しょんぼりとしレイから陽菜乃は拳銃を受け取るのだった。

 すぐに山門から下りた未結が本堂への中へとやってきた。


「お疲れ様です。すぐに迎えがきますからね」


 優しく陽菜乃たちに声をかけ、未結はリュックを下した。中から毛布を取り出し、下着姿の陽菜乃と女子生徒をかけている。二人が脱いだジャージは、戦闘でオークや小太りの男子生徒の血によって汚れていてとても着られる状態ではなかった。


「未結先輩。傷薬ってありますよね?」

「ありますよ。私が探しますよ」


 陽菜乃たち横で倒れ、足を押さえているルイを指でさしながらリュックを漁るレイ。未結は返事をして彼の元へと向かう。


「おい! あいつは俺の足を…… 拳銃で撃ったんだ! 訴えてやるからな!」


 苦痛に顔をゆがめ、足から流れる血を押さえながらレイを指さて叫ぶルイだった。未結はレイに顔を向けた。


「レイさん。さっきの銃声って……」

「あぁ。俺が撃ったんだ……」


 あっさりと撃ったことを認めるレイだった。その後、間をあけずに彼は口を開く。


「オークをな。手元が狂ってあいつの足に当たっただけだ」

「もう……」


 首を横に振ってレイにあきれる未結だった。彼女はレイの態度から彼がルイを故意に撃ったことが分かる。


「おい! こいつは嘘をついてる。手元がくるったんじゃなくて俺を狙って…… この責任は……」

 ルイは未結に向かって怒鳴りつける。聞こえてくる声が女性だから未結に訴えているのだろう。未結は倒れているルイに視線を向け淡々と話を始める。


壁外特別治安法へきがいとくべつちあんほうにより。ここでの番傘衆による民間人への殺傷については故意でも過失でも罪に問われません」

「なっなんでだよそれ! こいつは俺を拳銃で撃って蹴ったんだぞ!!!」

「えぇ。それはごめんなさい。でも…… 私たちが居る場所は人間の法律は通用しない場所なんです! 今だって魔の巣が近づいて来てます。不測の事態があれば私達も魔物が降る中に置いていかれるんです!!」


 必死な未結の言葉にルイは納得いかないって顔をする。


「あのさ。先輩が言った法律はさ。お前が彼女達にした仕打ちも罪に問えねえんだ。それでいいだろ?」


 レイは前に出てルイの前にしゃがみ、女子生徒と陽菜乃を指し詰め寄る。ルイは視線をレイからそらし黙り込んでしまった。


「げっ厳密に言うと民家人同士での犯罪は訴えれば裁判は可能です。でも、壁の外は常に緊急時ということで法律より個人の判断が優先され不起訴になる可能性が高いです」

「先輩…… そんな細かいことはいちいち言わなくても……」

「えぇ!? ごっごめんなさい」


 レイの指摘に未結は恥ずかしそうにうつむくのだった。

 未結はルイの傷の応急処置を施し、しばらくして手配した救助隊がやって来て三人を連れて行く。


「ありがとう…… 助けてくれて」


 生徒が運び出され最後に陽菜乃が、レイと未結に挨拶にやってきた。


「大丈夫ですよ。私たちの任務ですから」


 未結が謙遜して答える。陽菜乃は彼女を見て微笑み、その笑顔をレイにも向ける。


「そうそう。先輩の言う通りだ。俺達は仕事をしただけだ。だからこの畳を汚したこととかもさ気にしないで……」

「レイさん!!!」


 何の気なしに畳の上を指すレイ、横に居た未結は慌てて彼に向かって叫ぶ。レイは陽菜乃が小便を漏らして痕が残っている畳を指した。陽菜乃の顔は一瞬で真っ赤になる。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 悲鳴をあげてうずくまる陽菜乃だった。悪気のなく励ましたつもりだったレイは、恥ずかしすぎて悲鳴をあげた陽菜乃を見て首を傾げ、未結は頭を抱えるのだった。

 その後、陽菜乃を搬送するために戻って来た救助隊にレイ達は怪訝な表情をむけられるのだった。こうして任務は終わり、レイ達は無事に基地へと帰還したのだった。

 なお、基地に帰還したレイは、未結と事情を聴いた甘菜からデリカシーがなさすぎると、二時間ほど締められたのだった。

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