ep.21 転移勢力の衝突3



鎌倉幕府 某所



「では決行は明後日、0300でよろしいか?」



「いや、まだ根回しが不十分だ。あと一週間はほしい」



「馬鹿なことを言うな! 一週間もすれば奴が隣国を掌握して莫大な権力を手にしているぞ!」



「だが根回しのない状態で無理に動いても戦車で鎮圧されるだけだ!」



そこには現在の鎌倉幕府上層部に不満を持つ軍高官が集まっていた。


彼らは国内の小規模な国家には手を出さずにさっさと海軍を強化して朝鮮や中国といった大陸の国への影響力を強めるべき、という派閥に属していた。


一方現鎌倉幕府将軍、安原陽介はまずは天下統一を果たすべきであり、他国への干渉はそれからだという派閥であった。


元々は会議で言い争っていただけの両派閥だが、勢力が互角であったため前者が海軍派、後者が陸軍派とどんどん啀み合いの規模が肥大化。


陸軍にしてみれば、陸軍が港や石炭を確保しているからこそ船が活動できるのであるし、


海軍にしてみれば、海軍が海上の安全を守っているからこそ兵器に使う金属を離島から運んでこれるのである。



「あのー...それらの問題ならば我ら海軍陸戦隊がなんとかしますよ?」



「え? マジで? じゃあもうそれでいいじゃないか」



「そうしよう!」



「作戦はすぐにでも行おう! 明日の0300でいいか?」



「異議なし!」



醜い派閥争いに興じているとはいえ、元々はただの学生であるから素直に間違えを認めて改めるという子供らしい部分はまだ残っていた。



ーーーーーー


翌日...



パキーーーーン



フラッシュバンの音とともに突入。



「GOGOGO!!」



パスパス、といったサプレッサーの乾いた音が響き、衛兵が倒れる...銃声は部屋の中でしか聞こえないが。



「クリア! クリア! クリア! オールクリア!」



「くそ! 逃がしたか!」



将軍の執務室に海軍陸戦隊が突入したものの中はもぬけの殻。


誰もが、感づかれていたか!と思ったものの、この時将軍は夜にしかできぬ”所用”のため護衛も連れずにお忍びで外出していた。


...所詮はガキである。



そしてその将軍はと言うと...



「急速潜航! 急げ!」



海軍派に対抗するために陸軍が極秘開発した潜水艦で脱出を試みていた。



「もっと急げ! 食料だってほぼ無いんだぞ!」



「これ以上は駆逐艦に探知されます。あと大声も探知されますのでどうか我慢を。」



「...あ、そうだったな。すまない。あとは頼んだ」



気まずくなった将軍は空いていた士官用の部屋にこもってしまった。


しかし邪魔者がいなくなり艦長としては安心できる。



「充電はあとどれぐらい持つ?」



「巡航速度ならあと15kmほどは行けそうですが、今は複雑な湾内で速度が出せず燃費が悪いため悪くて5km、良くて8kmかと。しかも駆逐艦が邪魔で迂回する必要もありそうです」



「これでは湾外に出てもすぐ充電せねばならぬな...だがそれでも湾内で見つかるよりマシだ」



ありったけのモバイルバッテリーを積んだとはいえ、流石に潜水艦を動かすのには足りず所々で海上に管を出しいて酸素を取り込み、それでエンジンを回して発電する必要があった。


しかし海上に管を出して排気ガスを撒き散らすのはいくら夜とはいえ自殺行為。


何とかならないものかと艦長は頭を悩ましていた。


ちなみにこの時陸軍航空隊の滑走路には大量の石や手榴弾が投げ込まれており、とても離陸はできそうになかった。



ーーーーーー



「まだ幕府のやつらには動きがないか...敵の射程がわからないと容易に近づけぬ...」



「深夜になれば制空権は我々幕府軍のもの! それまでは暇でも耐え忍ぶのだ!」



エンジンや履帯が破壊され自走不能になった74式戦車を前に、日帝の国境警備軍と鎌倉幕府の特殊部隊は数時間睨み合っていた。


そんな中...



「隊長、本国より緊急通信!極めて重大な案件であることから隊長に直接話しがしたいと」



「緊急通信か...どうせ航空隊の奴らが道に迷ったとかだろ...こちらは第零特別任務部隊隊長であります! 緊急通信とは、一体何事でしょうか?」



軽口を叩きながらも電話を取ればちゃんと威勢よく喋る。ちなみに名前を言わないのは特殊部隊だからである。



「え、なんですって? はっ、了解いたしました! すぐに実行します!」



焦った様子の隊長に部下たちの視線を集まる。



「お前ら! サーチライトとメモ帳を用意しろ! 日帝に接触する!」



ーーーーーー



「艦長、暗号文です。えー、救援のため水上機が来る。乗組員はそれに乗り移られたし。ちなみに船は沈めて構わない、とのことです。合流地点については...」



非常事態のため海上にアンテナだけ出していたのが正解だった。



「そうか...だがどうせ沈めるのなら最後にどでかい花火をあげようではないか。対水上艦戦闘用意。1番から4番魚雷装填。各自のタイミングで適当な目標に発射せよ」



船を捨てるのは気に食わないが、海軍の連中に捕まるよりはマシだ。そう思い戦闘を始める。



「対水上艦戦闘用意。1番2番魚雷装填。各自のタイミングで適当な目標に発射せよ。フフフ、艦長ならそうおっしゃると思いましたよ」



副長が復唱した後に、ポゴンポゴンという音とともに2発の魚雷が発射され、停泊中の軽巡に向かった。


少し遅れて残りの2本も停泊中の駆逐艦に一発ずつ発射された。



「よし、あとは合流地点に向かうだけだな」



戦果確認もせずに潜水艦は湾外に去っていった。



ーーーーーー



「急げ! 増槽も全部つけろ! 夜間飛行で道に迷うかもしれんからな!」



隼や飛燕、F-1支援戦闘機(ジェットエンジンは未完成)といった極秘開発されている機体を試験運用し、万が一法皇国の二式複座戦闘機が裏切っても鎮圧できるよう離島に建設された極秘拠点。


そこに物資運搬用として配備されている二式大艇...ではなくエンジンの出力が足りないため双発機かつ搭載量も激減した二式大艇もどきの発進準備を進める。

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